3行まとめ
- こども家庭庁は、子どもが意見をもち言えるようになるには幼少期から家庭や学校で日常的に「あなたはどう思う?」と聴かれ、その意見が尊重される経験の積み重ねが必要だとしている。家庭は最初の練習の場になる。
- 国際比較調査では、日本の子ども・若者にとって家庭は「ありのままでいられる場所」としては5か国で最も高い一方、「自分の意見や希望を受け入れてくれる場所」としては最も低い。くつろげる家と、意見を出せる家は別に育つ。
- 聴くことは「全部そのとおりにする」ことではない。文部科学省の通知も、意見表明権は必ず反映することまでは求めていないと明記する。大事なのは、決めた結果と理由を子どもに返すところまでを一組にすることだ。
この記事でわかること
- 「子どもの意見を聴く」が国の方針としてどう位置づけられているか、家庭とどうつながるか
- 日本の家庭が国際比較でどう見えているか(くつろげるが、意見は出しにくい)
- 家庭サイズの話し合いを4ステップで進める手順と、聴きすぎ・任せすぎを避ける線引き
「こうするからね」で終わる夕方
夕方、洗い物をしながら、明日の予定を子どもに伝えます。「明日は午前中に宿題やって、午後はおばあちゃんの家。夜は早めに寝るからね」。子どもは画面から目を離さず「うん」と返す。段取りとしては何も間違っていません。決めるのに時間はかからず、家庭は滞りなく回ります。けれど、この「うん」が半年、一年と続いたとき、子どもは自分の予定について何かを言おうとするでしょうか。
逆のパターンもあります。「どうしたい?」と聞いてみたのに、返ってくるのは「どっちでもいい」「わかんない」。しばらく待っても言葉が出ないので、結局「じゃあこうしよう」と親が決める。そして次に聞いたときも「どっちでもいい」。聴こうとしたのに空振りが続くと、親のほうも「この子は意見がないんだな」と結論づけたくなります。ここには小さな落とし穴があります。意見は、聴かれる場が繰り返しあって初めて形になっていくもので、最初から用意されているわけではないからです。
さらに気をつけたいのが、三つめのパターン——聴いたけれど、結果は最初から決まっていた場合です。「どう思う?」と尋ね、子どもが勇気を出して案を出し、けれど親の当初案がそのまま採用され、理由の説明もない。このとき子どもが学ぶのは「言っても変わらない」という感覚です。国の資料が、形だけの意見聴取をもっとも避けるべきものとして名指ししているのは、まさにこの構造に対してです(後述)。家庭でも、聴く形をとるかどうか以上に、聴いたあとの扱いが効いてきます。
公的情報の見方 ― 意見を聴くことは何のためか
まず土台になっているのが、令和5年4月に施行されたこども基本法です。こども家庭庁の資料に整理された基本理念(第3条)には、「全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会及び多様な社会的活動に参画する機会が確保されること」、そして「全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること」が並んでいます。ここで押さえておきたいのは、対象が「自己に直接関係する全ての事項」だという点です。国や自治体の政策だけでなく、その子の毎日に関わることが射程に入っています。家庭の決めごとは、子どもにとってもっとも直接関係する事項の集まりだと言えます。
この考え方のもとには、児童の権利に関する条約(こどもの権利条約)があります。文部科学省が公開している条約の概要では、第12条について「締約国は、児童が自由に自己の意見を表明する権利を確保する。児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮される」とされています。日本については平成6年5月22日に効力が生じました。ここでも「相応に考慮される」という言い方であって、「言われたとおりにする」ではないことに注目したいところです。この点は後の「気をつけたいこと」で改めて触れます。
では、意見を聴くことは何のために行うのでしょうか。令和5年12月22日に閣議決定されたこども大綱は、その意義を二つ挙げています。一つは、子ども・若者の状況やニーズをより的確に踏まえられるため、施策がより実効性のあるものになること。もう一つは、「自らの意見が十分に聴かれ、自らによって社会に何らかの影響を与える、変化をもたらす経験は、自己肯定感や自己有用感、社会の一員としての主体性を高めることにつながる」ことです。前者を家庭に置き換えれば、子どもの事情を踏まえた決めごとのほうが実際に機能しやすいという、ごく実務的な話になります。後者は、意見を聴くこと自体が育ちに関わるという指摘です。
