3行まとめ
- アルバイトでも労働基準法は適用され、雇う側には働く期間・仕事の内容と場所・働く時間や休日・賃金などを書いた書面を渡す義務があります。厚生労働省が高校生を対象に行った調査では、労働条件の明示が適切になされていないとする回答が60.0%にのぼりました(平成28年公表)。
- 18歳未満には、午後10時から翌朝5時までの深夜労働が原則禁止されており、時間外・休日労働も原則としてさせられません。休憩は働く時間が6時間を超え8時間以下なら45分以上、8時間を超えるなら1時間以上と決められています。
- 「高額」「即日即金」といった言葉で人を集める危険な勧誘もあります。仕事の内容を明かさずに著しく高い報酬をほのめかす募集には応じない、迷ったら大人に相談する——この線引きを、働き始める前に家庭で共有しておきたいところです。
この記事でわかること
- 高校生が働くときに適用される、労働基準法などの基本的な決まり
- 労働条件の書面・深夜業・休憩・シフト・辞め方について、公的資料が示している内容
- アルバイト代を家庭のお金の学びにつなげる考え方
- 危険な勧誘の見分け方と、困ったときの公的な相談先
「バイト、してみたい」と言われた日
夏休みが始まって数日たった夕食の席で、高校1年の子どもが切り出します。「友だちがカフェでバイト始めたんだけど、私もやってみたい」。親の頭のなかでは、その瞬間にいくつもの心配が同時に立ち上がります。夏休みの課題はどうするのか。夜は何時までなのか。そもそも高校の許可はいるのか。求人はどこで探すのか。心配が多すぎて、とっさに出てくる言葉が「勉強が終わってからね」になってしまう——そんな展開は、多くの家庭で起きています。
ここで起きているのは、意見の対立というより、判断材料の不足です。子どもの側には「働いてみたい」という気持ちがあり、親の側には「危ないことは避けたい」という気持ちがある。どちらも自然な願いなのに、共通の土台がないまま気持ちだけをぶつけ合うと、話は「する・しない」の二択に固まってしまいます。そして多くの場合、子どもは親に相談せずに応募を進めるか、あきらめて不満だけを残すか、どちらかに落ち着いてしまいます。
けれど、高校生の働き方には、家庭の考え方の前に「法律で決まっていること」がかなりの分量あります。何時まで働けるか、休憩をどれだけ取れるか、どんな書面を受け取るべきか。それらは家庭ごとの方針ではなく、雇う側が守るべき決まりとして定められています。この「決まっていること」を先に親子で共有すると、話し合いの土台が一気に安定します。あとから残る論点は「我が家としてどこまでにするか」だけになり、そこは家族で決められる話です。お金の話そのものを家庭でどう扱うかについては、教育費を家族で話す ― お金の不安を子どもに渡さないもあわせてご覧ください。
公的資料が示す、働くときの土台
まず押さえたいのは、アルバイトも労働基準法の対象だということです。厚生労働省が運営する労働条件のポータルサイト「確かめよう労働条件」は、労働基準法が賃金・労働時間・休日などの最低基準を定めたもので、正社員かアルバイトかといった働き方の種類にかかわらず適用されると説明しています。「学生だから」「短期間だから」といった理由で決まりが緩くなることはありません。
そのうえで、高校生の場合は18歳未満の年少者に対する追加の保護が重ねてかかります。厚生労働省が高校生向けに作成した「学生アルバイトのトラブルQ&A」は、原則として満18歳未満の人に深夜労働(午後10時から翌日午前5時まで)をさせることはできず、原則として時間外・休日労働をさせることもできない、と明記しています。静岡労働局が夏休み前に事業主向けに出している注意喚起でも、年少者について時間外・休日労働の禁止、午後10時から翌朝5時までの就業禁止、足場の組立などの危険な業務の禁止、バーなど遊興的接客業での就業禁止が並べられています。つまり「夜のシフトに入れる」「忙しいから残業して」と言われる状況は、そもそも起きてはいけないことだ、というのが出発点です。
