3行まとめ
- 学習指導要領の「書くこと」は、①題材の設定・情報の収集②構成の検討③考えの形成・記述④推敲⑤共有という学習過程で組み立てられています。「書けない」の多くは、③の記述より前で止まっています。
- 令和7年度の全国学力・学習状況調査では、小学校国語の平均正答率は選択式64.9%に対し記述式59.0%、中学校国語では選択式64.2%に対し記述式25.6%でした。
- 家庭でできるのは、代わりに書くことではなく、材料を一緒に集め、順番を決め、書けたあとに「よかったところ」を先に返すこと。作品そのものは子どもの手元に残します。
この記事でわかること
- 学習指導要領が示す「書くこと」の5つの過程と、つまずきが起きやすい場所
- 全国学力・学習状況調査が映す、書いて答える問題への向き合い方の実際
- 読書感想文を家庭で手伝うときの線引き(コンクールの応募規定・生成AIの扱い)
- 書く前と書いたあとに、家庭でできる具体的な関わり方
「思ったことを書けばいい」が通じない時
特徴的なのは、口ではよくしゃべる子でも起きる、ということです。本の話をさせれば身ぶりつきで話すのに、原稿用紙を出したとたん、その言葉がどこかへ消えてしまう。大人はここで「思ったことを、そのまま書けばいいんだよ」と言いがちですが、「思ったこと」は頭の中でまだ言葉の形になっていないことがほとんどです。その塊をどの部分から取り出し、どんな順番で並べ、どの言葉を当てるのか——「そのまま書けばいい」は、いちばん手間のかかる部分をまるごと子どもに預けてしまう言い方なのです。
「書くこと」は5つの過程でできている
手がかりになるのが文部科学省の「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説国語編」です。「B書くこと」の指導事項を、「題材の設定、情報の収集、内容の検討」「構成の検討」「考えの形成、記述」「推敲」「共有」という学習過程に沿って構成していると述べています。学校は「書く」をひとかたまりの才能とは捉えておらず、五つの局面が連なった作業として整理しているわけです。
最初の過程で共通して求められているのは「集めて、整理して、伝えたいことをはっきりさせる」という下ごしらえです。二つ目の「構成の検討」で大事なのは、構成を考える作業が「記述」とは別の仕事として立てられている点。頭から順に書き下ろすのではなく、何をどの順で置くかを先に決めてよい。それは学校が想定している手順そのものです。三つ目では、第3学年及び第4学年で自分の考えとそれを支える理由や事例との関係を明確にして書くことが求められます。
四つ目の「推敲」は、低学年の目標が「文章を読み返す習慣を付ける」ところに置かれています。そして五つ目の「共有」を、解説は「自分の文章の内容や表現のよいところを見付けること」と説明しています。学校が最後に置いているのは「直す」ではなく「よいところを見付ける」なのだ、という点は示唆的です。
調査が映す、書いて答える問題との向き合い方
令和7年度の全国学力・学習状況調査で注目したいのは、問題形式別の平均正答率です。小学校国語では短答式78.6%、選択式64.9%に対して記述式は59.0%。中学校国語では選択式64.2%に対して記述式は25.6%でした。小学校国語の「B書くこと」は平均正答率69.7%と「C読むこと」の57.7%よりむしろ高く、「書くこと」の内容が特別に苦手なのではなく、答えを文章の形にして出すこと自体が負荷になっていると読めます。
誤答例も示唆に富んでいます。ある記述式の設問(正答率56.5%、無解答率16.1%)では、納得したことは書けているのに納得した理由を他の資料から取り上げていない答え方が挙げられていました。一方、同じ調査で解答のしかたをたずねたところ、小学校では「全ての書く問題で最後まで解答を書こうと努力した」が81.8%。原稿用紙の前で止まっている子は、書く気がないわけではありません。
読書感想文を手伝うときの線引き
夏休みの読書感想文には、家庭が知っておいたほうがよい線引きがあります。青少年読書感想文全国コンクールの応募要項では、本文の字数が小学校低学年800字以内、中学年・高学年1,200字以内、中学校・高等学校2,000字以内とされ、原稿用紙を使用し縦書きで自筆すること、個人のオリジナルで未発表の作品に限ることが示されています。親が代わりに書いた文章は、そもそも応募の前提から外れます。
