3行まとめ
- 算数のつまずきは「計算ができない」とは限らない。令和7年度の調査では、分数のたし算を計算する問題の正答率が81.5%だったのに対し、同じ計算の仕組みを言葉で書く問題は23.3%だった。
- 調査全体でも、知識・技能65.7%に対し、思考・判断・表現は48.5%、記述式は35.2%。
- 家庭でできるのは、同じ問題をくり返させることより、「どこまで分かっていて、どこで止まったか」を一段ずつ確かめること。
この記事でわかること
- 算数のつまずきが実際にどこで起きているか、公的調査でわかる整理
- 学習指導要領が算数で育てようとしている力の考え方
- 「どこで止まったか」を家庭で見つけ、責めずに支える手順
「昨日はできたのに」が起きる時
宿題のプリントを広げた子どもが途中で止まっています。最初の何問かはすらすら解けているのに、文章題に入ったところで鉛筆が止まる。「何がわからないの」と聞いても、返ってくるのは「全部」。算数の一問を解くまでには、問題文を読んで場面を思い描き、どの数量とどの数量が関係しているかを見つけ、使う計算を決め、計算し、答えが問われていることに合っているかを確かめる、という何段もの階段があります。子ども自身は、自分がどの段で止まったのかを言葉にできないことがほとんどです。
その状態で同じ問題をもう一度やらせても、たいていは同じところで止まります。逆に、止まった場所が一つ見つかれば、そこだけを補えばよいことになります。
調査が映す、算数のつまずきの場所
手がかりになるのが、文部科学省と国立教育政策研究所が実施している全国学力・学習状況調査です。令和7年度の調査は令和7年4月14日から17日に、小6と中3の全児童生徒を対象とする悉皆方式で実施され、小学校算数の集計対象は949,125人、平均正答数は16問中9.3問、平均正答率は58.2%でした。
とりわけ考えさせられるのが、同じ単元に置かれた二つの問題の落差です。大問3では、分数のたし算が二つの形で問われました。一つは「1/2+1/3を計算する」問題。もう一つは「3/4+2/3について、共通する単位分数と、3/4と2/3が、共通する単位分数の幾つ分になるかを書く」という、仕組みを説明する問題です。計算する問題の正答率が81.5%だったのに対し、仕組みを説明する問題は23.3%、無解答率は15.6%でした。
この落差は大問3だけの話ではありません。観点別では、知識・技能を問う問題の平均正答率65.7%に対し、思考・判断・表現を問う問題は48.5%。問題形式でも、選択式67.4%、短答式64.2%に対して記述式は35.2%でした。多くの子どものつまずきは「計算ができない」ことではなく、「なぜそうするのかを言葉にできない」ところに現れています。
もう一つ、つまずきが学年をさかのぼって残っている場合があります。同じ大問3の「数直線上に示された数を分数で書く」問題は正答率35.4%、無解答率7.8%。これは第3学年で扱う内容です。目の前でつまずいているのが6年生の単元でも、実際に止まっている段はもっと手前にあることがあります。
領域別(数と計算62.5%、データの活用62.8%、変化と関係57.7%、図形56.4%、測定55.0%)に突出して低いところはありません。ただ、低かった問題には共通した性格があります。「台形を選ぶ」50.5%、「五角形を二つの図形に分割し、それぞれの面積の求め方を書く」37.3%、「10%増量したハンドソープの内容量が、増量前の何倍かを選ぶ」41.3%、「適切なグラフを選び、増減を判断してそのわけを書く」31.2%。手順をなぞるのではなく、意味を捉え直す問題です。
小6に「算数の勉強は好きですか」とたずねた結果は33.8%・24.2%・21.4%・20.5%。平成27年度と比べると「当てはまる」は38.8%から下がり、「当てはまらない」は14.0%から上がっています。苦手意識は珍しいことではありません。
算数が育てようとしている力 ― 学習指導要領の考え方
なぜ調査は「説明する力」をこれほど重く問うのか。文部科学省の「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編」は、算数科の目標を「数学的な見方・考え方を働かせ、数学的活動を通して、数学的に考える資質・能力を育成すること」とし、その資質・能力を、日常の事象を数理的に処理する技能、見通しをもち筋道を立てて考察する力、学んだことを活用しようとする態度、の三つの柱で示しています。