そしてこの記事にとってもっとも重要な一文が、こども家庭庁の「こども・若者の意見の政策反映に向けたガイドライン」にあります。行政職員向けの文書ですが、意見反映の意義を説明する箇所で、こう書かれています。多くのこども・若者が意見をもち、それを言えるようになるには、幼少期から、家庭や学校、地域等において、日常的に「あなたはどう思う?」と聴かれ、その意見が尊重される経験を積み重ねていくことが必要です。つまり、意見を言える力は制度の側だけで育つものではなく、日常の反復のなかで育つものとして位置づけられています。こども大綱も同じ方向を向いており、国や自治体の取組を広く発信することで「家庭や学校などこどもや若者に関わる様々な場所においてもこどもや若者の意見を聴く取組が進み」、その意義が社会全体に浸透することが期待されると述べています。さらに、「幼い頃から積み重ねられた主体的な自己決定あるいは意見表明の経験は、青年期から成人期に至る若者の意見表明や主体的な社会参画につながっていくという視点」を持つことが重要だとしています。家庭での小さな話し合いは、この積み重ねの最初の一段にあたります。
その積み重ねが、いま日本の家庭でどのくらい起きているのか。手がかりになるのが、こども家庭庁の「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査(令和5年度)」です。日本・アメリカ・ドイツ・フランス・スウェーデンの満13歳から満29歳を対象に、令和5年11月から12月にWEB調査で実施されたもので、日本の回収数は1,089です。この調査は「次のそれぞれの場所は、あなたにとってどのような場所ですか」と、居場所の性質を複数回答でたずねています。「家庭(実家や親族の家を含む)」についての日本の結果は、対照的な二つの数字を示しました。
一つは、家庭を「なにもせずのんびりできる、ありのままでいられる」場所と答えた割合が57.1%で、アメリカ47.8%、ドイツ40.1%、フランス44.0%、スウェーデン46.0%を上回り、5か国でもっとも高かったことです。もう一つは、家庭を「悩みの相談ができたり、自分の意見や希望を受け入れてくれる」場所と答えた割合が32.4%で、アメリカ35.6%、ドイツ48.1%、フランス39.9%、スウェーデン43.2%を下回り、5か国でもっとも低かったことです。日本の家庭は、居心地のよさという点では他国以上に評価されている一方で、意見や希望を受け止めてくれる場としては、そうは受け取られていない。この二つは別々に育つ、というのがこの数字の読み方です。「うちは仲がいいから大丈夫」という感覚と、子どもが意見を出せているかどうかは、必ずしも同じことを指しません。
同じ調査には、権利そのものの浸透度を測った項目もあります。「こどもには『自分に関係することについて、意見や気持ちを聞いてもらえる権利』(意見表明権)があることを知っていますか」という問いに対し、日本では「聞いたことがない」が50.3%と半数を超え、「どんな内容かよく知っている」は8.0%でした。同じ問いで「よく知っている」はスウェーデン33.2%、フランス31.4%、アメリカ31.2%、ドイツ21.9%です。さらに「社会において、こどもが、自分に関係することについて、意見や気持ちを聞いてもらえると感じていますか」では、日本で『感じている』(「感じている」と「やや感じている」の合計)は42.2%にとどまり、スウェーデン75.6%、ドイツ70.3%、フランス58.1%、アメリカ54.8%と差がありました。知る機会も、実感も、まだ広がっていない段階だということです。
ここで意外なのは、意欲の側の数字です。ガイドラインが引く令和4年度の調査研究では、国や自治体の制度や政策について思ったことや意見を伝えたいと思うか、という問いに「そう思う」33.6%、「ややそう思う」34.8%、合わせて68.4%が意見を伝えたいと答えています(回答数2,119)。言いたいことがないわけではない。にもかかわらず伝えたいと思わない人の一番の理由は、ガイドラインによれば「意見を伝えても反映されないと思うから」でした。そのうえで同ガイドラインは、当事者の声を聴いただけの形式的な意見聴取は「意見を言っても無駄だった」という失望を招き、意見を表明する意欲をそいでしまうため、もっとも避けなければならないことだと述べています。冒頭で挙げた「聴いたけれど結果は最初から決まっていた」パターンが、なぜ逆効果になるのか。その説明が、ここにあります。
では、聴いたあとに何をすればよいのか。ガイドラインは意見反映のプロセスを、企画する・事前に準備する・意見を聴く・意見を反映する・フィードバックするという5つのステップとして示し、これを一連のサイクルとして回すとしています。最後のフィードバックは、聴いた意見がどのように扱われたのかを説明する段階です。実際に子ども・若者から寄せられた声として、「反映されていなくても反映されない理由を伝えてくれれば向き合ってくれていると感じる」(18歳〜19歳)、「反映まで行かなくても、『ちゃんと受け取ってくれたんだ、決めるまでの過程で参考に使ってくれたんだ』と分かるのは重要だと思います」(20代後半)といった言葉が紹介されています。希望が通ることと、受け止められたと感じることは別だ——この区別は、家庭でそのまま使えます。全部を叶えられなくても、返し方によって経験の質は変わるということです。