近年あらためて整理されたのが生成AIの扱いです。文部科学省の「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」は、不適切と考えられる例として、コンクールの作品等について生成AIによる生成物をほぼそのまま自己の成果物として応募・提出すること、感性や独創性を発揮させたい場面や初発の感想を求める場面等で安易に使わせることを挙げています。読書感想文は、まさにこの「初発の感想」に当たる課題です。ただし一律に遠ざけているわけでもなく、自ら作った文章を「たたき台」として自分なりに推敲する使い方は利活用の例に挙げられています。判断に迷ったときは「子どもの言葉が先にあるかどうか」が目安になります。
書く前・書いたあとの4ステップ
家庭が手を入れやすい場所ははっきりしています。マス目を埋める作業は子どもに残し、その前後を厚くする。書く前が15分ほど、書いたあとが5分ほどです。
①材料を口で集める。原稿用紙を出す前に話す時間をつくり、「どの場面がいちばん残ってる?」と質問の形で聞いて、出てきた言葉をそのままメモに書き取ります。子どもの言い回しを直さず、単語のままで構いません。②3つに絞って、順番を決める。「いちばん書きたいのはどれ?」と選んでもらい、紙の上で並べ替えます。
③「思ったこと」の隣に「どこで思ったか」を置く。「それって、本のどのへんで思ったの?」と一言たずね、ページを指さしてもらうだけで十分です。あとは子どもが自分で書く番。④直す前に、よかったところを1つ言う。「ここの、こわかったって書いてあるところ、場面が浮かんできたよ」というふうに、どこがどうよかったのかまで言うのがこつです。
家庭で試す3つの工夫
- ①原稿用紙より先に、メモ用紙を出す:いきなり清書用の紙を広げない。まずは裏紙や付せんに、思い出したことを単語でどんどん書き出す時間をつくります。字の丁寧さも文の形も気にしない、と最初に伝えておくと手が動きやすくなります。
- ②「どのへんで思った?」を口ぐせにする:感想が出てきたら、直したり広げたりする前に「それ、どのへんで思った?」と一言返します。よりどころを指させるようになると、文章に理由が付いてきます。
- ③書いたものを、声に出して読んでもらう:親が黙って聞く時間を5分だけ。子どもは読みながら自分で言いよどみに気づきます。聞き終わったら、まずよかったところを一つ返します。
声かけの言い換え例
「思ったことを、そのまま書けばいいでしょ」→ いちばん手間のかかる部分を子どもに預けてしまい、手がかりにならない。
「どの場面がいちばん残ってる?」→ 材料を一つ取り出す問いになり、書き出しの候補がその場で生まれる。
「そこはこう書いたほうがいいよ」→ 文章が親のものになり、書き上げた手ごたえが子どもに残らない。
「ここのこの言葉、場面が浮かんできたよ」→ よいところを具体的に返す関わりになり、次に書くときの足場ができる。
家庭で確認するチェックリスト
- 原稿用紙を出す前に、話しながらメモを取る時間をつくっている。
- 書くことを全部盛り込ませず、三つくらいに絞る手伝いをしている。
- 感想が出たら「どのへんで思った?」とよりどころをたずねている。
- マス目を埋める作業そのものは、子どもの手に残している。
- 読み終えたら、直す前によかったところを一つ具体的に伝えている。
家庭の工夫だけで抱え込まないために
ここで紹介したのは、書くことについての一般的な考え方と、家庭でできる無理のない関わりです。書く力の育ち方には個人差が大きく、上手に書けたかどうかで子どもを評価したり、友だちの作品と比べたりすることは、書くこと自体から遠ざけてしまいます。作品の評価や入選を保証するものでもありません。
コンクールへの応募や課題としての提出を考えている場合は、応募要項や学校からの案内に沿って進めてください。応募規定は回によって変わることがあり、生成AIの扱いの方針も学校ごとに異なります。判断に迷うときは担任の先生に確認するのが確実です。
