3行まとめ
- 性的ディープフェイクは、実在する子どもの画像を生成AIなどで性的に加工して悪用すること。警察が令和7年に扱った事案は114件で、被害者の約9割が中高生だった。
- 約6割は同級生や同じ学校の中で起きている。卒業アルバムやSNSの写真が使われ、子どもが加害者になる例も多い。
- 家庭では「人の写真を勝手に加工しない・回ってきても広げない」を約束し、被害に気づいたら一人で抱えず警察や学校、法務局に相談する。
この記事でわかること
- 性的ディープフェイクとは何か
- 警察庁の公表から分かった被害の実態
- 学校で実際に確認された事例
- 加害・被害・傍観を防ぐための家庭での話し方
- 画像が広まったときの相談先と削除依頼の窓口
「みんな笑ってたけど、なんか嫌だった」
夕食のあと、中学2年の息子がぽつりと話した。友達のグループトークに、同じクラスの女の子の顔を別の写真と合成した画像が回ってきたという。「みんな笑ってたけど、なんか嫌だった」。息子は何も送っていないと言う。ほっとする一方で、画像を保存したのか、誰が作ったのかまでは聞けなかった。生成AIのアプリを使えば、写真1枚から別の画像が数秒で作れる。親の世代にはなかった道具で、何がいけないのかを子どもに伝える言葉も、まだ手元にない。
こうした話は、ある日突然、家庭に持ち込まれます。子どもが「嫌だった」と口にできたこと自体が、大切な入り口です。そこで親が慌てて問い詰めるのではなく、何が起きていて、どう動けばよいかを知っておくと、次の一言が変わります。
性的ディープフェイクとは何ですか
文部科学省は2026年3月12日の事務連絡で、生成AIのサイトや画像加工アプリなどにより、実在する児童生徒の画像を性的画像に加工して悪用する事案を、いわゆる「性的ディープフェイク」と呼び、社会的な問題になっていると説明しています。実際に子どもが被害に遭う事案が起きているだけでなく、子どもが加害者になる事案も多数生じているとしています。
使われるのは、特別な写真ではありません。事務連絡は、学校行事や卒業アルバムの画像を含め、日常の学校生活のさまざまな画像を生成AIなどで性的なものに加工し、友人に共有したり、SNSで拡散したりする行為が見られるとしています。誰かがSNSに載せた一枚、クラスで撮った一枚が材料になり得るということです。
被害者の約9割が中高生、約6割は同じ学校の中で
同じ事務連絡は、警察庁が2026年2月26日に公表した内容を紹介しています。令和7年中に警察が扱った事案は114件でした。ここでいう事案は、生成AIなどを悪用して18歳未満の児童生徒の性的画像を作成したもので、相談や被害申告の時点で被害者が20歳未満のものです。被害を受けた子どもは中高生が全体の約9割を占め、小学生の被害もありました。
そして、発生した事案の約6割は、同級生や同じ学校の者の中で行われていました。知らない大人からではなく、身近な友達同士の中で起きやすいことが、この問題の大きな特徴です。114件は警察が扱った事案の数で、学校や家庭の中だけで話が終わった例は、この数には入っていません。
学校で確認された事例と、警察庁のチラシ
文部科学省が教育委員会への聴き取りで確認した事例には、SNSに上がっていた同級生の画像を性的な動画に加工してメッセージアプリのグループで共有した、教室で盗撮した画像から第三者とキスをする映像を作った、友人に頼まれて小学校の卒業アルバムの顔写真などを使い、合成画像を100人ほど作って送った、加工した画像を販売した、といったものがあります。複数の生徒が作業を分担して作った例もありました。
警察庁が作った児童生徒向けのチラシ「そのAIの使い方、犯罪かも…」は、軽い気持ちで他人の画像をAIで加工してSNSに投稿することが、トラブルや犯罪、人権侵害につながるケースがあると伝えています。一度SNSやグループチャットに投稿した画像は拡散され、二度と消すことはできない、ふざけ半分でも許されない、という言葉も並びます。保護者に向けては、子どもが普段から生成AIを使っているかを確かめ、家庭でルールやモラルについてよく話し合うよう呼びかけています。
文部科学省は未然防止のために、子どもを性犯罪・性暴力の加害者にも、被害者にも、傍観者にもさせない「生命(いのち)の安全教育」と、SNSでの拡散によるトラブルを防ぐ情報モラル教育が重要だとしています。家庭で話すときも、この3つの立場に分けると整理しやすくなります。作らない。作られたら一人で抱えない。回ってきたら広げない。
次の3つは、家庭で取り入れやすい工夫です。
家庭で試す3つの工夫
- 使っているAIを一緒に見る:どんな生成AIや画像加工アプリを使っているか、何ができるかを子どもに見せてもらいます。責めるためではなく、親も道具を知るための時間にします。
- 「人の写真は勝手に加工しない」を家のルールにする:友達の顔でも、ふざけたつもりでも同じです。友達に頼まれたときに「家で禁止されているから」と断ってよいと伝えておくと、断る理由になります。
- 回ってきたときの動きを決める:見ても保存しない、誰にも送らない、親か先生に知らせる。この3つを、起きる前に決めておきます。
声かけの言い換え例