「数学的な見方・考え方」は、「事象を、数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え、根拠を基に筋道を立てて考え、統合的・発展的に考えること」と整理されています。「数学的活動」についても、単に問題を解決することのみならず、解決の過程や結果を振り返って捉え直すことが大切だと述べられています。
つまり算数の授業が目指しているのは、計算のスピードや正確さだけではありません。筋道を自分でつくり、人に説明できるところまでを含めて「できる」と考えている。○が並んでいても筋道が通っていないこともあります。
「どこで止まったか」を家庭で見つける4ステップ
家庭で取り組む方向は、同じ問題を反復させるのではなく、階段のどの段で止まっているのかを一緒に探すことです。
①読み直す。「この問題、何を聞かれてるんだろうね」と、問題文を子どもの言葉で言い直してもらいます。ここで詰まるなら、止まっているのは計算ではなく読み取りの段です。
②目に見える形にする。図や数直線、テープ図、おはじきなど、目で見える形にしてみます。分数でつまずいている子には、数直線を書いて「1をいくつに分けたうちのいくつ分か」を指でたどってもらうのが有効です。
③一段ずつ下りる。それでも進まないときは、学年をさかのぼることをためらわないでください。すらすら答えられるところまで来たら、そこが今の土台です。戻ることは後退ではなく、足場を見つける作業です。
④1問だけ説明してもらう。解けた問題を一つ選んで「これ、どうやって考えたの?」と聞きます。説明できたところが、本当に分かっているところ。間違い直しは答え合わせと間違い直しを、親子のバトルにしない、問題文の読み取りは読解力を家庭で育てる ― 「読み取って、自分の言葉で説明する」力もあわせてご覧ください。
家庭で試す3つの工夫
- 「どこまで分かる?」で一段ずつ下りる:「わからない」と言われたら「どこまでは分かった?」と聞き、答えられるところまで問いを易しくします。分かる地点が見つかったら「じゃあ、その次はどうなると思う?」と一段だけ上がる。
- 1日1問、説明の主役を子どもにする:解けた問題を一つ選び、「先生になって教えて」と親が聞き役に回ります。人に説明しようとすると頭の中で順序が整理され、あいまいだった部分に子ども自身が気づきます。3分で十分です。
- 買い物やレシピで「見方」を使う:「10%増量って、どれくらい得なんだろうね」「4人分のレシピを3人分にするには?」と、暮らしの中の数を一緒に考えます。机の上では入りにくい割合の感覚が、生活の場面だと素直に入ることがあります。
声かけの言い換え例
- 「なんでこんな問題が分からないの」→分からないこと自体を責める響きになる。
- 「どこまでは分かった?」→分かっている地点を一緒に探す問いになり、止まった段を特定できる。
- 「もう一回、最初からやり直して」→同じ段でまた止まりやすく、「できない」感覚だけが積み上がる。
- 「これ、どうやって考えたの?」→筋道を言葉にする機会になる。
家庭で確認するチェックリスト
- 「わからない」と言われたとき、「どこまで分かった?」と聞き返している。
- 数だけで考えさせず、図や数直線など目に見える形にする時間がある。
- 必要なときは、前の学年の内容までさかのぼることをためらわない。
- 正答数だけでなく、途中の筋道が通っているかにも目を向けている。
- 1日1問でいいので、自分の言葉で説明する機会をつくっている。
家庭の工夫だけで抱え込まないために
算数の力の育ち方には個人差が大きく、同じ学年でも進み方に差があるのが自然です。「算数が苦手な子」とラベルを貼ることは、かえって算数から遠ざけます。止まった段が一つ見つかったら今日はそれで十分、というくらいの気持ちで進めるのが安全です。
一方で、家庭の工夫を重ねても数の扱いに強い困難が続くときは、一人で抱え込まないことも大切です。文部科学省が令和4年に実施した「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」では、学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の割合は8.8%、学習面では6.5%、そのうち「計算する」又は「推論する」に著しい困難を示すとされた割合は3.4%と推定されています。ただしこれは学級担任等の回答に基づく推定であり、医学的な診断ではありません。
