3行まとめ
- いじめ防止対策推進法は、いじめの定義に「インターネットを通じて行われるものを含む」と明記しています。線引きの軸は行為の派手さではなく、受けた子どもが心身の苦痛を感じているかどうか。親が判定する必要はありません。
- 国の資料は、ネット上のいじめを「大人の目の届かない場所で展開されるため気付きにくく、継続しやすくエスカレートしやすい」と整理しています。統計上の件数(令和6年度で27,365件・認知件数の3.6%)は、見えにくさを前提に読む必要があります。
- 家庭の初動は、問い詰めずに聴くこと、どの画面の話かを控えること、学校にいつ・どう伝えるかを子どもと一緒に決めること。家庭だけで抱える設計にはなっていません。
この記事でわかること
- ネット上の悪口や仲間はずれが、法律上どう位置づけられているのか
- 公的資料が挙げる「ネット上のいじめが見えにくく、深刻化しやすい理由」
- 気づいてから学校や窓口につなぐまでの、家庭サイズの4ステップ
- 削除の求め方と、こどもの人権110番など無料で使える相談先
「なんでもない」と言われた夜に
親を止めるものは二つあります。ひとつは「確かめられない」こと。グループチャットの中で交わされた言葉は、その場にいた子ども以外には見えません。見せてほしいと言えば断られ、強く出ればスマホごと取り上げる話になり、子どもは「言わなければよかった」と学習します。もうひとつは「これは、いじめと呼ぶほどのことなのだろうか」という迷いです。けれどこの二つは、どちらも親の力不足ではありません。
公的情報の見方 ― 法律と統計が示すネット上のいじめ
出発点は、いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)の定義です。第2条第1項は、いじめを「(前略)心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定めています。判断の軸は行為の派手さや回数ではなく受け手側の状態です。親の仕事は判定ではなく、苦痛のサインを受けとめて、扱える場所につなぐことです。
規模も見ておきます。文部科学省の令和6年度の調査では、パソコンや携帯電話等を使ったいじめは27,365件、総認知件数に占める割合は3.6%。ただしこれを「まれ」と読むのは危ういところです。同じ調査で、いじめの発見のきっかけは「アンケート調査など学校の取組により発見」が48.0%と最も多く、教室の外で起きていることはその網にかかりにくい。そして「当該児童生徒(本人)の保護者からの訴え」が13.9%を占めます。
「見えにくい」という性質は公的文書に明記されています。文部科学省の「いじめの防止等のための基本的な方針」は、外部から見えにくい・匿名性が高いなどの性質があるため行動に移しやすい一方、一度拡散した画像・動画等の情報を消去することは極めて困難であること、名誉毀損罪や侮辱罪、民事上の損害賠償請求の対象となり得ることを述べています。こども家庭庁と文部科学省の「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」は、SNS上のいじめの特徴として、親しい友人関係の中で容易に生まれること、他者が軽く同調するためブレーキがかかりにくいこと、性的な映像が瞬時に広く回ること、そして大人の目の届かない場所で展開されるため気付きにくく、継続しやすくエスカレートしやすいことを挙げています。
大人の目が届かないから気づかれず、気づかれないから止まらず、止まらないから短期間で深刻になる。だとすれば、家庭が早い段階で気づくこと自体が、深刻化を止める手段になります。令和6年度の重大事態の発生件数は1,404件。前年度分の分析では、いじめとして認知していたものが62.5%、認知していなかったが該当し得る情報があったものが17.0%で、合わせて約8割が「気づいてはいた」ケースでした。なお第19条第3項は、いじめを受けた児童等またはその保護者が情報の削除を求め、または発信者情報の開示を請求しようとするときは、必要に応じ、法務局または地方法務局の協力を求めることができると定め、第9条第4項は、保護者の責務を定めた規定が学校の責任を軽減するものと解してはならないと明記しています。
家庭サイズの4ステップ
ここまでを、気づいた日から使える順番に置き直します。「気づく→聴く→残す→つなぐ」の四つです。先に学校へ連絡してしまうと、子どもは自分の知らないところで話が動いたと感じ、次から話さなくなることがあります。
①気づく。留意事項集は、家庭で見えるサインとして、表情が暗い、家族との会話が減った、食欲がなくなった、寝付きが悪い、部屋に閉じこもる時間が増えた、などを挙げています。スマホを見たあとに機嫌が変わるといった時間的な結びつきは、家庭でしか観察できない情報です。②聴く。同じ資料は「様子がおかしいときこそ、問い詰めたり、結論を急がせたりしないでください」としています。「今日は聞くだけにするね」と先に伝えて、途中で止まってもそのまま終える。二回目、三回目で足りない部分が埋まります。
③残す。ネット上のやりとりは消えます。画面を閉じる前に、いつ・どのサービスのどの場所で・どんな内容だったかを控えておきます。④つなぐ。留意事項集は「学校や先生方といつ、どのような方法で共有するのがよいか、こどもと一緒に話し合ってみてください」と書き、心配があるならその心配の内容も含めて先生に相談してほしい、と続けます。伝えるか伝えないかの二択ではなく、「いつ、誰に、どこまでを、どういう形で」を一緒に決めるという三つ目の道があります。
家庭で試す3つの工夫
