3行まとめ
- 「プライベートゾーン(水着で隠れる部分と口)は自分だけの大切なところ」という考え方は、文部科学省・内閣府の「生命の安全教育」で幼児期から扱われる公的な内容。特別なことでも、恥ずかしいことでもない。
- 伝えたいのは怖さではなく、「自分のからだは自分のもの」という感覚と、いやなことには「いや」と言い、その場を離れ、信頼できる大人に相談してよいという安心。この3つの行動をセットで渡す。
- 大切なのは一度の「お説教」ではなく、日常の中でくり返し伝え、何かあっても責めずに聴く関係をつくること。相談できる大人がいることが、いちばんの備えになる。
この記事でわかること
- 「生命の安全教育」で扱う、プライベートゾーンの公的な考え方と伝え方
- 怖がらせずに「自分のからだは自分のもの」を伝える家庭の工夫
- いやなことをされたら「いや・離れる・相談する」を育てる声かけ
「そろそろ伝えたい」でも切り出せない
お風呂で子どものからだを見ながら、ふと「このくらいの年齢になったら、自分で守ることも教えたほうがいいのかな」と思う。ニュースで子どもが被害にあう事件を見て、胸がざわつく。保育園や学校で「プライベートゾーン」という言葉を習ってきて、どう受け止めればいいか戸惑う。きっかけはさまざまでも、多くの親が一度は「そろそろ伝えたい」と感じます。
けれど、いざ切り出そうとすると言葉に詰まります。「変に意識させてしまわないか」「怖がらせて、お風呂やトイレを嫌がるようにならないか」「そもそも自分もきちんと習っていないのに、何をどう話せばいいのか」。そう迷っているうちに、なんとなく先延ばしになってしまう——これはとても自然なことです。性やからだの話題は、多くの親自身が「教わってこなかった」領域だからです。
ここで知っておきたいのは、この話題はもう「各家庭が手探りでやること」ではなくなっている、ということです。次の章で見るように、からだの安全は、いまでは公的な教育の一部として、発達段階に応じた言葉で伝える方法が示されています。その考え方を借りれば、家庭でも肩の力を抜いて、けれど大切なことを、落ち着いて伝えられるようになります。
「生命の安全教育」が示す伝え方
子どもを性暴力から守るための教育は、いまでは国レベルで整えられています。内閣府男女共同参画局が2020年に「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を決めたことを受けて、文部科学省は2021年に「生命(いのち)の安全教育」の教材と指導の手引きを公表し、2023年度からは幼児期から高校までの各段階で取り組みが進められています。そのねらいは、子どもたちを性暴力の「被害者にも、加害者にも、傍観者にもしない」こと、そして誰もが自分と相手のからだと心を大切にできるようになることです。
この教育の土台にあるのが「プライベートゾーン」という考え方です。内閣府や文部科学省の教材では、「水着で隠れる部分」は自分だけの大切なところであり、人に見せたり触らせたりしてはいけないこと、同じように相手の大切なところも見たり触ったりしてはいけないことを、幼児期からイラストを交えて伝えます。幼児期向けの教材は「じぶんのからだ」「じぶんだけのだいじなところ」「いやなきもち」といった章立てで構成され、むずかしい言葉を使わずに、自分のからだへの安心感から入っていく流れになっています。
ここで一つ、指導の手引きが注意を促している大切な点があります。実際の被害は「水着で隠れる部分」への接触だけでなく、からだを撫でる、顔にキスをするといった形で起きることも多いため、「そこだけが大切」という伝え方にならないように、という配慮です。つまり伝えたい核は部位そのものではなく、「あなたのからだ全体が、あなたの大切なもの」という感覚です。だからこそ家庭では、「水着のところだけ気をつけて」と部分にしぼるより、「いやだと感じたら、それはあなたの大事なサイン」という気持ちの側から伝えるほうが、子どもには届きやすくなります。
そしてこの教育がくり返し強調するのが、いやなことをされたときの行動です。教材では、いやな触られ方をされたら、大きな声で「やめて」「いや」と言う、その場から離れる(逃げる)、そして先生やお家の人など信頼できる大人に相談する、という流れが示されています。ここで忘れたくないのは、たとえその場でうまく言えなくても、逃げられなくても、子どもは決して悪くないということです。とっさに動けないのは自然な反応であり、伝えるのは「あなたのせいではない」「あとからでも話していい」という安心のほうです。子どもの気持ちを受け止める土台については、かんしゃく・感情の爆発に、どう寄り添うかや子どもの話を最後まで聴くこともあわせてご覧ください。
家庭で伝えたい、からだの約束
公的な教材の考え方を、家庭の言葉に置きかえると、伝えたいことはシンプルな「約束」に整理できます。むずかしい説明を一度にする必要はありません。お風呂や着替え、絵本を読むときなど、日常のふとした場面で、少しずつくり返すのが向いています。
