3行まとめ
- 九九は小学2年の算数の内容。学習指導要領の解説は、答えを意味から考えることと、「さんしじゅうに」と唱えて慣れることの両方を必要としている。
- 解説には、ある九九を忘れたり曖昧だったりしても、知っている九九を手がかりに組み立て直せるとある。唱える音が途切れたときの足場は、意味の側にある。
- 算数への不安が強い親が頻繁に宿題を手伝った家庭では、子どもの1年間の伸びが小さかったという研究がある。手伝いは長さより、落ち着きのほうが効く。
この記事でわかること
- 九九を習う学年と、学習指導要領での位置づけ
- 「唱える」と「意味から考える」の両方が要る理由
- 忘れた九九を組み立て直す考え方
- かけ算の式の順序で、家庭が気をつけたいこと
- 親の算数への不安と宿題の手伝いを調べた研究
7の段で止まる夜
2の段と5の段はすらすら言えるのに、7の段と8の段になると急に止まる。止まった場所から先は、最初からもう一度唱え直さないと出てこない。親は早く終わらせたくて答えを言い、子どもはそれを繰り返して、その日は終わります。
次の日も同じ場所で止まると、親の声は少しずつ硬くなります。「昨日も言ったよね」。子どもは唱えるのをやめ、九九の時間そのものを避けるようになる。こうなると、覚えていないのは九九なのか、九九の時間の雰囲気なのか、見分けがつかなくなります。
九九は2年の算数で、何を身に付けるものか
小学校学習指導要領(平成29年告示)では、第2学年の算数「乗法」に「乗法九九について知り,1位数と1位数との乗法の計算が確実にできること」と示されています。2年の算数の授業時数は年間175単位時間(1単位時間45分)で、九九はその中の一つの単元です。
九九は2年で終わる内容ではありません。解説は乗法九九を「以後の学年で取り扱う乗法や除法の計算の基盤」と位置づけています。3年の除法では、48÷6や13÷4のように「乗法九九を1回用いて商を求める」計算を扱い、学習指導要領にも「除数と商が共に1位数である除法の計算が確実にできること」とあります。3年で割り算につまずいたように見えるとき、止まっているのが九九のほうだということもあります。
九九は唱えて覚えるだけでいいのですか
唱えることは必要ですが、それだけではありません。解説は、答えを意味から考えることと唱えて慣れることの両方を挙げています。
解説には、例えば3×4なら、結果が12であることを「乗法の意味から考えること」と、その結果を「さんしじゅうに」と唱え習熟させることが必要だと書かれています。乗法の意味とは、一つ分の大きさが決まっているとき、その幾つ分かを求めることです。1皿に5個ずつのみかんが4皿あれば、5+5+5+5を5×4と簡潔に表せます。
九九そのものも、この意味から子どもが作っていく流れで示されています。3×5を3+3+3+3+3=15と求めたり、3×4の答え12に3を足して求めたりする、という例です。唱える音は速さを支え、意味は止まったときの足場になる、と整理できます。
忘れた九九は、知っている九九から組み立て直せる
解説は2年で扱う乗法の性質として、「乗数が1増えれば積は被乗数分だけ増える」ことと、かける数とかけられる数を入れ替えても答えが同じになる交換法則を挙げています。そのうえで、ある九九を忘れたり曖昧だったりする場合は、これらを使って「知っている九九を手がかりに,積を再構成することができる」と書いています。
家庭に置き換えると、7×8で止まった子に答えを言う代わりに、「7×5はいくつだった?」と戻る場所を聞く形になります。35に7を足せば7×6、さらに足せば7×7、もう一度足して7×8。8の段の8×7を知っていれば、交換法則でそのまま使えます。解説は、3の段と4の段を足すと7の段になるといった九九表のきまりを児童が見つけることにも触れ、それが発見の楽しさにつながるとしています。
式の順序は、学校の約束に合わせる
かけ算の宿題で親が戸惑いやすいのが、式の順序です。解説では、「1皿に5個ずつのみかんの4皿分」のような場面を式に表すときは、一つ分の大きさを先に書いて5×4と表すとしています。一方で、計算の結果を求めるときは、交換法則を使って順序を逆にして計算してもよいとも書いています。
つまり、場面を式にする約束と、答えを出す計算とは分けて扱われています。解説は、海外在住経験の長い児童の中には、表す順序が日本と逆になる言語圏で育った子がいることにも留意を求めています。家庭で「どっちでも同じ」と教えると、学校の説明と食い違うことがあります。式の書き方で迷ったら、担任の先生の指導に合わせるのが先です。
