3行まとめ
- こども家庭庁は、子どもが意見をもち言えるようになるには、幼少期から家庭や学校で日常的に「あなたはどう思う?」と聴かれ、尊重される経験の積み重ねが必要だとしている。
- 国際比較で日本の家庭は「ありのままでいられる場所」が5か国で最も高く(57.1%)、「意見や希望を受け入れてくれる場所」は最も低い(32.4%)。
- 聴くことは全部そのとおりにすることではない。決めた結果と理由を返すところまでが一組。
この記事でわかること
- 「子どもの意見を聴く」が国の方針でどう位置づけられ、家庭とどうつながるか
- 日本の家庭が国際比較でどう見えているか(くつろげるが、意見は出しにくい)
- 家庭サイズの4ステップと、聴きすぎ・任せすぎを避ける線引き
「こうするからね」で終わる夕方
夕方、洗い物をしながら明日の予定を伝えます。「午前は宿題、午後はおばあちゃんの家、夜は早めに寝るからね」。子どもは画面から目を離さず「うん」と返す。この「うん」が一年続いたとき、子どもは自分の予定について何かを言おうとするでしょうか。
「どうしたい?」と聞いても「どっちでもいい」しか返らず、結局こちらが決める、という空振りもあります。意見は、聴かれる場が繰り返しあって初めて形になるものです。もう一つ避けたいのが、聴いたけれど結果は最初から決まっていた場合。子どもが学ぶのは「言っても変わらない」という感覚で、国の資料がもっとも避けるべきと名指ししているのも、この構造に対してです(後述)。
公的情報の見方 ― 意見を聴くことは何のためか
令和5年4月に施行されたこども基本法は、基本理念(第3条)に「全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会……が確保されること」「その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること」を掲げています。家庭の決めごとは、子どもにとってもっとも「直接関係する事項」の集まりです。背景にある児童の権利に関する条約についても、文部科学省の概要は第12条を「年齢及び成熟度に従って相応に考慮される」と説明しています(日本は平成6年5月22日に効力発生)。
こども家庭庁の「こども・若者の意見の政策反映に向けたガイドライン」は、多くのこども・若者が意見をもち言えるようになるには「幼少期から、家庭や学校、地域等において、日常的に『あなたはどう思う?』と聴かれ、その意見が尊重される経験を積み重ねていくことが必要」だと書いています。令和5年12月22日に閣議決定されたこども大綱も、意見が十分に聴かれ変化をもたらす経験は自己肯定感や主体性を高めるとしています。意見を言える力は、日常の反復のなかで育つものとされているわけです。
では、その積み重ねはどのくらい起きているのか。こども家庭庁「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査(令和5年度)」は、日本・アメリカ・ドイツ・フランス・スウェーデンの満13歳から満29歳を対象に、令和5年11月から12月にWEBで実施されました(日本の回収数1,089)。家庭を「ありのままでいられる」場所と答えた日本の割合は57.1%で、アメリカ47.8%、ドイツ40.1%、フランス44.0%、スウェーデン46.0%を上回り最高。一方「悩みの相談ができたり、自分の意見や希望を受け入れてくれる」場所は32.4%で、アメリカ35.6%、ドイツ48.1%、フランス39.9%、スウェーデン43.2%を下回り最低でした。居心地のよさと、意見を受け止めてもらえる感覚は別に育つ、というのがこの数字の読み方です。
同じ調査では、意見表明権を「聞いたことがない」が日本で50.3%と半数を超え、「よく知っている」は8.0%(他の4か国は21.9〜33.2%)。社会で意見を聞いてもらえると『感じている』も日本42.2%に対し、他の4か国は54.8〜75.6%です。ただし意欲が低いわけではなく、ガイドラインが引く令和4年度の調査研究では、政策について意見を伝えたいと答えた人が計68.4%(回答数2,119)。伝えたいと思わない一番の理由は「意見を伝えても反映されないと思うから」でした。同ガイドラインは、形式的な意見聴取は「意見を言っても無駄だった」という失望を招くため、もっとも避けなければならないとしています。
