3行まとめ
- 育児・介護休業法の制度の多くは、会社の就業規則に書かれていなくても、本人が会社に申し出る・請求することで利用できます。まず「あるものを知る」ことが土台になります。
- 令和7年4月の改正で、子の看護等休暇の対象が小学校3年生修了までに広がり、取得できる理由に感染症に伴う学級閉鎖等と入園(入学)式・卒園式が加わりました。残業免除も小学校就学前の子までに拡大されています。
- 制度は「知っていて、先に決めておく」ほど使いやすくなります。どの場面で誰がどの制度を使うかを夫婦で話し、申出先を確認しておくところから始められます。
この記事でわかること
- 子どもの病気・行事・帰宅時間という家庭の場面に、どの制度が対応するのか
- 「就業規則に書かれていなくても使える」制度と、会社の定めによる制度の違い
- 令和7年(2025年)の改正で広がった範囲と、新しく選べるようになった働き方
- 制度を実際に使うために、夫婦で先に決めておく3ステップ
「今日、どっちが休む?」の朝
この慌ただしさの背景には、時間のなさだけでなく「使える札を知らない」という問題が隠れています。子どもの看病で休むときに年次有給休暇しか選択肢がないと思い込んでいれば、有給の残りが心細くなるほど家庭は追い込まれます。「有給を削るしかない」と思っていた場面に別の選択肢があると分かるだけで、朝の判断は少し落ち着きます。
家庭の場面別に見る、制度の地図
制度の名前から覚えようとすると混乱しがちなので、家庭で実際に起きる場面から逆引きしてみます。
子どもが病気やけがをしたとき、予防接種や健康診断を受けさせるときに使えるのが「子の看護等休暇」です。小学校3年生修了までの子を育てる従業員は、対象の子が1人なら年5日、2人以上なら10日まで、1日または時間単位で取得できます。お迎えに間に合わない場面で効くのが「所定外労働の制限」(残業免除)で、小学校就学前の子を育てる従業員が請求すると、事業の正常な運営を妨げる場合を除いて所定労働時間を超える労働を制限してもらえます。別に「時間外労働の制限」や「深夜業の制限」もあり、働き方そのものを組み替えたい場合は、3歳未満なら短時間勤務制度、3歳から就学前には「柔軟な働き方を実現するための措置」が加わりました。
公的情報の見方 ― 制度は「申し出て使う」もの
公的資料を読むときに押さえておきたいのは、手続の作法です。第一に、会社の就業規則に書かれていなくても使える制度があるということ。厚生労働省の解説は、育児休業について「たとえ、就業規則等に定められていなくても取得できます」と述べ、同じ趣旨の説明が子の看護等休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限についても繰り返されています。社内の資料に見つからなかったことは、「使えない」ことの証明にはなりません。
第二に、制度ごとに申し出の期限が違います。所定外労働の制限・時間外労働の制限・深夜業の制限は、開始予定日の1か月前までに書面等で請求します。その一方で、子の看護等休暇は当日の電話等による申出でも取得でき、業務の繁忙等を理由に会社が申出を断ることはできないと説明されています。第三に、申出・利用を理由とした解雇その他の不利益な取扱いは禁じられ、事業主には否定的な言動を防ぐ措置と相談窓口の設置が義務づけられています。第四に、令和7年10月からは、事業主が子が3歳になるまでの適切な時期に制度の内容と申出先を個別に周知し、利用の意向を確認しなければならないことになりました。
令和7年の改正で広がったこと
育児・介護休業法は令和6年5月に改正され、令和7年4月1日と10月1日の二段階で施行されました。令和7年4月の子の看護休暇の見直しでは、対象となる子の範囲が「小学校3年生修了まで」に広がり、取得できる理由も、従来の①病気・けが②予防接種・健康診断に加えて、③感染症に伴う学級閉鎖等④入園(入学)式、卒園式が追加されました。学級閉鎖は子ども自身が元気でも起きますし、入園式や卒園式は平日に設定されることが多く、これまでは年次有給休暇で対応するのが通例でした。同じ4月に、残業免除を請求できる範囲も3歳未満から小学校就学前まで広がっています。
令和7年10月から始まったのが、柔軟な働き方を実現するための措置です。事業主は3歳から小学校就学前の子を養育する労働者について、①始業時刻等の変更②テレワーク等(月に10日以上)③保育施設の設置運営等④養育両立支援休暇(年に10日以上)⑤短時間勤務制度——の五つから2つ以上を選択して講じる必要があり、労働者はそのうち1つを選択して利用できるとされています。会社が何を選んだかによって家庭の使える札が変わるため、まず自分の会社が何を選んだのかを確認する作業が要ります。