親の不安は、手伝いの多さと重なると子どもに届く
米国の小学1・2年生とその親を対象にした研究(Maloneyら、2015年)は、親の算数への不安と子どもの算数の伸びとの関係を調べました。算数への不安が強い親ほど、子どもが1年間に学ぶ算数の量は少なく、年度末の子どもの算数への不安は高くなっていました。ただしそれは、そうした親が算数の宿題を頻繁に手伝っていると答えた場合だけでした。手伝う頻度が低い家庭では、親の不安と子どもの成績や態度との関係は見られず、親の不安は子どもの読みの成績とも関係していませんでした。
これは「算数が苦手な親は手伝うな」という意味ではありません。国も学年の仕組みも違う研究で、日本の家庭にそのまま当てはまるとも限りません。それでも、九九の時間に親が焦ったり、答えを急いだりする様子は、回数を重ねるほど子どもに伝わると考えられます。親が落ち着けないときは、その日の九九を短く切り上げるのも一つの選択です。
家庭で試す3つの工夫
- 唱える前に並べてみる:おはじきや硬貨を「3こずつ4列」に並べ、3×4の場面を作ります。解説は、靴箱のように長方形に並んだものの数を、数えずにかけ算で求められるよさにも触れています。身の回りの並びを探すのも同じ練習です。
- 忘れた段は組み立て直す:止まったら答えを言わず、「知っている九九はどれ?」と戻る場所を聞きます。かける数が1増えるごとに、かけられる数を足していけば届きます。
- 1回5分で終える:風呂や移動中に短く唱え、間違えても言い直すだけにします。長く続けるより、親子ともに落ち着いたまま終われる長さを優先します。
声かけの言い換え例
- 「昨日も言ったよね」→「7×5はいくつだった?」。責める言葉から、戻る場所を探す言葉に変わる。
- (すぐに)「にじゅうはち!」→「ちょっと待つね」。答えを渡す前に、組み立て直す時間を残せる。
- 「なんで覚えられないの」→「どの段が言いにくい?」。全体の評価から、場所の特定に移れる。
- 「もう1回最初から」→「今日は8の段の後ろ半分だけ」。範囲を絞ると、終わりが見える。
家庭で確認するチェックリスト
- 止まったときに、親がすぐ答えを言って終わりにしていない。
- 子どもが「3×4」をおはじきや図で表せるか、一度見たことがある。
- 苦手な段がどこか、親子で同じ場所を指せる。
- 式の順序について、学校の説明と違うことを家で教えていない。
- 九九の時間が、親の声が硬くなる時間になっていない。
家庭の工夫だけで抱え込まないために
九九を扱う時期や、九九カード・暗唱テストの進め方は学校や教科書によって違います。家庭での練習が学校の進め方と食い違うときは、担任の先生の指導に合わせてください。紹介した研究は米国の1・2年生を対象にしたもので、家庭の手伝い方の正解を示すものではありません。
文部科学省が令和4年に行った調査では、小・中学校の通常の学級で「計算する」又は「推論する」に著しい困難を示すとされた児童生徒は3.4%(95%信頼区間3.1〜3.7%)と推計されています。この調査は学級担任等の回答に基づくもので、医師の診断によるものではなく、発達障害のある児童生徒の割合を示すものではないと明記されています。簡単な計算が暗算でできない、計算にとても時間がかかるといった様子が九九以外でも続くときは、練習量を増やす前に、担任の先生や学校に相談する選択肢があります。つまずいた場所の見つけ方は算数につまずいた時、家庭で「どこで止まったか」を見つける、支援の仕組みは勉強のつまずきを家庭だけで抱えないために ― 学校の相談窓口と支援の仕組みで整理しています。
よくある質問
- 九九は何年生で習いますか。
- 小学2年の算数です。学習指導要領の第2学年「乗法」に「乗法九九について知り,1位数と1位数との乗法の計算が確実にできること」と示されています。九九は3年の割り算で、48÷6のように九九を1回使って答えを求める計算の基盤にもなるため、2年で終わる内容ではなく、その後の学年でも使い続けます。
- 九九はひたすら唱えて覚えるものですか。
- 唱えることは必要ですが、それだけではありません。学習指導要領の解説は、3×4の結果が12であることを乗法の意味から考えることと、「さんしじゅうに」と唱えて慣れることの両方が必要だとしています。意味とつながっていると、ある九九を忘れても知っている九九から組み立て直せます。
