3行まとめ
- 令和7年(5〜9月)に熱中症で救急搬送された10万510人のうち、いちばん多かった発生場所は住居(38.1%)でした。家の中は「安全な場所」ではなく、備える場所です。
- こどもは体温調節の機能が発達の途中で、背が低いぶん地面の熱の影響も強く受けます。こども家庭庁は大人の顔の高さで32℃のとき、こどもの顔の高さでは35℃程度になると説明しています。
- 家庭でできるのは、エアコンの判断を子どもに背負わせない・飲みものを取りやすい場所に置く・具合が悪いときの連絡と初動を先に決めるの三つです。
この記事でわかること
- 熱中症の救急搬送データが示す、いちばん危ない場所と時期
- 暑さ指数(WBGT)と熱中症警戒アラートを、家庭の判断材料としてどう使うか
- こどもが大人より暑さの影響を受けやすい理由と、水分・塩分のとり方
- 親が不在の日中を守る3つの決めごとと、具合が悪くなったときの初動
「暑かったらつけていいからね」と言って出た朝
子どもにとって、エアコンをつけるかどうかは温度の判断であると同時に、家計についての遠慮でもあります。「つけっぱなしはもったいない」という会話があれば、「まだ我慢できる」と考えて先送りします。しかも暑さの中に長くいた体は、暑さへの感覚が鈍くなっていきます。家に一人でいる時間には「顔が赤いね」と声をかける大人がいません。
データが示す、いちばん多い発生場所は「住居」
消防庁の「令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」によれば、この期間に全国で搬送された人は10万510人で、平成20年以降で最多でした。発生場所別では住居が3万8,292人(38.1%)で最も多く、学校などの教育機関は3,553人(3.5%)。実際にはその10倍以上が住居で起きています。年齢区分別では少年(満7歳以上満18歳未満)が8,447人。傷病程度は軽症が63.1%である一方、入院が必要な中等症・重症が約36%を占めます。
環境省・文部科学省の「学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き」は、死亡事故から得られる教訓として「屋内であっても熱中症は起こる!」「それほど気温が高くなくても湿度が高い日は注意!」を明記し、気温27.2℃・湿度70%の日に起きた事故を紹介しています。
公的情報の見方 ― 暑さ指数とアラートを家庭の物差しにする
公的な資料が共通して使っているのが暑さ指数(WBGT)です。気温・気流・湿度・輻射熱を合わせた指標で、湿度と照り返しまで含んだ数字になっています。手引きの表によれば、暑さ指数が31℃以上のときは「すべての生活活動でおこる危険性」があり、日常生活では「外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する」、運動は「原則中止/特に子どもの場合は中止すべき」とされています。31℃以上の日は「外に出さない」だけでなく「涼しい室内をつくる」ところまでが目安に含まれています。
熱中症警戒アラートは、翌日または当日の日最高暑さ指数が33に達する場合に発表されます。これは気候変動適応法(令和6年4月1日全面施行)に位置づけられた仕組みで、発表時に求められる行動として、屋内でエアコン等を適切に使用すること、高齢者やこども等への見守り・声かけが挙げられています。なお熱中症事故は「急に暑くなったとき」に多く、体が暑さに慣れる暑熱順化は2週間程度で完成するとされています。
こどもの体は、大人と同じ暑さを感じていない
こども家庭庁は、こどもは汗をかく能力が未発達なため、皮膚の血流量を増加させて熱を逃がすことで体温を調節しており、そのぶん外気温の影響を受けやすいと説明しています。さらに見落としやすいのが身長の差です。同庁は「大人の顔の高さで32℃の時、こどもの顔の高さでは35℃程度」としています。同じ道を並んで歩いていても、子どもは3℃ほど高い空気の中にいます。あわせて「車の中にこどもだけを残すことはやめること」とも明記されています。
水分のとり方にも目安があります。手引きは「人間は、軽い脱水状態のときにはのどの渇きを感じません。そこで、のどが渇く前あるいは暑いところに出る前から水分を補給しておくことが大切です」と述べています。また汗からは塩分も失われるため、長時間の運動などで汗を多くかく場合には0.1〜0.2%程度の塩分(1リットルの水に1〜2グラムの食塩)を補給できる経口補水液やスポーツドリンクの利用が勧められています。ただし日常のすべての水分を置き換える必要はありません。
親がいない日中を守る、3つの決めごと
ここまでを日中に落とし込みます。ポイントは、子どもに判断を任せる範囲をできるだけ小さくすることです。