データで見る、いまの使われ方
実際にどのくらい使われているのかも見ておきます。厚生労働省の雇用均等基本調査によれば、令和6年度の育児休業取得者の割合は女性86.6%、男性40.5%。男性は令和5年度の30.1%から10ポイント以上伸びました。ただし取得期間では、女性は9割以上が6か月以上取得している一方、男性は約4割が2週間未満にとどまっています。この数字は「うちも取らなければ」というプレッシャーではなく、制度を使うことが例外的なふるまいではなくなってきている、という確認として読むのが健全だと思います。
夫婦で先に決めておく3ステップ
子どもが熱を出した朝に条文を調べる余裕はありませんから、落ち着いているうちに決めておくのが実際的です。
①自分の会社の札を調べる。子の看護等休暇の申請方法(当日の連絡が可能か、時間単位で取れるか)、残業免除などの請求先と書式、そして「柔軟な働き方を実現するための措置」として会社が五つのうちどれを選んでいるか。②場面ごとに担当を決める。病気の1日目はどちらが休むか、学級閉鎖の日は誰が対応するか。夫婦の両方が同時に使う必要はなく、家庭全体としてつじつまが合えば十分です。③段取りを紙にする。急な日の連絡先と順番、看護等休暇の申し出方、1か月前までに請求が必要な制度とその期限、会社から意向を聞かれたときに伝えたい希望。
家庭で試す3つの工夫
- ①有給と看護等休暇を「別の財布」として数える:年次有給休暇の残日数と、子の看護等休暇の残日数を分けて把握します。看護等休暇は子どもが1人なら年5日、2人以上なら年10日が上限で、1日単位でも時間単位でも使えます。「どちらの財布から出すか」を意識するだけで有給の減り方が変わります。
- ②年間の行事を先に洗い出して、請求の期限に乗せる:入園式・卒園式・運動会など日付が早めに分かる行事は年度の初めに一覧に。残業免除のように1か月前までの請求が必要な制度は、この一覧があると期限に間に合わせやすくなります。
- ③会社から意向を聞かれる場面に、答えを用意しておく:令和7年10月からは、子が3歳になる前の時期などに会社が意向を聴くことになっています。その場で考えると遠慮が先に立ちがちなので、希望を事前に夫婦で言葉にしておきます。伝えなければ配慮の対象にもなりません。
声かけの言い換え例
「また休むの?有給もうないよね」→ 相手を責める形になり、次から言い出しにくくなる。制度の札を一緒に数える会話に置き換える。
「今回は看護等休暇が使えるか、会社に聞いてみない?」→ 有給以外の選択肢に目を向けられ、負担の偏りも見直しやすい。
「うちの会社はそういうの無理だから」→ 就業規則に定めがなくても法律の水準で使える制度がある。確かめる前に諦めない。
「申出先だけ確認してみるね」→ 全部を決めなくても、窓口を知るだけで次の一歩が具体になる。
家庭で確認するチェックリスト
- 子の看護等休暇の残日数と申し出方を、夫婦それぞれの会社について把握している。
- 残業免除・時間外労働の制限・深夜業の制限のうち、必要なものと請求先・期限を確認している。
- 「柔軟な働き方を実現するための措置」として、会社が何を選んでいるかを知っている。
- 病気の日・学級閉鎖の日・行事の日について、誰がどう対応するかを事前に話している。
- 会社から両立の意向を聞かれたときに伝えたい希望を、夫婦で言葉にしてある。
家庭の工夫だけで抱え込まないために
ここで紹介したのは、育児・介護休業法に基づく制度の一般的な考え方です。実際に使えるかどうかや手続の詳細は、雇用形態、勤続期間、労使協定の有無、会社の規程によって変わります。短時間勤務は1日の所定労働時間が6時間以下の方は対象になりませんし、勤続1年未満などを労使協定で除外している会社もあります。必ず勤務先の担当部署と厚生労働省の最新の公式情報でご確認ください。
困りごとが起きたときは、家庭の中だけで抱え込まないでください。都道府県労働局雇用環境・均等部(室)が、事業主への指導、労働者からの相談受付、紛争解決援助を行っています。制度の利用について否定的な言動を受けた場合は、まず会社の相談窓口へ、解決しない場合は労働局へ相談する選択肢があります。
出典・参考
- 厚生労働省「育児・介護休業法について」
この出典で確認した記述