気になることがあるときは、まず担任の先生に学校での様子をたずねることから始められます。校内委員会や通級による指導といった仕組みもあり、学校以外では自治体の教育相談窓口や教育センターに相談する選択肢もあります。
出典・参考
- 国立教育政策研究所「令和7年度 全国学力・学習状況調査 報告書 小学校 算数」
この出典で確認した記述
小学校算数の集計対象児童数949,125人・平均正答数9.3問/16問・平均正答率58.2%、領域別平均正答率(数と計算62.5%/図形56.4%/測定55.0%/変化と関係57.7%/データの活用62.8%)、評価の観点別(知識・技能65.7%/思考・判断・表現48.5%)、問題形式別(選択式67.4%/短答式64.2%/記述式35.2%)、および各設問の正答率(3(4)「1/2+1/3を計算する」81.5%、3(2)「3/4+2/3について、共通する単位分数と、3/4と2/3が、共通する単位分数の幾つ分になるかを書く」23.3%・無解答率15.6%、3(3)「数直線上に示された数を分数で書く」35.4%、2(2)「五つの図形の中から台形を選ぶ」50.5%、2(4)「五角形を二つの図形に分割し、それぞれの図形の面積の求め方を書く」37.3%、4(4)「10%増量したつめかえ用のハンドソープの内容量が、増量前の何倍かを選ぶ」41.3%、1(2)「適切なグラフを選び、出荷量の増減を判断し、そのわけを書く」31.2%)の根拠。 - 国立教育政策研究所「令和7年度 全国学力・学習状況調査 報告書 質問調査」
この出典で確認した記述
小学校6年生の「算数の勉強は好きですか」への回答(当てはまる33.8%/どちらかといえば、当てはまる24.2%/どちらかといえば、当てはまらない21.4%/当てはまらない20.5%)と、平成27年度(当てはまる38.8%/当てはまらない14.0%)からの推移、令和7年度に新設された「算数の勉強は得意ですか」への回答(当てはまる31.3%/どちらかといえば、当てはまる29.0%/どちらかといえば、当てはまらない22.3%/当てはまらない17.2%)の根拠。 - 文部科学省「令和7年度全国学力・学習状況調査の報告書・集計結果について」
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編」
この出典で確認した記述
算数科の目標が「数学的な見方・考え方を働かせ、数学的活動を通して、数学的に考える資質・能力を育成すること」であり三つの柱で示されていること、「数学的な見方・考え方」が「事象を、数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え、根拠を基に筋道を立てて考え、統合的・発展的に考えること」と整理されていること、「数学的活動」が「事象を数理的に捉えて、算数の問題を見いだし、問題を自立的、協働的に解決する過程を遂行すること」であり過程や結果の振り返りが大切とされていること、算数で鍛えられた見方・考え方が大人になって生活していくに当たっても重要な働きをするとされていることの根拠。 - 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について」
この出典で確認した記述
小・中学校において学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の割合が8.8%、学習面で著しい困難を示すとされた割合が6.5%、「計算する」又は「推論する」に著しい困難を示すとされた割合が3.4%と推定されること、および本調査が学級担任等の回答に基づくものであり医学的診断や特別な支援の必要性の判断を示すものではないことの根拠。
この記事について
本記事は家庭での工夫を整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や治療の判断に代わるものではありません。研究知見や公的資料は「一つの考え方」として紹介しており、家庭ごとに合う・合わないがあります。お子さんの状態が気になる場合は、専門機関や学校にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。