一方、文字を書くこと自体に強い負担が続く、話せるのに書くとなると極端に手が止まる状態が長く続く、書くことをきっかけに登校をしぶるようになった、といった様子が見られるときは、一人で抱え込まないことも大切です。まずは担任の先生に学校での様子をたずねるところから。学校にはスクールカウンセラーが配置されている場合があり、校内委員会や通級による指導といった仕組みもあります。
よくある質問
- 「何を書けばいいかわからない」と言われます。どう答えればいいですか。
- 「思ったことを、そのまま書けばいい」は、いちばん手間のかかる部分を子どもに預けてしまう言い方です。頭の中の「思ったこと」は、まだ言葉の形になっていないことがほとんどだからです。原稿用紙を出す前に話す時間をつくり、「どの場面がいちばん残ってる?」と質問の形で聞いて、出てきた言葉をそのままメモに書き取る方法があります。言い回しを直さず、単語のままで構いません。
- 読書感想文を、親が代わりに書いてもいいですか。
- コンクールに応募する場合、親が代わりに書いた文章はそもそも応募の前提から外れます。青少年読書感想文全国コンクールの応募要項は、原稿用紙を使用し縦書きで自筆すること、個人のオリジナルで未発表の作品に限ることを示しています。家庭が手を入れやすいのはマス目を埋める作業の前後で、材料を一緒に集め、順番を決め、書けたあとによかったところを返す関わり方です。
- 読書感想文に生成AIを使わせてもいいですか。
- 文部科学省のガイドライン(Ver.2.0)は、不適切と考えられる例として、コンクールの作品等について生成AIによる生成物をほぼそのまま自己の成果物として応募・提出すること、初発の感想を求める場面等で安易に使わせることを挙げています。読書感想文は、まさにこの「初発の感想」に当たる課題です。一方、自ら作った文章をたたき台として自分なりに推敲する使い方は、利活用の例に挙げられています。学校ごとに方針が異なるので、迷うときは担任の先生に確認するのが確実です。
- 書き上がった文章は、どこから直せばいいですか。
- 直す前に、よかったところを一つ具体的に伝える方法があります。学習指導要領の解説は「書くこと」の学習過程の最後に「共有」を置き、それを「自分の文章の内容や表現のよいところを見付けること」と説明しています。学校が最後に置いているのは「直す」ではありません。書いたものを声に出して読んでもらうと、子どもは読みながら自分で言いよどみに気づきます。
出典・参考
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編」
この出典で確認した記述
「B書くこと」の指導事項が「題材の設定、情報の収集、内容の検討」「構成の検討」「考えの形成、記述」「推敲」「共有」という学習過程に沿って構成されていること、各過程の説明と第1学年及び第2学年・第3学年及び第4学年・第5学年及び第6学年の段階の違い(材料を集める/比較・分類する/分類・関係付ける、事柄の順序/段落と段落相互の関係/文章全体の構成や展開、自分の考えとそれを支える理由や事例との関係を明確にして/事実と感想、意見とを区別して、文章を読み返す習慣を付ける/相手や目的を意識した表現になっているかを確かめる/文章全体の構成や書き表し方に着目して整える)、「共有」が自分の文章の内容や表現のよいところを見付けることとされていること、および「ここに示す学習過程は指導の順序性を示すものではないため、アからカまでの指導事項を必ずしも順番に指導する必要はない」と述べられていることの根拠。 - 国立教育政策研究所「令和7年度 全国学力・学習状況調査 報告書【小学校/国語】1.調査の概要」
この出典で確認した記述
調査が令和7年4月14日(月)から4月17日(木)に実施され、教科に関する調査の実施日が小学校・中学校とも4月17日であること、「集計児童生徒数」の表で4月17日に調査を実施した児童数の合計が949,308人(公立995,300人・国立6,313人・私立13,464人が調査対象児童数)、生徒数の合計が896,785人であることの根拠(p.5)。 - 国立教育政策研究所「令和7年度 全国学力・学習状況調査 報告書【小学校/国語】2.教科に関する調査の結果(概要)」
この出典で確認した記述