聴く側の姿勢についても、参考になる記述があります。こども大綱は「おとなの経験や考えを一方的に押し付けることなく、こども・若者と対等な目線でその意見を真摯に聴いて尊重するおとなの姿勢が重要である」としています。ガイドラインには、子ども・若者に対しておとなの人数が多いと、意見を「聴取」される雰囲気になって緊張感を高めるという注意も出てきます。家庭に置き換えれば、親二人が並んで一人の子に向き合うと、話し合いというより問い詰めに近い空気になりやすいということです。また、意見を記録して可視化する役割については、書き出すことで「おとなが意見を正しく受け止めたか確認する役割も果たす」と説明されています。紙に書きながら聴くという、ごく簡単な工夫にも意味があるわけです。
家庭サイズの4ステップ
ここまでの内容を、家庭でそのまま使える大きさに落とし込みます。行政の5ステップを家庭向けに縮めると、「テーマを一つ決める→聴く→一緒に決める→結果と理由を返す」の4つになります。特別な会議を開く必要はありません。10分あればできる規模から始めるほうが続きます。
ステップ1・テーマを一つに絞る。「これからの過ごし方について話そう」では範囲が広すぎて、子どもは答えを組み立てられません。「明日の午前をどう使うか」「習い事の曜日を変えるかどうか」のように、一回につき一つの決めごとに絞ります。あわせて、いつ決めるのかも先に伝えます。「今日は聴くだけ。決めるのは明日の夜」と分けておくと、その場で結論を出す圧力が下がり、考える時間が生まれます。ガイドラインが「事前に準備する」段階を置いているのと同じ発想です。
ステップ2・聴く。親の案を先に出すと、その後の会話は賛成か反対かの二択になります。可能なかぎり子どもの考えを先に聴き、途中で評価を挟まないことが要点です。出てきた言葉は、メモ用紙やホワイトボードに短く書き出します。書くことは、子どもに「受け取った」と伝わるだけでなく、親が正しく受け止めたかを確認する働きも持ちます。「どっちでもいい」が返ってきたときは、「いま思いつかなくてもいいよ。思いついたら教えて」と引き上げ、無理に絞り出させないほうがよいでしょう。低年齢の子や、言葉にするのが苦手な子には、選択肢を二つ三つ示して選んでもらう形も有効です。こども大綱も、言語化された意見だけでなく、様々な形で発する思いや願いを汲み取る配慮の必要性に触れています。
ステップ3・一緒に決める。ここで親の側の条件をはっきり出します。安全に関わること、お金の上限、家族全体の予定など、譲れない枠は先に言葉にしておいたほうが公平です。そのうえで、枠の内側で選べる案を一緒に選びます。全面的に任せるのでも、聴くだけで終わるのでもなく、「この範囲なら決めていい」という幅を渡す形です。決まったことは、短くて構わないので書き留めておくと、後から「そんな話だったっけ」を減らせます。
ステップ4・結果と理由を返す。いちばん抜けやすく、いちばん効くのがこの段階です。「あなたの言った○○は取り入れた。△△は今回は難しかった。理由は□□」と、採用したところと採用できなかった理由をセットで伝えます。前述の子ども・若者の声のとおり、通らなかったこと自体より、扱われ方が分からないことのほうが意欲を削ります。逆に、理由まで返ってくれば「向き合ってくれている」と受け取られます。ここを一往復で閉じておくと、次に「どう思う?」と聞いたときの返答が変わってきます。
家庭で試す3つの工夫
家庭で試す3つの工夫
- ① 「聴く10分」を予定に入れる:話し合いは、時間があるときにやろうと思うと永遠に来ません。週に一度、夕食後の10分など、短く固定するほうが続きます。テーマは一つ、書くものを一枚。決まらなければ持ち越してよい、という前提を家族で共有しておくと、「まとめなければ」という負担が減ります。長い会議にしないことが、続けるための条件です。
- ② 紙に書きながら聴く:子どもの言葉を、要約せずできるだけそのまま短く書き取ります。可視化されると、子どもは自分の考えが受け取られたことを目で確認でき、親も「そういう意味だった?」と確かめられます。ガイドラインが記録の役割として、書き出すことでおとなが意見を正しく受け止めたか確認できると説明しているのと同じ効果です。決めたことも同じ紙に残しておきます。
- ③ 親は一人で向き合う日をつくる:大事な話ほど親二人でそろって臨みたくなりますが、子ども一人に対しておとなの数が多いと、話し合いではなく「聴取」の空気になりがちです。まずは親のどちらか一人が聴き、あとで家庭内で共有する形にすると、子どもは話しやすくなります。並んで座らず、横並びや斜めの位置に座るだけでも、圧の感じ方は変わります。