- 「AIなんて危ないから、もう使っちゃだめ」→理由が伝わらず、隠れて使うようになりやすい。
- 「便利な道具だけど、人の写真を変える使い方はしないと決めよう」→守る線が具体的に分かる。
- 「なんでそんなグループにいるの」→次から話してくれなくなる。
- 「嫌だと思ったこと、話してくれてよかった」→話したことが受け止められる。
- 「ただの冗談でしょ」→相手が傷つくことが見えなくなる。
- 「作られた子がそれを見たら、どう感じるかな」→相手の立場に目が向く。
- 「そんな写真を載せるからだよ」→被害を受けた子が自分を責める。
- 「悪いのは作った人。あなたは悪くないよ」→相談しやすくなる。
家庭で確認するチェックリスト
- 子どもが使っている生成AIや画像加工アプリを、親も知っている。
- 人の写真を勝手に加工・投稿しないことを、家のルールにした。
- 友達に頼まれたときの断り方を話した。
- 画像が回ってきたら、保存も転送もせず大人に知らせると決めた。
- 警察・学校・法務局などの相談先を、親子で確かめた。
一人で抱え込まないために
子どもの画像が加工されて出回っていると分かったら、まず子どもを責めずに受け止め、家族が画像を転送したり再投稿したりしないようにします。警察庁などのチラシは、被害に遭ったとき・困ったときの窓口として、都道府県警察の性犯罪被害相談電話(#8103)、警察相談専用電話(#9110)、24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310)、こどもの性被害等に関する相談窓口を案内するWebサイト「ぴったり相談窓口」を挙げています。どのように記録を残すかも、警察に相談しながら進めると安心です。
インターネット上の画像を消したいときは、法務局が削除依頼の方法を助言し、人権侵害に当たると認めた情報についてはプロバイダなどへ削除を要請しています。みんなの人権110番(0570-003-110)、こどもの人権110番(0120-007-110)、インターネットやLINEでも相談できます。総務省は、本人や代理人(未成年者の場合は親権者など)がサイトの管理者に削除を依頼でき、手続きが分からなければ違法・有害情報相談センター(Webフォームで受付)に相談できるとしています。
自分の子どもが作った側、広めた側だったと分かったときも、隠さず学校に相談します。文部科学省は学校に、警察と連携した対応とともに、被害を受けた子どもの心のケアと、加害の子どもへの指導を求めています。家庭での向き合い方はネットに悪口を書いてしまったときの記事も参考になります。
よくある質問
- 性的ディープフェイクとは何ですか。
- 文部科学省は、生成AIのサイトや画像加工アプリなどで、実在する児童生徒の画像を性的画像に加工して悪用する事案を、いわゆる「性的ディープフェイク」と説明しています。学校行事や卒業アルバムの画像が使われることもあります。
- 子ども同士の冗談なら、問題になりませんか。
- 警察庁などのチラシは、軽い気持ちで他人の画像をAIで加工して投稿することが、トラブルや犯罪、人権侵害につながるケースがあるとし、ふざけ半分でも許されないと伝えています。一度投稿した画像は拡散され、消すことができないともしています。
- 子どもの加工画像が出回ったら、どこに相談すればいいですか。
- 警察の性犯罪被害相談電話(#8103)や警察相談専用電話(#9110)、24時間子供SOSダイヤルなどがあります。画像の削除については、法務局(みんなの人権110番)や違法・有害情報相談センターで、削除依頼の方法を相談できます。
出典・参考
- 文部科学省 事務連絡「性的ディープフェイクによる児童生徒の被害・加害防止のための広報啓発資料の活用等について(依頼)」(令和8年3月12日)
この出典で確認した記述
PDF全10ページ。本文1〜2ページに「昨今、生成AIサイトや画像加工アプリ等により、実在する児童生徒の画像を性的画像に加工して悪用する事案、いわゆる『性的ディープフェイク』が社会的な問題となっており、実際に児童生徒が被害に遭う事案が発生しています。また、児童生徒がこれらの事案の加害者になる事案も多数生じており、学校行事や卒業アルバムの画像を含め、日常の学校生活における様々な画像について、生成AI等を悪用して性的なものに加工し、友人に共有したり、SNSで拡散したりするといった行為も見られるところです。」「本年2月26日に、警察庁が公表したところによると、・令和7年中における警察の取扱い事案(※)数が114件であったこと」「※警察が把握した生成AI等を悪用して児童生徒(18歳未満)の性的画像を作成した事案で、相談・被害申告時に相談・被害者が20歳未満であるもの。」「・被害児童生徒については中高生が全体の約9割を占めており、小学生の被害もあること」「・発生した事案のうち、約6割は同級生・同じ学校の者の中で行われていること」。未然防止について「子供たちを性犯罪・性暴力の加害者にも、被害者にも、傍観者にもさせないための『生命(いのち)の安全教育』」「SNS等での拡散によるトラブルを防ぐための情報モラル教育の充実」。「このような事案が発生してしまった場合には、速やかに警察と連携して対応に当たるとともに、被害を受けた児童生徒に対する心のケア及び加害児童生徒への指導についても遺漏のないようお願いいたします。」