①朝、暑さの見通しを一緒に見る。「31以上の日は外に出ないで、涼しい部屋で過ごす」という基準を公的な目安と結びつけておくと、根拠のある約束になります。②エアコンをつける判断を、子どもに任せない。出かける前に親が設定して運転を始め、「切らないでね」と伝える形にします。③飲みものと連絡の段取りを決める。飲みものは「取りやすいかどうか」で用意し、決まった時刻に一報を入れる約束をしておきます。
具合が悪くなったときの、家庭の初動
手引きは、具合が悪くなった場合の対応として、すぐに活動を中止し、風通しのよい日陰やクーラーが効いている室内等に避難させること、水分を摂取できる状態であれば冷やした水分と塩分を補給することを挙げています。
迷いやすいのは「様子を見るか、受診するか」の線引きです。水を飲むことができない、症状が重い、休んでも回復しない場合には医療機関に搬送する。応答が鈍い、言動がおかしいなど重症が疑われる症状がみられる場合には、直ちに医療機関に連絡する。同時に現場でなるべく早く冷やすことが重要で、「重症者を救命できるかどうかは、いかに早く体温を下げることができるかにかかっています」とされています。軽度の症状でも「必ず、誰かが付き添うようにします」と書かれており、日中の家庭ではこの「付き添う人」がいないことが最大の弱点になります。子どもには「気持ち悪かったら、その時点で連絡していい」「連絡してくれたほうが助かる」と、はっきり言葉にしておいてください。
家庭で試す3つの工夫
- ①エアコンは、出かける前に親が入れてから家を出る:暑い日と分かっている朝は親が設定して運転を始めてから出かけます。設定温度と操作手順を紙に書いてリモコンのそばに貼っておけば、子どもが迷いません。電気代の心配は親が引き受け、「今日はつけたままでいい」とはっきり伝えます。
- ②飲みものを「取りやすい場所」に前の晩から置く:冷やした麦茶を冷蔵庫の手前に。取り出すのに一手間かかるだけで、子どもは飲む回数を減らします。「お昼を食べたら1杯」のように時間と結びつけると回数が安定します。
- ③昼の一報を、決まった時刻の1通にする:「何かあったら連絡して」ではなく「12時にメッセージを1通送る」と決めます。子どもには連絡していい合図になり、親には返事がないことに気づける仕組みになります。
声かけの言い換え例
「暑かったらエアコンつけていいからね」→ 判断と遠慮の両方を子どもに預けてしまう。「今日は暑いから朝からつけておくね」と親が決めて伝える。
「家の中なんだから大丈夫でしょ」→ 救急搬送でいちばん多い発生場所は住居。「家の中でも起きるから、部屋を涼しくしておこう」に。
「ちゃんと水飲んだの?」→ 責める形になり、飲んでいなくても「飲んだ」と答えやすい。「今日は何回くらい飲んだ?」と量を聞く。
「仕事中だから、我慢して待っててね」→ 連絡をためらわせる。「気持ち悪かったら、その時点で連絡していいよ」と先に伝えておく。
家庭で確認するチェックリスト
- 暑い日の朝、エアコンを親が入れてから出かける段取りになっている。
- 冷やした飲みものが、子どもが自分で取れる場所に用意されている。
- 熱中症警戒アラートや暑さ指数を、親子のどちらでも確認できる方法を決めてある。
- 連絡先を2件以上、電話番号つきで見える場所に貼ってある。
- 「水が飲めない・休んでも回復しない・受け答えがおかしい」ときは医療機関へ、を共有している。
家庭の工夫だけで抱え込まないために
ここで紹介したのは、公的機関が公表している一般的な予防と対応の考え方であり、症状の判断や治療についての助言ではありません。水を飲むことができない、休んでも回復しない、応答が鈍い・言動がおかしいといった様子が見られるときは、ためらわずに医療機関に連絡し、重症が疑われる場合は救急車を呼びます。その間も、涼しい場所で体を冷やし続けることが大切だとされています。
受診に迷うときは、多くの都道府県で子ども医療電話相談(#8000)が実施されています。地域によっては救急安心センター事業(#7119)も利用できますが、実施状況や受付時間は自治体ごとに違うため、番号を連絡先の紙に一緒に書いておいてください。留守番そのものの可否は、この記事の範囲を超える判断です。不安が残る年齢であれば、学童や預け先、自治体の夏の居場所、図書館や児童館などを選択肢に。エアコンの不調や停電のときは、気候変動適応法に基づくクーリングシェルターを含め涼める場所を確認しておくことも備えになります。
出典・参考
- 消防庁「令和7年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況」(令和7年10月29日)
この出典で確認した記述
令和7年5月から9月までの全国の熱中症による救急搬送人員の累計が10万510人で調査開始の平成20年以降で最多であること、令和7年は多くの地方で最も早い梅雨明けとなり夏の平均気温が最も高く熱中症警戒アラートの発表回数が過去最多となったこと、発生場所別では住居が3万8,292人(38.1%)で最も多く道路1万9,773人(19.7%)・公衆(屋外)1万2,175人(12.1%)・仕事場1万559人(10.5%)・教育機関3,553人(3.5%)と続くこと、年齢区分別では高齢者5万7,433人(57.1%)・成人3万4,096人(33.9%)・少年8,447人(8.4%)・乳幼児531人(0.5%)であること、初診時の傷病程度別では軽症63.1%に対し入院が必要な中等症・重症が約36%であることの根拠。 - 環境省・文部科学省「学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き」(令和3年5月)