令和6年5月に育児・介護休業法および次世代育成支援対策推進法が改正され、令和7年4月1日から段階的に施行されたこと、改正の柱が子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充などであること、育児休業給付・出生後休業支援給付(夫婦ともに14日以上の育児休業取得で最大28日、給付率13%)などの給付が用意されていることの根拠。 - 厚生労働省 リーフレット「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」(令和6年11月作成・令和6年12月改訂、リーフレット№17)
この出典で確認した記述
子の看護休暇の対象が小学校就学の始期から小学校3年生修了までに拡大され、取得事由に感染症に伴う学級閉鎖等・入園(入学)式・卒園式が追加されて「子の看護等休暇」に名称変更されたこと、取得可能日数は年5日・子が2人以上で10日から変更がないこと、所定外労働の制限の対象が3歳未満から小学校就学前に拡大されたこと、3歳未満の子を養育する労働者のテレワークが努力義務化されたこと、令和7年10月から3歳〜小学校就学前について事業主が5つの措置(始業時刻等の変更/テレワーク等 月10日以上/保育施設の設置運営等/養育両立支援休暇 年10日以上/短時間勤務制度)から2つ以上を選び労働者が1つを選択して利用できること、子が3歳になる前の個別周知・意向確認および意向聴取・配慮が義務化されたことの根拠。 - 厚生労働省「両立支援のひろば」働く方々へのお役立ち情報 Q6「子どものための看護等休暇を取りたい」
この出典で確認した記述
小学校3年生修了までの子を育てる従業員が、子が1人なら1年度に5日、2人以上なら10日まで1日または時間単位で取得できること、2人いる場合にどちらかの子のために10日取得することもできること、当日の電話等による申出でも取得でき業務の繁忙等を理由に会社が断ることはできないこと、就業規則等に規定がなくても本人の申出で利用できることの根拠。 - 厚生労働省「両立支援のひろば」働く方々へのお役立ち情報 Q5「育児中のため、残業を免除(所定外労働を制限)してほしい」/Q7「残業(時間外労働)を制限してほしい」/Q8「深夜に働かないことを希望する」/Q4「所定労働時間の短縮措置(短時間勤務制度)を利用したい」
この出典で確認した記述
残業免除の対象が小学校就学前の子を養育する従業員に拡大されたこと、時間外労働の制限が月24時間・年150時間であること、深夜業の制限が午後10時から午前5時までで1か月以上6か月以内の期間について1か月前までに請求すること、所定外労働・時間外労働の制限は1か月以上1年以内の期間について1か月前までに書面等で請求し何回でも繰り返せること、短時間勤務が3歳未満の子を育てる従業員を対象に1日5時間45分〜6時間とすることを含む制度とされ1日の所定労働時間が6時間以下の従業員は対象外であること、2歳未満の子の時短勤務には育児時短就業給付(賃金の10%)があること、いずれの制度も就業規則等に規定がなくても本人の請求で利用でき不利益取扱いが禁じられていることの根拠。 - 厚生労働省 雇用環境・均等局 職業生活両立課「令和6年度育児休業取得率の調査結果(雇用均等基本調査)のポイントについて」
この出典で確認した記述
令和6年度の育児休業取得者の割合が女性86.6%・男性40.5%(令和5年度は女性84.1%・男性30.1%)であること、男性の取得期間は徐々に延びているものの約4割が2週間未満であること(令和5年度は5日未満15.7%・5日〜2週間未満22.0%)、政府目標が令和7年50%・令和12年85%であることの根拠。 - 厚生労働省「両立支援のひろば」働く方々へのお役立ち情報 Q14「困ったときはどこに相談したらいいの?」/Q15「上司や同僚から嫌がらせを受けたらどうしよう?」
この出典で確認した記述
都道府県労働局雇用環境・均等部(室)が法律の周知・事業主への指導・労働者からの相談受付・紛争解決援助を行っていること、「育児休業を利用したらパートタイム従業員になるよう言われた」「短時間勤務を利用したら働かない時間以上に減額された」といった相談を受け付けていること、育児休業等に関するハラスメントの防止措置と相談窓口の設置が事業主に義務づけられており、窓口がない場合等は労働局に相談できることの根拠。
この記事について
本記事は家庭での準備を整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や、制度の可否を判断するものではありません。研究知見や公的資料は「一つの考え方」として紹介しており、家庭や地域ごとに合う・合わないがあります。気になる場合は、専門機関・学校・自治体にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。