次に、働き始めるときの手続きです。同じQ&Aは、募集広告に書いてあるとおりだと口頭で言われるだけでは足りず、働く条件を書いた書面を受け取って保存しておくよう求めています。書面で示すべき重要な事項として挙げられているのは、①アルバイトをする期間、②仕事の内容や働く場所、③働く時間や休日、④時給などの4点です。後から「最初に聞いた話と実際の時給や働く時間が違う」と困らないための、いちばん基本的な備えがこの書面です。
この点は、実態としても弱いところだと公的に指摘されています。厚生労働省労働基準局長が平成28年6月3日付で経済団体などに宛てた要請文書「高校生アルバイトの労働条件の確保について」は、高校生を対象に実施した調査の結果として、労働条件の明示が適切になされていないとする回答が60.0%に上ったほか、賃金不払や必要な休憩時間が与えられていない、満18歳未満に対して禁止されている深夜労働や休日労働をさせられている、といった労働基準関係法令違反のおそれがあるものがあったと述べています。さらに、法令違反とまではいえないものの、採用時に合意した以上のシフトを入れられた、一方的に急なシフト変更を命じられたという回答もあり、試験期間やその準備期間には休ませてほしいという意見も示されたとしています。少し前の調査ではありますが、国が事業主団体に是正を要請するほどの状況だったという事実は、家庭が構えを持っておく理由として十分です。
働いている時間の数え方にも決まりがあります。前掲のQ&Aは、雇っている人や上司の指示などに従って行う仕事については、その分の時給が支払われなければならないとしています。決められた時間の前後にオーナーや店長の指示で開店準備や後片付け、次の勤務の準備をした場合も、それは働いた時間です。あわせて、「毎回15分未満は切り捨て」というような取り扱いは原則として法律違反だとも明記されています。子どもが「毎回10分くらい早く行かされるけど、それは時間に入らないらしい」と言い出したとき、この一行を知っているかどうかで家庭の受け止め方は変わります。
休憩についても具体的な数字が示されています。アルバイトに対しても、働く時間が6時間を超え8時間以下の場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩を与えなければならないことになっています。1回に6〜8時間働いているのに休憩が15分ほどしか取れない、という相談例が資料に載っているのは、それが実際に起きているからです。あわせて、アルバイトでも1日8時間・1週40時間を超えて働けば割増賃金の対象になり、条件を満たせば年次有給休暇を取得できる場合があることも示されています。
シフトの扱いも、家庭にとって関心の高いところでしょう。Q&Aは、シフトを変更するには事前に働く人と雇う人の合意が必要である(労働契約法の規定)と説明したうえで、決められた曜日や時間を無視して無理にシフトに入れられるなど一方的な変更に困るときは、はっきりと断ってよいとしています。逆に、決めた日時に学校の行事が急に入ってしまったときも、あきらめずにオーナーや店長に早めに相談するよう促しています。「断ってもいい」と「相談してもいい」が両方書かれているのが、この資料の穏当なところです。
辞めるときの決まりも知っておくと安心です。アルバイトを含む労働者は、原則としていつでも退職を申し入れることができ、あらかじめ契約期間が定められていないときは、退職の申入れをすれば2週間経てば辞めることができるとされています(民法の規定)。「辞めるなら代わりのアルバイトを連れてこい」と言われて辞められない、という相談例に対する答えがこれです。ただし同資料は、急に辞めるとアルバイト先が困ることもあるので、よく話し合ってほしいとも付け加えています。権利として辞められることと、丁寧に伝えることは両立します。このほか、季節商品の売れ残りを買う義務は法律上なく、バイト代から自動的に天引きすることも基本的にできないこと、店のものを壊した場合に弁償が必要なことはあっても本来の値段以上を罰金として支払う必要はないことも示されています。
アルバイト代を、お金の学びにつなげる