この出典で確認した記述
暑さ指数(WBGT)が気温・気流・湿度・輻射熱を合わせた指標であること、暑さ指数31℃以上では「外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する」「運動は原則中止/特に子どもの場合は中止すべき」、28〜31℃では「外出時は炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意する」とされること、事故事例の教訓として「屋内であっても熱中症は起こる」「それほど気温が高くなくても湿度が高い日は注意」が挙げられていること、軽い脱水状態ではのどの渇きを感じないためのどが渇く前から水分を補給すること、汗で失われる塩分の補給には0.1〜0.2%程度の塩分(1リットルの水に1〜2グラムの食塩)を補給できる経口補水液やスポーツドリンクがよいこと、冷やした水が推奨される理由と「いつでも飲める冷たい飲料(5〜15℃)」、暑熱順化が運動開始数日後から起こり2週間程度で完成すること、具合が悪くなった場合はすぐに活動を中止し風通しのよい日陰やクーラーの効いた室内に避難させること、水を飲むことができない・症状が重い・休んでも回復しない場合は医療機関に搬送すること、応答が鈍い・言動がおかしいなど重症が疑われる場合は直ちに医療機関に連絡し現場でなるべく早く冷やすこと、重症度Ⅰ〜Ⅲ度の分類とⅡ度以上は直ちに病院へ搬送すること、軽度の症状では必ず誰かが付き添うこと、集団活動では体調不良を気軽に相談できる雰囲気を作ることの根拠。 - こども家庭庁「みんなで見守り『こどもの熱中症』を防ぎましょう!」
この出典で確認した記述
こどもは体温調節機能が未発達で、汗をかく能力が未発達なため皮膚の血流量を増加させ体の表面から周囲に熱を逃がすことで体温を調節しており外気温の影響を受けやすいこと、背が低いこどもは地表面から強い影響を受け「大人の顔の高さで32℃の時、こどもの顔の高さでは35℃程度」になること、夏場の車内は短時間で高温になるため車の中にこどもだけを残すことはやめること、周囲の大人がこどもの様子を十分に観察し顔色や汗の量などに気を配る必要があることの根拠。 - 環境省 熱中症予防情報サイト「熱中症警戒情報とは」
この出典で確認した記述
熱中症警戒情報(熱中症警戒アラート)が、府県予報区等内のいずれかの暑さ指数情報提供地点における翌日・当日の日最高暑さ指数(WBGT)が33(予測値)に達する場合に発表されることの根拠。 - 環境省 熱中症予防情報サイト「熱中症特別警戒情報とは」
この出典で確認した記述
熱中症特別警戒情報が「広域的に過去に例のない危険な暑さ等となり、人の健康に係る重大な被害が生じるおそれがある」状況を指し、都道府県内のすべての暑さ指数情報提供地点における翌日の日最高暑さ指数(WBGT)が35(予測値)に達する場合等に、気候変動適応法施行規則に基づいて発表されること、発表時に求められる行動として屋内でエアコン等を適切に使用すること・高齢者やこども等への見守りや声かけ・管理者による運動や外出、イベント等の中止、延期、変更の判断が挙げられていることの根拠。 - 環境省 熱中症予防情報サイト「改正気候変動適応法」/「指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)・リンク集」
この出典で確認した記述
気候変動適応法が令和5年5月12日に公布され令和6年4月1日に全面施行されたこと、改正により熱中症対策実行計画の法定計画への格上げ・熱中症警戒情報の法定化・熱中症特別警戒情報の創設・市町村長による指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)および熱中症対策普及団体の指定の制度が措置されたこと、クーリングシェルターが気候変動適応法に基づく施設で全国の市区町村のリンク集が公開されており1,255市区町村(令和8年7月17日現在)が指定済みであることの根拠。
この記事について
本記事は家庭での準備を整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や、制度の可否を判断するものではありません。研究知見や公的資料は「一つの考え方」として紹介しており、家庭や地域ごとに合う・合わないがあります。気になる場合は、専門機関・学校・自治体にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。