- 7の段や8の段だけ出てこない時は、どうすればいいですか。
- 止まったところで答えを言う代わりに、知っている九九に戻る方法があります。解説には、かける数が1増えれば答えはかけられる数の分だけ増えることや、交換法則を使って積を組み立て直せることが書かれています。7×8なら7×5=35から7を3回足す、8の段の8×7を使う、といった戻り方です。
- 「5×4」と「4×5」はどちらでもいいのではないですか。
- 答えを出す計算では、順序を逆にしてもかまいません。一方で、「1皿5個の4皿分」のような場面を式に表すときは、一つ分の大きさを先に書く約束で教えられています。学習指導要領の解説はこの二つを分けて扱っています。家庭の説明が学校と食い違わないよう、迷ったら担任の先生の指導に合わせてください。
出典・参考
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編」(平成29年7月)
この出典で確認した記述
第2章「算数科の目標及び内容」の数と計算領域の解説に「整数の乗法については,第2学年で乗法九九を指導する。乗法九九の学習では,例えば3× 4の場合,その結果が12 であることを乗法の意味から考えることと,その結果を『さんしじゅうに』と唱え習熟させることが必要である。」とあること(本文46ページ、PDF 52ページ目。本文の「意味から考えることと唱えて慣れることの両方」の根拠)。第3章 第2学年 A(3)乗法の解説に「乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。」「『5個のまとまり』の4皿分を加法で表現する場合,5+5+5+5と表現することができる。」「一つ分の大きさである5を先に書く場合5× 4と表す。」「なお,海外在住経験の長い児童などへの指導に当たっては,『4×100 mリレー』のように,表す順序を日本と逆にする言語圏があることに留意する。」「ここで述べた被乗数と乗数の順序は,『一つ分の大きさの幾つ分かに当たる大きさを求める』という日常生活などの問題の場面を式で表現する場合に大切にすべきことである。一方,乗法の計算の結果を求める場合には,交換法則を必要に応じて活用し,被乗数と乗数を逆にして計算してもよい。」とあること(本文114〜115ページ、PDF 120〜121ページ目。本文「乗法の意味」「式の順序」の節の根拠)。同じく「乗法に関して乗数が1増えれば積は被乗数分だけ増えるという性質や,乗法についての交換法則について児童が自ら調べるように指導する。」「乗法九九は,以後の学年で取り扱う乗法や除法の計算の基盤となるものとして必要なものである。」とあること(本文116ページ、PDF 122ページ目)。「3×5を3+3+3+3+3=15 のように乗法の意味に基づいて構成したり,3×4の積12 に3を加えることで求めたりするのである。」「3の段と4の段の和が7の段になること」「乗法九九の様々なきまりを見付けるように指導することは,児童が発見する楽しさを味わうことにつながるものである。」とあること(本文117ページ、PDF 123ページ目)。「ある九九を忘れたり曖昧だったりする場合,交換法則や乗法に関して成り立つ性質を用いて,知っている九九を手がかりに,積を再構成することができる。」「靴箱の数や,教室の絵画や習字の作品の数など,長方形のように配列されたものの数は数えることによってではなく乗法で求めることができるという,乗法や乗法九九のよさを味わわせ」とあること(本文118ページ、PDF 124ページ目。本文「組み立て直せる」の節と工夫1の根拠)。第3学年 除法の解説に「除数と商が1位数の場合の除法を指導する。例えば,48÷6や13÷4など,乗法九九を1回用いて商を求めることができる計算である。」とあること(本文148ページ、PDF 154ページ目)。 - 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」
この出典で確認した記述