- ①「困ったときは取り上げない」を平常時に約束しておく:子どもが黙る最大の理由は、話すとスマホを取り上げられると思っているからです。「ネットで嫌なことがあったと言ってきたときは、そのことを理由に取り上げたりしない」と先に約束します。約束の対象を「困った話をしたとき」に限定するのがコツです。
- ②相談先を「家の紙」に書いて貼っておく:必要になった夜に検索する動き方はうまくいきません。落ち着いているうちに紙に書いて貼り、「親に言いたくないときは、ここに自分でかけていい」と添えておくのが要点です。
- ③「加害の側かもしれない」場合の対応も先に決めておく:国の資料は、加害の側で関わっている可能性があるときも責めたり突き放したりせず、まず話を聴いてほしいとしています。責める会話は、事実を隠す方向に働きます。
声かけの言い換え例
「だからスマホなんて持たせたくなかった」→ 子どもは自分の相談が家庭を暗くしたと受け取り、次からは黙るほうを選ぶ。
「話してくれてよかった。今日は聞くだけにするね」→ 何かを決める場ではないと最初に示す。国の資料も、問い詰めたり結論を急がせたりしないよう求めている。
「そんなの気にしなければいい」→ 苦痛を小さく見積もる言い方。線引きは受けた側が心身の苦痛を感じているかどうかに置かれている。
「先生には、いつ、どこまで話すか一緒に決めよう」→ 伝えるかどうかではなく、伝え方を一緒に決める。
気づいた日から一週間で確認したいこと
- スマホを見たあとの表情や、食欲・眠り・会話の量の変化を、サインとして一度は疑ってみた。
- 最初の会話で、問い詰めずに「話せる分だけ」で終えることができた。
- どのサービスの、いつの、どんなやりとりなのかを、消える前に控えてある。
- 学校にいつ・誰に・どこまで伝えるかを、子どもと一緒に決めた。
- こどもの人権110番・24時間子供SOSダイヤルなどの相談先を、家族が見える場所に控えてある。
家庭の工夫だけで抱え込まないために
この記事は法令と公的資料の考え方を家庭向けに置き直した一般的な整理であり、個別の書き込みが違法かどうかを判断するものではありません。いじめとして認知し対応する主体は学校であり、家庭が判定を引き受ける必要はありません。相談したのに動いてもらえないと感じるときは、担任だけでなく学年主任や管理職、教育委員会へと相談の相手を広げてかまいません。
書き込みの削除を求めたいとき。文部科学省の基本方針は、名誉毀損やプライバシー侵害等があった場合はプロバイダに速やかに削除を求めること、必要に応じて法務局の協力を求めることを示しています。方法が分からないときは、総務省の支援事業である違法・有害情報相談センターに相談できます。
直接相談できる窓口。法務省のこどもの人権110番(0120-007-110)は最寄りの法務局につながり、相談は無料で秘密は厳守。こどものことで悩む大人も利用でき、メール・LINE・手紙の窓口もあります。学校生活全般の悩みなら24時間子供SOSダイヤル(0120-078310)が夜間・休日を含めてつながります。生命、身体または財産に重大な被害が生じるおそれがあるときは、直ちに所轄警察署に通報する——裸の写真を送るよう求められている、拡散すると脅されているといった状況は、学校への相談と並行して警察に相談してよい場面です。
出典・参考
- いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)
この出典で確認した記述
第2条第1項のいじめの定義(「心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」)、第9条第2項(保護者は、その保護する児童等がいじめを受けた場合には、適切に当該児童等をいじめから保護する)および第4項(前三項の規定は、いじめの防止等に関する学校の設置者及びその設置する学校の責任を軽減するものと解してはならない)、第19条第1項(発信された情報の高度の流通性、発信者の匿名性その他のインターネットを通じて送信される情報の特性)および第3項(削除を求め、又は発信者情報の開示を請求しようとするときは、必要に応じ、法務局又は地方法務局の協力を求めることができる)、第23条第1項(児童等の保護者は、いじめに係る相談を受けた場合においていじめの事実があると思われるときは、学校への通報その他の適切な措置をとる)の根拠。 - こども家庭庁・文部科学省「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」(令和7年11月)
この出典で確認した記述
重大事態の調査報告書32件を分析して作成された資料であること、【2-4】インターネット・SNSにおけるいじめに挙げられたSNS上のいじめの6つの特徴(①親しい友人関係の中で極めて容易にいじめ関係が生まれる/②不特定多数から絶え間なく誹謗中傷が行われ短期間で深刻化しやすい/③他者が軽く応じたり賛同したりするためブレーキがかかりにくくエスカレートしやすい/④一人対多数の関係・孤立状況が生まれやすい/⑤写真や動画が瞬時に広く回り回復困難な被害につながりやすい/⑥大人の目の届かない場所で展開されるため学校教員や保護者も気付きにくく継続しやすくエスカレートしやすい)、「学校はSNSトラブルを軽視し、いじめを受けた生徒本人に対応を任せ、保護者への連絡や調査等の対応を行わなかった」事例、SNS上で発信したものは拡散されやすくどこかに記録が残り完全に消し去ることはできないこと、「困ったらすぐに相談する」「自分だけで問題を抱え込まない」ことを教える必要があること、令和5年度の重大事態1,306件のうちいじめとして認知していたものが816件(62.5%)・いじめに該当し得るトラブル等の情報があったものが222件(17.0%)であったこと、および「保護者の皆様へ」のメッセージ(家庭で見えるサインの列挙/じっくり傾聴し気持ちを受け入れること/「様子がおかしいときこそ、問い詰めたり、結論を急がせたりしないでください」/「学校での悩みを打ち明けられたときは、学校や先生方といつ、どのような方法で共有するのがよいか、こどもと一緒に話し合ってみてください」/こどもの意思を尊重しながら先生に伝えること・心配の内容も含めて相談すること/加害の側で関わっている可能性があるときも責めたり突き放したりせず話を聴くこと)の根拠。 - 文部科学省「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成25年10月11日 文部科学大臣決定/最終改定 平成29年3月14日)