ガイドラインは意見反映を「企画する・事前に準備する・意見を聴く・意見を反映する・フィードバックする」の5ステップのサイクルとして示します。寄せられた声にも「反映されていなくても反映されない理由を伝えてくれれば向き合ってくれていると感じる」(18歳〜19歳)とあります。希望が通ることと、受け止められたと感じることは別——この区別は、家庭でそのまま使えます。
家庭サイズの4ステップ
行政向けの5ステップを家庭サイズに縮めると、「テーマを一つ決める→聴く→一緒に決める→結果と理由を返す」の4つになります。
ステップ1・テーマを一つに絞る。「これからの過ごし方」では広すぎて、子どもは答えを組み立てられません。「明日の午前をどう使うか」のように一回一つに絞り、「今日は聴くだけ。決めるのは明日の夜」と、いつ決めるかも先に伝えます。
ステップ2・聴く。親の案を先に出すと、会話は賛成か反対かの二択になります。子どもの考えを先に聴き、途中で評価を挟まない。言葉にするのが苦手な子には、選択肢を二つ三つ示して選んでもらう形も有効です。
ステップ3・一緒に決める。安全、お金の上限、家族の予定など譲れない枠を先に言葉にしたうえで、その内側で選べる案を一緒に選びます。任せきるのでも聴くだけで終わるのでもなく、「この範囲なら決めていい」という幅を渡す形です。
ステップ4・結果と理由を返す。いちばん抜けやすく、いちばん効く段階です。「○○は取り入れた。△△は今回は難しかった。理由は□□」と、採用した点と採用できなかった理由をセットで伝えます。
家庭で試す3つの工夫
- 「聴く10分」を予定に入れる:時間があるときにやろうと思うと永遠に来ません。週に一度、夕食後の10分など短く固定し、テーマは一つ、書くものは一枚。決まらなければ持ち越してよい、と先に共有しておきます。
- 紙に書きながら聴く:子どもの言葉を要約せず短く書き取ります。可視化されると、子どもは受け取られたことを目で確認でき、親も「そういう意味だった?」と確かめられます。ガイドラインが記録の役割として挙げているのも、この働きです。
- 親は一人で向き合う日をつくる:子ども一人におとなの数が多いと「聴取」の空気になりがちだとガイドラインは注意しています。まずはどちらか一人が聴き、あとで家庭内で共有する。横並びに座るだけでも圧の感じ方は変わります。
声かけの言い換え例
- 「もう決めたから、そのつもりでいて」→決めごとが通知になり、意見を出す場がなくなる。
- 「決める前に、あなたの考えも聞かせて。決めるのは明日でいい」→聴く時間と決める時間を分ける。
- 「そんなの無理でしょ」→案の中身を見ずに閉じるため、次から言わなくなる。
- 「その案のいいところを教えて。お金の上限だけは先に言っておくね」→検討する姿勢と、譲れない枠を同時に示す。
家庭の話し合いで確認したいチェックリスト
- 今日のテーマを一つに絞り、いつ決めるかも先に伝えている。
- 親の案より先に、子どもの考えを聴いている。
- 出てきた言葉を、要約しすぎずに書き留めている。
- 譲れない条件(安全・お金・家族の予定)を先に言葉にしている。
- 決めたあと、採用した点と採用できなかった理由を返している。
聴くことと、任せることは違う
まず、意見を聴くことは、子どもの希望をそのまま実行することではありません。文部科学省の通知(平成6年5月20日、文初高第149号)は、条約第12条1の意見表明権について「表明された児童の意見がその年齢や成熟の度合いによって相応に考慮されるべきという理念を一般的に定めたものであり、必ず反映されるということまでをも求めているものではないこと」と明記しています。安全・健康・お金や家族全体に関わることには、大人が責任をもって決める領域が残ります。
結論が動く余地がまったくないときは、聴く形をとらずに「これは決まっていること。理由はこうだよ」と伝えるほうが、かえって誠実です。
