3行まとめ
- かんしゃくは幼児期にとても一般的で、発達の正常な一部。感情の「アクセル」に対して、それを抑える脳の「ブレーキ」がまだ育ちきっていないために起こる。
- だから、意志の力で「泣きやみなさい」と迫っても止まりにくい。まず感情を受けとめ、言葉にする手助けをするほうが、落ち着きにつながる。
- 感情はすべてOK、でも行動には枠がある。気持ちを認めることと、してよい・いけない行動の線を示すことは、両立できる。
この記事でわかること
- かんしゃくが「発達の一部」であることの、研究からの見方
- 感情を受けとめ言葉にする「感情コーチング」の5つのステップ
- 感情を認めつつ行動の枠を示す、具体的な関わり方と声かけ
スイッチが入ると止まらない場面
お菓子を買ってもらえない、ゲームをやめる時間になった、思ったように積み木が組めない——きっかけは、大人から見ればささいなことです。けれど子どもは、まるでスイッチが入ったように泣き叫び、体をのけぞらせ、こちらの声はまるで届きません。「もう大きいんだから」「そんなことで怒らないの」と言っても、火はますます大きくなるばかり。やがて親のほうも消耗し、「いいかげんにしなさい!」と大声を出してしまい、後で自己嫌悪におちいる——。
こうした場面で、私たちはつい、かんしゃくを「直すべき困った行動」として見てしまいます。早く泣きやませたい、周りの目も気になる、という気持ちから、なだめるか、叱るか、なかったことにするか、のどれかで乗り切ろうとします。けれど、そのどれもがうまくいかず、かえってこじれた経験は、多くの家庭にあるはずです。
ここで知っておきたいのは、かんしゃくは「しつけの失敗」でも「性格の問題」でもなく、多くの子が通る発達の一部だということです。次の章で見るように、幼い子が感情を止められないのには、脳の育ちという理由があります。まずそれが腑に落ちると、目の前の爆発に、少し落ち着いて向き合えるようになります。泣いている場面での基本的な向き合い方は、子どもが泣き止まない時、正論より先にすることもあわせてご覧ください。
かんしゃくは「発達の途中」で起こる
まず、かんしゃくがどれほど「ふつう」のことかを、データで確かめておきましょう。米国国立医学図書館の医療情報(StatPearls)によれば、かんしゃくは1歳半〜2歳の子どものおよそ87%、2歳半〜3歳では約91%に見られるとされ、就学の頃までに自然に落ち着いていくのが一般的です。男の子と女の子で差はありません。つまり、かんしゃくはほとんどの子が通る道であり、あなたの子どもだけの問題でも、育て方のせいでもないのです。
では、なぜ止められないのでしょうか。脳の発達の研究では、感情を生み出す部分(アクセルにあたる部分)は比較的早く育つのに対し、その感情にブレーキをかけて抑える部分(前頭前野)は、ゆっくりと時間をかけて成熟していくことが知られています。幼い子どもの脳は、アクセルは効くのにブレーキがまだ十分に育っていない状態です。だから、強い感情がわき上がったとき、大人のように「ここは我慢しよう」と自分でコントロールすることが、そもそもむずかしいのです。「気合いが足りない」のではなく、その機能がまだ育っている最中なのです。
この見方は、親の関わり方を大きく変えてくれます。ブレーキが未熟な相手に「自分で止めなさい」と迫っても、うまくいかないのは当然です。むしろ、感情の嵐がおさまるまでそばで支え、少しずつ「今の気持ちはこういうものだ」と言葉にする手伝いをすることが、ブレーキそのものを育てていきます。感情を扱う力は、生まれつきの才能ではなく、こうした関わりの中で育っていく力なのです。
感情コーチングという関わり方
感情を受けとめ、育てる関わりを具体的な形にしたのが、心理学者ジョン・ゴットマンらが提唱する「感情コーチング(エモーション・コーチング)」です。ゴットマンらは長期にわたる家族の研究から、子どもが感情的になった場面での親の関わりを5つのステップに整理しました。そして、こうした関わりを受けた子どもは、自分の感情を調整する力が高く、対人関係も良好で、自尊心が高い傾向があることが、研究で示されています。
5つのステップは、①気づく(子どもの感情のサインに早めに気づく)、②好機ととらえる(感情的になった場面を、叱る場面ではなく、親密さと学びのチャンスと考える)、③受けとめる(気持ちをそのまま受けとめ、「そんなことで」と否定しない)、④言葉にする(「悔しかったね」「イヤだったんだね」と感情に名前をつける手伝いをする)、⑤枠を示す(気持ちは受けとめたうえで、人を叩く・物を壊すといった行動には限界があることを伝え、どうすればよかったかを一緒に考える)、という流れです。とくに大切なのが、③④の「受けとめて、言葉にする」ことです。感情に名前がつくと、子どもは正体のわからない嵐に飲み込まれる状態から抜け出しやすくなります。