第2章第3節「算数」第2学年 A(3)乗法のア(エ)に「乗法九九について知り,1位数と1位数との乗法の計算が確実にできること。」とあること(冊子本文68ページ、PDF 69ページ目)。第3学年 A(4)除法のア(エ)に「除数と商が共に1位数である除法の計算が確実にできること。」とあること(冊子本文72ページ、PDF 73ページ目)。冒頭に収録された学校教育法施行規則 別表第一(第五十一条関係)で、算数の授業時数が第1学年136、第2学年175、第3〜6学年各175とされ、備考に「この表の授業時数の一単位時間は,四十五分とする。」とあること(冊子本文12ページ、PDF 13ページ目。本文の「年間175単位時間(1単位時間45分)」の根拠)。 - 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」(令和4年12月13日)
この出典で確認した記述
表4「質問項目に対して学級担任等が回答した内容から、『学習面、行動面の各領域で著しい困難を示す』とされた児童生徒数の割合」の<小学校・中学校>に「『計算する』又は『推論する』に著しい困難を示す 3.4%(3.1%〜3.7%)」とあること(PDF 7ページ目)。数値は95%信頼区間付きの推定値であること。「(9)留意事項」に「本調査における『Ⅰ.児童生徒の困難の状況』については、学級担任等による回答に基づくもので…発達障害の専門家チームによる判断や、医師による診断によるものではない。従って、本調査の結果は、発達障害のある児童生徒数の割合を示すものではなく、特別な教育的支援を必要とする児童生徒数の割合を示すものであることに留意する必要がある。」とあること(PDF 3ページ目)。別添の質問項目(小学校)の「計算する」に「簡単な計算が暗算でできない」「計算をするのにとても時間がかかる」があること(PDF 33ページ目。本文「気をつけたいこと」の様子の例の根拠)。調査時期は令和4年1月から2月であること(PDF 2ページ目)。 - Maloney EA, Ramirez G, Gunderson EA, Levine SC, Beilock SL. Intergenerational Effects of Parents' Math Anxiety on Children's Math Achievement and Anxiety. Psychological Science. 2015;26(9):1480-1488(PubMed 抄録)
この出典で確認した記述
抄録(PMID 26253552、NCBI E-utilities で本文を取得して確認)に「A large field study of children in first and second grade explored how parents' anxiety about math relates to their children's math achievement.」「We found that when parents are more math anxious, their children learn significantly less math over the school year and have more math anxiety by the school year's end-but only if math-anxious parents report providing frequent help with math homework.」「Notably, when parents reported helping with math homework less often, children's math achievement and attitudes were not related to parents' math anxiety.」「Parents' math anxiety did not predict children's reading achievement」とあること。本文「親の不安は、手伝いの多さと重なると子どもに届く」の節の根拠。米国の研究であること、調査規模の詳細は抄録に記載がないため本文では人数を書いていない。
この記事について
本記事は家庭での工夫を整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や治療の判断に代わるものではありません。研究知見や公的資料は「一つの考え方」として紹介しており、家庭ごとに合う・合わないがあります。お子さんの状態が気になる場合は、専門機関や学校にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。