言葉で意見を出しにくい子もいます。こども大綱も、言語化された意見だけでなく様々な形で発する思いや願いを汲み取る配慮に触れています。選択肢を示す、絵で表す、後から手紙で伝えてもらうなど、別の経路を用意しておくとよいでしょう。話が進まないときは、担任やスクールカウンセラー、自治体の子育て相談・教育相談の窓口に相談できます。子ども自身が家庭の外に意見を届ける場としては、こども家庭庁の「こども若者★いけんぷらす」もあります。
出典・参考
- こども家庭庁「こども大綱」(令和5年12月22日閣議決定)本文
この出典で確認した記述
こども基本法第3条の基本理念(自己に直接関係する全ての事項に関する意見表明の機会、年齢及び発達の程度に応じた意見の尊重と最善の利益)、意見を聴き反映することの2つの意義(自己肯定感・自己有用感・主体性の向上を含む)、「家庭や学校などこどもや若者に関わる様々な場所においてもこどもや若者の意見を聴く取組が進み」という記述、幼い頃からの自己決定・意見表明の経験が青年期以降につながるという視点、「おとなの経験や考えを一方的に押し付けることなく、こども・若者と対等な目線で」という姿勢、言語化された意見だけでなく様々な形で発する思いや願いを汲み取る配慮の根拠。 - こども家庭庁「こども・若者の意見の政策反映に向けたガイドライン」
この出典で確認した記述
「多くのこども・若者が意見をもち、それを言えるようになるには、幼少期から、家庭や学校、地域等において、日常的に『あなたはどう思う?』と聴かれ、その意見が尊重される経験を積み重ねていくことが必要です」という記述、意見を伝えたいと思う割合68.4%(令和4年度調査研究・回答数2,119)、伝えたいと思わない一番の理由が「反映されないと思うから」であること、形式的な意見聴取が「意見を言っても無駄だった」という失望を招き最も避けるべきであること、意見反映の5ステップ(企画・事前準備・意見を聴く・反映・フィードバック)、記録による可視化の役割、おとなの人数が多いと「聴取」の雰囲気になるという留意点、子ども・若者の声(反映されない理由を伝えてくれれば向き合ってくれていると感じる等)の根拠。 - こども家庭庁「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査(令和5年度)」報告書
この出典で確認した記述
調査設計(日本・アメリカ・ドイツ・フランス・スウェーデンの満13〜29歳、令和5年11〜12月にWEB調査、日本の回収数1,089)、居場所感における「家庭(実家や親族の家を含む)」の回答(「ありのままでいられる」日本57.1%で5か国最高、「悩みの相談ができたり、自分の意見や希望を受け入れてくれる」日本32.4%で5か国最低)、意見表明権の認知(「聞いたことがない」50.3%、「よく知っている」8.0%)、社会で意見を聞いてもらえる実感(『感じている』42.2%)と各国比較の数値の根拠。 - 文部科学省「児童の権利に関する条約」(平成6年5月20日 文初高第149号 文部事務次官通知を含む)
この出典で確認した記述
条約第12条の条文(「締約国は、児童が自由に自己の意見を表明する権利を確保する。児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮される。」)、日本について平成6年5月22日に効力が生じたこと、通知が意見表明権について「必ず反映されるということまでをも求めているものではないこと」と明記していることの根拠。 - こども家庭庁「こども基本法」
この出典で確認した記述
こども基本法が令和5年4月1日に施行されたこと、こども施策が6つの基本理念に基づいて行われること、国・地方公共団体にこども施策へのこどもの意見の反映に係る措置が求められていることの根拠。
この記事について
本記事は家庭での関わりを整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や治療の判断に代わるものではありません。研究知見や公的資料は「一つの考え方」として紹介しており、家庭ごとに合う・合わないがあります。お子さんの状態が気になる場合は、専門機関や学校にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。