ここで多くの親が心配するのが、「気持ちを受けとめたら、わがままを許すことにならないか」という点です。けれど感情コーチングの核心は、「感情はすべてOK、でも行動には枠がある」という二本立てにあります。「怒ってもいい。悔しい気持ちは本物だよね。でも、弟を叩くのはなし」——このように、感情を認めることと、してはいけない行動の線を示すことは、両立します。むしろ、気持ちを受けとめてもらえた子どものほうが、行動の枠も受け入れやすくなります。叱ったあとの関係の戻し方は、叱った後に関係を戻す、親子のリペア会話もあわせてご覧ください。
家庭で試す3つの工夫
家庭で試す3つの工夫
- ① 嵐の最中は「説得」より「そばにいる」:爆発の真っ最中は、言葉はほとんど届きません。危険がなければ、正論を並べるより、落ち着いた声で「ここにいるよ」とそばで待ちます。おさまってきてから、言葉での関わりを始めます。
- ② 感情に「名前」をつけて返す:「イヤだったんだね」「くやしかったんだよね」と、子どもの気持ちを言葉にして返します。当てにいかなくて大丈夫です。名前をつけようとする姿勢そのものが、「わかろうとしてくれている」という安心になります。
- ③ 「気持ち」と「行動」を分けて伝える:「怒る気持ちはOK。でも叩くのはなし」と、二つを分けて言葉にします。落ち着いた後に「今度イライラしたら、どうしようか?」と、次の手を一緒に考えると、ブレーキを育てる練習になります。
声かけの言い換え
声かけの言い換え例
「そんなことで泣かないの! わがまま言わないの」→ 感情そのものを否定し、気持ちの行き場をなくす。
「うまくいかなくて、くやしかったんだね」→ 感情を受けとめ、名前をつけて返すことで落ち着きを助ける。
「いいかげんにしなさい! 泣きやみなさい!」→ 未熟なブレーキに我慢を強い、火に油を注ぎやすい。
「怒ってもいいよ。でも、叩くのはなし。言葉で教えて」→ 感情は認め、行動には枠を示す(両立させる)。
関わり方のチェック
家庭で確認するチェックリスト
- かんしゃくを「発達の一部」として捉えられている。
- 爆発の最中は、説得より先にそばで待てている。
- 子どもの感情を、言葉にして返そうとしている。
- 「気持ちはOK・行動には枠」を分けて伝えられている。
- 落ち着いた後に、次の手を一緒に考える時間をとっている。
気をつけたいこと・相談先
「いつもと違う」と感じたら、抱え込まずに
ここで紹介したのは、日常的なかんしゃくへの一般的な向き合い方であり、すべての子ども・場面にそのまま当てはまるものではありません。かんしゃくは発達の一部とはいえ、自分や他人を強く傷つける、長時間(目安として25分を超えて)おさまらない、自分ではまったく鎮まれない、頻度が極端に高い、園や学校の生活・友だち関係に支障が出ている、といった様子が続く場合は、家庭だけで抱え込まないでください。言葉の発達のつまずきや、その子の特性が背景にあることもあります。
気になる状態が続くときは、まずかかりつけの小児科や、園・学校の先生、自治体の子育て・発達相談の窓口、乳幼児健診の機会などに相談するのが安心です。専門家に見てもらうことで、家庭での関わりのヒントが得られることもあります。本記事は、特定の子どもの状態を診断したり、医療・心理の専門的判断に代わったりするものではありません。
出典・参考
- StatPearls(米国国立医学図書館 NCBI 収載)「Temper Tantrums」
- Tibu, F. ほか「Regulatory Brain Development: Balancing Emotion and Cognition」(PMC 収載)
- The Gottman Institute「An Introduction to Emotion Coaching」
- Katz, L. F. ほか「Parental Meta-Emotion Philosophy」に関する研究(PMC 収載)
この記事について
本記事は、子どものかんしゃくや感情の爆発への向き合い方に関する一般的な情報を、発達心理学・脳発達の研究をもとに整理したものであり、特定の子どもの状態を診断したり、医療・心理の専門的判断に代わったりするものではありません。子どもの発達や特性は一人ひとり異なります。気になる様子が続く場合や、生活に支障がある場合は、小児科や自治体の相談窓口、専門機関にご相談ください。