働くことのルールを押さえたら、次はそこで得たお金の話です。金融庁は2022年3月17日に「高校向け金融経済教育指導教材」を公表しています。新しい学習指導要領に対応した授業のための教材で、家計管理とライフプランニング、「使う」、「備える」、「貯める・増やす」、「借りる」、「金融トラブル」という章立てで構成されています。学校の授業で扱われる枠組みですが、家庭の会話にもそのまま使えます。
アルバイト代は、この枠組みを実物で体験できる、たぶん人生で最初の教材です。自分の時間と引き換えに入ってきたお金を、何にどれだけ使い、どれだけ残すか。親が決めた小遣いを配分するのとは、手ごたえがまったく違います。ここで大事なのは、使い道を親が細かく決めてしまわないことです。金額の管理を握ってしまうと、せっかくの学びの機会が「親の許可を取る手続き」に変わってしまいます。かわりに、「入ったお金をどう分けるつもりか、聞かせてほしい」という形で、本人に説明してもらうほうが実りがあります。小遣いを通じたお金の感覚づくりについては、お小遣いで育てる、子どものお金の感覚でも扱っています。
もう一つ、家庭として先に共有しておきたいのが、収入が増えたときに家庭の税や手続きに影響が出る場合がある、という点です。一定の金額を超えると本人や保護者の税の扱いが変わることがあり、その基準は制度改正で変わります。金額の目安をこの記事に書いてしまうと古くなるため、あえて数字は挙げません。年間でどのくらい働くつもりかを早い段階で話しておき、必要になりそうなら国税庁の公式情報や勤務先で最新の基準を確認する——この段取りだけ決めておけば十分です。「働きすぎると損をする」と脅すためではなく、あとから慌てないための確認だと伝えるのがよいでしょう。
家庭で試す3つの工夫
家庭で試す3つの工夫
- ① 反対か賛成かの前に、募集内容を一緒に読む:「する・しない」を決める前に、子どもが見つけた募集内容を親子で画面ごと眺めてみます。仕事の内容・働く時間・時給・勤務地が具体的に書かれているか。18歳未満でも応募できると書かれているか。書かれていない項目があれば、それがそのまま応募前に確かめる質問になります。この作業をすると、親は「危ないかどうか」を自分の目で判断でき、子どもは「調べてから決める」進め方を体験できます。
- ② 書面をもらう約束を、働き始める条件にする:働く期間・仕事の内容と場所・働く時間や休日・時給を書いた書面を受け取って家に持ち帰る。これを、家庭として働き始める前提にしておきます。もらえない場合はその時点でいったん立ち止まる、という線を先に引いておくと、子どもが職場で言い出しやすくなります。「親がうるさいから」と伝えてもらってかまいません。書面は写真に撮ってもよいので、家庭でも一部を保管しておきます。
- ③ 月に一度、10分だけ振り返る時間を持つ:始めたあとは、月に一度でよいので「シフトは決めたとおりか」「休憩は取れているか」「学校の課題や体調に無理は出ていないか」を短く確認します。話題を勤怠と体調に絞ると、説教ではなく点検になります。ここで違和感が出てきたときに、はじめて相談窓口の話が現実味を持ちます。試験前の週は事前に伝えておく、という運用も同じ場で決められます。
声かけの言い換え
声かけの言い換え例
「高校生のうちはバイトなんてしなくていい」→ 気持ちを頭から否定してしまい、相談せずに自分で進める方向に押し出してしまう。
「やってみたい気持ちはわかった。決まりだけ先に一緒に見てみようか」→ 意欲を受けとめつつ、判断の材料を親子で共有する流れに変えられる。
「勝手に決めたんだから、文句を言わずに続けなさい」→ 職場で困ったことが起きても、家庭に持ち帰れなくなってしまう。
「合わないと思ったら言ってね。辞めるときの決まりも調べてあるよ」→ 逃げ道があることを先に伝えられ、無理を抱え込ませずにすむ。
働き始める前のチェックリスト
家庭で確認するチェックリスト
- 通っている高校にアルバイトの許可制や届出の決まりがあるかを確認した。
- 働く期間・仕事の内容と場所・働く時間や休日・時給を書いた書面を受け取ることを決めている。
- 18歳未満は午後10時から翌朝5時までの深夜労働が原則禁止だと、親子で共有している。
- 休憩の決まり(6時間超8時間以下は45分以上、8時間超は1時間以上)を知っている。