。参考資料1「学校が把握した生成AIを用いた性的ディープフェイク事案の例」(4ページ)に事例1〜7。事例1「SNSにアップされている対象生徒の画像を入手し、生成AIを用いて性的な動画に加工し、メッセージアプリ上において、グループに共有した事案」、事例2「対象生徒の画像を教室内で盗撮し、生成AIを用いて第三者とキスをする映像を作成した事案」、事例3「友人からの依頼を受けて、課金制のWEBサイト上で生成AIを用いて、複数の対象生徒のSNSや小学校の卒業アルバムの顔写真を上半身裸の写真等と合成した画像を100人ほど作成し、友人に送信した事案」、事例4「対象生徒の顔写真を性的画像に加工し、販売した事案」、事例7「複数の関係生徒が、作業を分担し、生成AIを用いて対象生徒の裸の画像を作成し、SNSのグループに画像を共有した事案」。参考資料2(警察庁・内閣府・こども家庭庁・文部科学省の啓発チラシ「そのAIの使い方、犯罪かも…~服を脱がすなどの画像加工のリスク~」、5〜6ページ)に「SNS投稿や友達との共有はトラブルや犯罪、人権侵害につながることも」「一度、SNSやグループチャットに投稿した画像は拡散され、もう二度と消すことはできないよ!」「ふざけ半分でも許されない!」。保護者向けに「お子様は普段から生成AIを利用していますか?」「家庭内でルールやモラルについてよく話し合ってください。」。相談窓口として「#8103(ハートさん)発信した地域を管轄する都道府県警察の性犯罪被害相談電話窓口につながります」「#9110 警察相談専用電話 最寄りの警察本部の相談窓口につながります」「24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310 電話をかけた所在地の教育委員会の相談窓口につながります」「ぴったり相談窓口 こどもの性被害等に関する相談窓口を案内するWebサイト」。参考資料3(7ページ)は警察庁生活安全局人身安全・少年課から文部科学省あての依頼文(令和8年2月25日)。本文の「とは何ですか」節、「約9割が中高生」節、「事例」節、図1・図2、3行まとめ、気をつけたいこと1・3段落目、よくある質問はこれによる。報道(ITmedia NEWS 2026年2月27日)も114件・被害者の約9割が中高生と伝えており、数値が一致することを確認した。 - 文部科学省「生成AIによる画像加工に関する啓発」
この出典で確認した記述
「性的ディープフェイクによる児童生徒の被害・加害防止のため、関係省庁と連携し、広報・啓発に取り組んでいます。」。掲載資料として、上記の事務連絡(令和8年3月12日)と、チラシ「そのAIの使い方、犯罪かも・・・~服を脱がすなどの画像加工のリスク~」(PDF、https://www.mext.go.jp/content/20260204-mxt_kyousei01-000047289_3.pdf)。本文の「事例」節2段落目のチラシの紹介はこれと上記事務連絡の参考資料2による。 - 法務省 人権擁護局「インターネット上の人権侵害をなくしましょう」
この出典で確認した記述
「法務局では、インターネット上の誹謗中傷やプライバシーを侵害する情報の削除依頼の方法について助言を行うなど、相談者ご自身が被害の回復を図るための手助けをします。」「人権侵害に該当すると認めた情報について、プロバイダなどへの削除の要請を行っています。」。相談方法として、みんなの人権110番(全国共通人権相談ダイヤル)0570-003-110、インターネット人権相談受付窓口、SNS(LINE)人権相談、こどもの人権110番(フリーダイヤル)0120-007-110。削除依頼の記載事項や送付先は依頼する情報によって異なり、「インターネット上の誹謗中傷書き込み削除依頼の手引き」「削除依頼メールテンプレート」を確認するか最寄りの法務局に相談するよう案内。本文の気をつけたいこと2段落目、よくある質問2つ目はこれによる。 - 総務省「インターネット上の違法・有害情報に関してお困りの方へ」(情報流通プラットフォーム対処法)
この出典で確認した記述
自分の権利を侵害する情報(プライバシー侵害、名誉毀損など)が掲載されている場合、本人または代理人(未成年者の場合は親権者など、または弁護士など)がサイトの管理者に直接削除を依頼できること、具体的な手続きは各サイトに問い合わせること、手続きが分からない場合は違法・有害情報相談センター(http://www.ihaho.jp/)に相談できること、同センターはWebフォームからの相談のみを受け付けていることを確認。本文の気をつけたいこと2段落目、よくある質問2つ目はこれによる。
この記事について
本記事は家庭での工夫を整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や治療の判断に代わるものではありません。特定の機器・アプリ・設定・サービスを推奨するものでもありません。お子さんの状態が気になる場合は、専門機関や学校にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。