小学校国語の集計結果が児童数948,862人・平均正答数9.4問/14問・平均正答率67.0%であること、分類・区分別集計結果の「問題形式」が選択式9問64.9%/短答式3問78.6%/記述式2問59.0%、「学習指導要領の内容」が書くこと3問69.7%/読むこと4問57.7%であること、問題別集計結果で3三(2)の正答率56.5%・無解答率16.1%であることの根拠(pp.13-14)。 - 国立教育政策研究所「令和7年度 全国学力・学習状況調査 報告書【中学校/国語】2.教科に関する調査の結果(概要)」
この出典で確認した記述
中学校国語の分類・区分別集計結果の「問題形式」が選択式8問64.2%/短答式2問73.8%/記述式4問25.6%であること、問題別集計結果で1四の正答率31.2%、4二の正答率30.4%・無解答率18.8%であること(pp.13-14)、および課題等の「書くこと」に「自分の考えが伝わる文章になるように、根拠を明確にして書くことに引き続き課題がある。〔1四〕」と示されていること(p.12)の根拠。 - 国立教育政策研究所「令和7年度 全国学力・学習状況調査 報告書 質問調査」
この出典で確認した記述
国語の解答時間終了直後に行われた質問「今回の国語の問題では、解答を文章で書く問題がありました。それらの問題について、どのように解答しましたか」への令和7年度の回答(小学校:全ての書く問題で最後まで解答を書こうと努力した81.8%/書く問題で解答しなかったり、解答を書くことを途中であきらめたりしたものがあった14.2%/書く問題は全く解答しなかった1.8%、中学校:65.7%/27.6%/3.5%)の根拠。 - 国立教育政策研究所「令和7年度 全国学力・学習状況調査 報告書【小学校/国語】」
この出典で確認した記述
小学校国語の報告書および調査問題・解説資料・授業アイディア例が公開されているページ。大問3が複数の資料を読んで言葉の変化について考える出題であることの確認に用いた。 - 公益社団法人全国学校図書館協議会「第72回青少年読書感想文全国コンクール応募要項」
この出典で確認した記述
全国学校図書館協議会と毎日新聞社の共催であること、部門が小学校低学年の部(1、2年生)・小学校中学年の部(3、4年生)・小学校高学年の部(5、6年生)・中学校の部・高等学校の部に分かれ課題読書と自由読書の区分があること、本文の字数が小学校低学年800字以内・小学校中学年および高学年1,200字以内・中学校および高等学校2,000字以内で句読点と改行の空白を字数に含むこと、原稿用紙を使用し縦書きで自筆すること(自筆が不可能な場合は理由を添えて応募できること)、個人のオリジナルで未発表の作品に限り他の類似コンクールとの二重応募を認めないこと、盗作や不適切な引用等があった場合は審査対象外になることがあることの根拠。 - 文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」(令和6年12月26日)
この出典で確認した記述
不適切と考えられる例として「各種コンクールの作品やレポート・小論文等について、生成AIによる生成物をほぼそのまま自己の成果物として応募・提出する」「詩や俳句の創作、音楽・美術等の表現・鑑賞など、感性や独創性を発揮させたい場面、初発の感想を求める場面等で安易に使わせる」が挙げられていること、利活用が考えられる例として自ら作った文章を生成AIに修正させたものを「たたき台」として自分なりに何度も推敲し修正した過程・結果を提出することが挙げられていること、課題に関する留意事項として読書感想文や日記・レポート等を課題として課す場合や外部のコンクールへの応募等を推奨する場合に、生成AIの出力をそのまま自己の成果物として応募・提出することが応募規約等によっては不適切又は不正な行為に当たることを十分に指導し、保護者に対しても不適切な利活用が行われないよう周知し理解を得ることが必要とされていることの根拠。
この記事について
本記事は家庭での工夫を整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や治療の判断に代わるものではありません。研究知見や公的資料は「一つの考え方」として紹介しており、家庭ごとに合う・合わないがあります。お子さんの状態が気になる場合は、専門機関や学校にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。