- 仕事の内容を明かさずに高額な報酬をうたう募集には応じないと、事前に話し合った。
気をつけたいこと・相談先
家庭だけで抱え込まず、公的な窓口を使う
まず、危険な勧誘への備えです。警察庁は「いわゆる『闇バイト』の危険性について」というページで、「高額」「即日即金」「ホワイト案件」といった、楽で簡単に高収入が得られることを強調する求人情報に注意するよう呼びかけています。仕事の内容を明らかにせずに著しく高額な報酬の支払いをほのめかす投稿が入り口になり、SNSやインターネット掲示板、知人の紹介など日常のあらゆる場面から勧誘が届くこと、匿名性の高い通信アプリに誘導されること、報酬はもともと支払うつもりがなく応募した人が使い捨てにされること、脅されて犯罪に加担させられる事案が起きていることが示されています。相談先としては、警察相談ダイヤル#9110や最寄りの警察署、都道府県警察本部の少年相談窓口が案内されています。
こども家庭庁も、警察庁・文部科学省と連携して青少年の加担を防ぐ広報啓発を行っており、「短時間で高収入」「即日即金」といった言葉に注意すること、個人情報を送らないこと、家族など信頼できる大人に相談することを呼びかけています。ここで家庭が用意しておきたいのは、禁止のルールより「相談していい」という空気です。身分証の写真を送ってしまったあとでも、途中で怖くなったときでも、家に持ち帰れば大人が一緒に警察に相談できる。その一点を、働き始める前に伝えておくことに意味があります。ネット上での知らない相手とのやり取り全般については、オンラインで知らない人とつながるとき ― ゲーム・SNSの安全を家庭でもあわせてご覧ください。
労働条件そのもので困ったときの窓口もあります。厚生労働省の資料は、最寄りの労働基準監督署や、労働局・労働基準監督署の中にある「総合労働相談コーナー」に連絡できること、電話では「労働条件相談ほっとライン」(0120-811-610)で相談を受け付けていることを案内しています。受付時間は変わることがあるため、利用の前に厚生労働省のポータルサイト「確かめよう労働条件」で最新の案内を確認してください。学校の先生やスクールカウンセラーに相談する選択肢もあります。
なお、この記事は高校生のアルバイトに関する一般的な決まりと考え方を整理したものであり、個別の労働問題について法的な判断を示すものではありません。法令や制度の内容、相談窓口の受付時間は改正・変更されることがあります。実際に困りごとが起きたときは、事実関係を記録したうえで、上記の公的な窓口にご相談ください。また、アルバイトの可否や条件は通っている高校の決まりによっても異なりますので、学校の案内を先に確認することをおすすめします。
出典・参考
- 厚生労働省「学生アルバイトのトラブル Q&A(知っておきたい働くときのポイント)」(平成28年5月)
- 厚生労働省労働基準局長「高校生アルバイトの労働条件の確保について(要請)」(基発0603第4号ほか・平成28年6月3日)
- 厚生労働省 労働条件に関する総合情報サイト「確かめよう労働条件」
- 厚生労働省 静岡労働局「夏休みに高校生等を使用する事業主の皆さんへ ~年少者にも労働基準法等が適用されます!~」
- 警察庁「いわゆる『闇バイト』の危険性について」
- こども家庭庁「青少年の『闇バイト』への加担を防止するための取組」
- 金融庁「高校向け金融経済教育指導教材の公表について」(令和4年3月17日公表)
この記事について
本記事は、高校生のアルバイトに関する決まりと家庭での話し合いの進め方について、厚生労働省・警察庁・こども家庭庁・金融庁が公表している資料をもとに一般的な情報を整理したものであり、個別の労働問題についての法的な判断や、特定の仕事・勤務先をすすめるものではありません。また、個別の家計や税務についての助言を行うものでもありません。法令・制度の内容、相談窓口の受付時間、税や社会保険の基準は改正・変更されることがあります。最新の内容は厚生労働省・国税庁など各機関の公式サイトでご確認ください。アルバイトの可否や条件は通っている高校の決まりによっても異なります。困りごとが生じたときは、学校の先生や本文で紹介した公的な相談窓口にご相談ください。