この出典で確認した記述
インターネット上のいじめは外部から見えにくい・匿名性が高いなどの性質を有するため児童生徒が行動に移しやすい一方、一度拡散した画像・動画等の情報を消去することは極めて困難であること、刑法上の名誉毀損罪や侮辱罪、民事上の損害賠償請求の対象となり得ること、「インターネット上の不適切な書き込み等については、被害の拡大を避けるため、直ちに削除する措置をとる」「プロバイダに対して速やかに削除を求めるなど必要な措置を講じる」「こうした措置をとるに当たり、必要に応じて法務局又は地方法務局の協力を求める」「児童生徒の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるおそれがあるときは、直ちに所轄警察署に通報し、適切に援助を求める」、およびパスワード付きサイトやSNS等を利用したいじめはより大人の目に触れにくく発見しにくいため保護者においても理解を求めていくことが必要であることの根拠。 - 文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」
この出典で確認した記述
いじめの態様のうちパソコンや携帯電話等を使ったいじめが27,365件(前年度24,678件)で総認知件数に占める割合が3.6%(前年度3.4%)であること、いじめの発見のきっかけが「アンケート調査など学校の取組により発見」48.0%・「本人からの訴え」19.6%・「当該児童生徒(本人)の保護者からの訴え」13.9%・「学級担任が発見」9.3%であること、いじめられた児童生徒の相談の状況は「学級担任に相談」81.6%が最も多いこと、いじめを認知した学校数が30,204校(全学校数の83.9%)であること、いじめ防止対策推進法第28条第1項に規定する重大事態の発生件数が1,404件(前年度1,306件)であることの根拠。 - 総務省「インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)」
この出典で確認した記述
令和6年法律第25号による改正でプロバイダ責任制限法の題名が「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(情報流通プラットフォーム対処法)に変更され2025年4月に施行されたこと、一定の要件を満たす大規模プラットフォーム事業者に侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化および実施状況の透明化を図るための義務が定められたこと(法第5章・第6章)、総務省が Google LLC・LINEヤフー・Meta Platforms・TikTok・X Corp. 等を大規模特定電気通信役務提供者として指定していること、法第21条に基づき各社の削除申出窓口および削除基準が届け出られ公表されていること、違法・有害情報相談センター(総務省支援事業)がサイト管理者等への削除依頼の方法等に関する相談をWebフォームで受け付けていることの根拠。 - 法務省「いじめなどの電話相談窓口【こどもの人権110番】」/「インターネット上の人権侵害をなくしましょう」
この出典で確認した記述
こどもの人権110番(フリーダイヤル0120-007-110)の受付時間が平日8時30分〜17時15分であること、電話は最寄りの法務局につながり法務局職員又は人権擁護委員が対応し相談は無料・秘密厳守であること、こどもだけでなくこどもに関する悩みを持つ大人も利用できること、メール・LINE・手紙(こどもの人権SOSミニレター)による相談窓口があること、インターネット上の人権侵害情報について削除依頼方法の助言等の支援を行っていること、および「みんなの人権110番」(0570-003-110)の存在の根拠。 - 文部科学省「『24時間子供SOSダイヤル』について」
この出典で確認した記述
悩んでいる子供や保護者等がいつでも相談できるよう教育委員会が夜間・休日を含め24時間対応可能な相談体制を整備していること、全国統一のダイヤルが0120-078310(なやみいおう)であること、電話をかけると原則として所在地の教育委員会の相談機関に接続されること、かけ間違いやタイミングによりつながらないことがあってもためらわず何度でもかけてよいと案内されていることの根拠。
この記事について
本記事は家庭での工夫を整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や治療の判断に代わるものではありません。特定の機器・アプリ・設定・サービスを推奨するものでもありません。お子さんの状態が気になる場合は、専門機関や学校にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。