声かけの言い換え
声かけの言い換え例
「もう決めたから、そのつもりでいて」→ 決めごとが通知になり、意見を出す場そのものがなくなる。
「決める前に、あなたの考えも聞かせて。決めるのは明日でいい」→ 聴く時間と決める時間を分け、考える余地を渡す。
「そんなの無理でしょ、現実を見なさい」→ 案の中身を見ずに閉じるため、次から言わなくなる。
「その案のいいところを教えて。お金の上限だけは先に言っておくね」→ 案を検討する姿勢を示しつつ、譲れない枠を先に共有する。
話し合いのチェック
家庭の話し合いで確認したいチェックリスト
- 今日のテーマを一つに絞り、いつ決めるかも先に伝えている。
- 親の案より先に、子どもの考えを聴いている。
- 出てきた言葉を、要約しすぎずに書き留めている。
- 譲れない条件(安全・お金・家族の予定)を先に言葉にしている。
- 決めたあと、採用した点と採用できなかった理由を返している。
気をつけたいこと・相談先
聴くことと、任せることは違う
まず確認しておきたいのは、意見を聴くことは、子どもの希望をそのまま実行することではないという点です。文部科学省が公表している「児童の権利に関する条約」についての通知(平成6年5月20日、文初高第149号)は、条約第12条1の意見を表明する権利について、「表明された児童の意見がその年齢や成熟の度合いによって相応に考慮されるべきという理念を一般的に定めたものであり、必ず反映されるということまでをも求めているものではないこと」と明記しています。こども基本法の理念も「年齢及び発達の程度に応じて」意見が尊重されることを掲げており、判断のすべてを子どもに移すという趣旨ではありません。安全・健康・お金に関わることや、家族全体に影響する事柄には、大人が責任をもって決める領域が残ります。話し合いの目的は、その線引きをなくすことではなく、線の内側にある選択の幅を子どもと共有することです。
次に、聴く形だけを取り入れる場合の副作用にも注意が必要です。前述のとおり、形式的な意見聴取は「言っても無駄だった」という失望につながり、意見を表明する意欲そのものを弱めます。忙しくて理由まで返せない日が続きそうなら、話し合いの回数を増やすより、一回を最後まで閉じることを優先したほうが安全です。また、話し合いを「子どもを説得する場」に使わないことも大切です。結論が動く余地がまったくない場合は、聴く形をとらずに「これは決まっていること。理由はこうだよ」と伝えるほうが、かえって誠実です。
言葉で意見を出しにくい子もいます。年齢が低い場合、緊張が強い場合、感覚や特性の面で言語化が負担になる場合など、事情はさまざまです。こども大綱も、言語化された意見だけでなく様々な形で発する思いや願いを汲み取る配慮に触れています。選択肢を示す、絵や表で表す、後から手紙やメッセージで伝えてもらう、といった別の経路を用意しておくとよいでしょう。うまく話し合えない状態が続くとき、それは家庭の努力不足とは限りません。子どもの様子に気になる変化が続く場合や、家庭の中だけでは話が進まないと感じる場合は、担任やスクールカウンセラー、自治体の子育て相談・教育相談の窓口に相談する選択肢があります。子ども自身が家庭の外に意見を届ける場としては、こども家庭庁が子ども・若者から直接意見を聴く取組(「こども若者★いけんぷらす」)も設けられています。本記事は特定の家庭や子どもの状態について診断や助言を行うものではなく、家庭で抱え込まないための選択肢を示すものです。
出典・参考
- こども家庭庁「こども大綱」(令和5年12月22日閣議決定)本文
- こども家庭庁「こども・若者の意見の政策反映に向けたガイドライン」
- こども家庭庁「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査(令和5年度)」報告書
- 文部科学省「児童の権利に関する条約」(平成6年5月20日 文初高第149号 文部事務次官通知を含む)
- こども家庭庁「こども基本法」
この記事について
本記事は、家庭で子どもの意見を聴き一緒に決めることについての一般的な情報を、こども家庭庁・文部科学省の公的資料をもとに整理したものであり、特定の家庭や子どもの状態を診断したり、教育・心理・医療の専門的判断に代わったりするものではありません。子どもの年齢や発達の程度、家庭の状況によって、合う進め方は異なります。紹介した数値は各調査の実施時点のものであり、制度や調査結果は更新されることがあるため、最新の情報は各公式サイトでご確認ください。家庭の中だけでは進めにくいと感じるときは、学校の担任やスクールカウンセラー、自治体の子育て相談・教育相談の窓口にご相談ください。