①自分だけの大切なところがある:水着で隠れる部分と口は、自分だけの大切なところ。そして「あなたのからだは、まるごとあなたのもの」だと伝えます。抱っこやくすぐりでも、いやなときは「やめて」と言っていい——からだの境界線は、身近な人との間にもあるという感覚が土台になります。②見せない・さわらせない:大切なところは、人に見せたり、触らせたりしなくていい。もし誰かがそうしようとしたら、いやだと言っていいし、逃げていい、と伝えます。③人のも見ない・さわらない:相手にも同じ大切なところがあります。自分を守ることと、相手を大切にすることは、同じ約束の裏表です。④困ったら相談していい:いやなことや、へんだなと思うことがあったら、秘密にしなくていい。「これは内緒だよ」と言われても、お家の人には話していい、と繰り返し伝えておきます。あらかじめ「困ったら話せる大人」を子どもと一緒に思い浮かべておくと、いざというときの支えになります。
この4つは、性の知識というより「自分と相手を大切にする感覚」の話です。オンラインで写真を扱うときの約束にもつながっていくので、写真や個人情報をネットに上げる前に、親子で決めることもあわせて考えると、からだとプライバシーを一つながりで伝えられます。
家庭で試す3つの工夫
家庭で試す3つの工夫
- ① 日常の場面を借りて、少しずつ伝える:改まって「大事な話があります」と切り出すと、親も子も身構えてしまいます。お風呂や着替え、絵本の読み聞かせのついでに「ここは自分だけの大切なところだよ」と一言添えるくらいがちょうどよい入り口です。一度で完璧に教えようとせず、折にふれてくり返すことで、自然に身についていきます。
- ② 「いや」と言う練習を、遊びの中でしておく:くすぐりごっこで「もういや」と言われたらすぐにやめる、という小さなやりとりが、「いやと言えば止めてもらえる」という体験になります。自分の「いや」が尊重される経験を家庭で積むことが、外でも「いや」と言える力の土台になります。
- ③ 「話してくれてありがとう」を先に決めておく:子どもが言いにくいことを打ち明けたとき、まず「話してくれてありがとう」と受け止めると心に決めておきます。驚いて問い詰めたり叱ったりすると、次から相談しづらくなります。相談できる関係こそが、いちばんの安全策です。
声かけの言い換え
声かけの言い換え例
「変なこと聞かないの。そういう話はダメ」→ からだや性の話題をタブーにすると、いざという時に相談できなくなる。
「いい質問だね。からだのことは大事だから、一緒に考えよう」→ 話していい話題だと示し、相談の扉を開いておく。
「あなたが気をつけなかったからでしょう」→ 被害を子どものせいにする言葉は、口を閉ざさせてしまう。
「話してくれてありがとう。あなたは何も悪くないよ」→ 責めずに受け止め、安心して話せる関係を守る。
関わり方のチェック
家庭で確認するチェックリスト
- 「水着で隠れる部分と口は自分だけの大切なところ」を、日常の中で伝えられている。
- 抱っこやくすぐりでも、子どもが「いや」と言ったらやめている。
- いやなことは「いや・離れる・相談する」でよいと伝えている。
- 「内緒にしてね」と言われても、家の人には話していいと伝えている。
- 困ったときに話せる大人を、子どもと一緒に思い浮かべてある。
気をつけたいこと・相談先
怖がらせず、家庭だけで抱え込まないために
ここで紹介したのは、からだの安全を家庭で伝えるための一般的な考え方であり、脅かしたり、子どもを疑い深くさせたりするためのものではありません。伝えたいのは「世界は危険だ」という不安ではなく、「あなたのからだは大切で、困ったら必ず助けてもらえる」という安心です。伝え方が不安なときは、文部科学省が公開している保護者向けの資料や、発達段階別の教材も参考になります。
もし、子どもの様子にいつもと違う変化がある、実際に気になる出来事を打ち明けられた、といった場合は、家庭だけで抱え込まないでください。まず子どもを責めずに話を聴き、学校の担任やスクールカウンセラー、お住まいの自治体の子育て・教育相談の窓口に相談する選択肢があります。緊急性がある場合や専門的な支援が必要な場合は、児童相談所全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」や、性被害に関する相談窓口「#8891(はやくワンストップ)」も利用できます。本記事は、特定の状況への対応や、医療・法律・心理の専門的判断に代わるものではありません。
出典・参考
- 文部科学省「性犯罪・性暴力対策の強化について(生命(いのち)の安全教育)」
- 内閣府男女共同参画局「共同参画」2021年8月号「生命(いのち)の安全教育の推進」
- 東京都教育委員会「生命(いのち)の安全教育」指導資料(安全教育ポータルサイト)
この記事について
本記事は、からだの安全を家庭で伝えるための一般的な情報を、文部科学省・内閣府・教育委員会などの公的資料をもとに整理したものであり、特定の状況への対応や、医療・法律・心理の専門的な判断に代わるものではありません。子どもの発達や家庭の状況は一人ひとり異なります。気になる出来事を打ち明けられた場合や、子どもの様子に心配な変化がある場合は、学校・自治体の相談窓口や、児童相談所(189)などの専門機関にご相談ください。