3行まとめ
- 令和4年の調査では、通常の学級で「学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた小中学生は推定8.8%。ただしこれは医師の診断でも発達障害の割合でもなく、教育的な支援が要るかを担任が見取った結果です。
- その子どもたちのうち、校内委員会で「特別な教育的支援が必要」と判断されていたのは28.7%。報告書自身が、残りはそもそも検討がされていない可能性を指摘しています。
- 入口は担任と特別支援教育コーディネーターで、後者は制度上「保護者に対する学校の窓口」と定義された役職です。診断書がないと相談できない、という決まりはありません。
この記事でわかること
- 「支援が必要な子は8.8%」という数字が、実際には何を数えたものなのか
- 困難があるとされた子の約7割が、校内の検討にのっていないという実態
- つまずきを学校に伝えるときに使える、学習面の6つの言葉
- 通級による指導とは何で、何ではないのか
同じところで、また止まっている
家庭でのつまずきは、テストの点が急に落ちるより先に、同じ場所を何度も通ることのほうが目につきます。音読の速さが学年の途中で止まったまま動かない。板書を写しきれずノートが途中で終わっている。そのあいだ家庭はよく動いていて、変わらないとき、多くの親は自分のやり方を疑い、次に子どものやる気を疑ってしまいます。この二つの疑いが、家庭のなかで一番つらい時間を作ります。
8.8%という数字が、実際に数えているもの
文部科学省は令和4年、通常の学級に在籍する児童生徒を対象に調査を行い、74,919人の回答を得ました。学級担任等の回答から「知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた小中学生の割合は推定8.8%(学習面6.5%、行動面4.7%)。小学校10.4%、中学校5.6%です。
引用の途中で落ちがちな注記があります。留意事項には「本調査の結果は発達障害のある児童生徒数の割合を示すものではなく、特別な教育的支援を必要とする児童生徒数の割合を示すもの」と書かれています。支援について考えることと、診断を受けることは同じ手続きではありません。
困難があるとされた子の約7割が、検討にのっていない
同じ調査には、もっと直接的に効いてくる結果があります。「校内委員会において、現在、特別な教育的支援が必要と判断されているか」への回答は、「必要と判断されている」28.7%、「判断されていない」70.6%。教室で学びにくさが見えていると担任が答えた子の、およそ7割が校内の会議では支援が必要と扱われていません。
報告書自身が踏み込んでいます。判断されていない児童生徒については「そもそも校内委員会での検討自体がなされていないことが考えられる」と。個別の教育支援計画の作成は18.1%、個別の指導計画は21.4%、通級は10.6%。一方、令和5年度の調査では小・中学校で校内委員会の設置もコーディネーターの指名も9割以上です。器はほぼ全校にある。あとは、誰かが名前を挙げるかどうかです。
つまずきを伝えるための、6つの言葉
相談しようと決めたとき、次に詰まるのは「何と言えばいいのか」です。「勉強ができない」では学校の側も動きようがありません。手がかりになるのが、この調査が学習面の困難を「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」の6領域に分けて質問していることです。領域別では「聞く」又は「話す」が2.5%、「読む」又は「書く」が3.5%、「計算する」又は「推論する」が3.4%でした。
家庭で伝える文にすると、「一度に二つ以上のことを言われると、後のほうが抜けます」(聞く)、「式を立てるところで止まります。計算そのものはできます」(推論する)。ポイントは、程度ではなく場面を言うことです。
学校の中にある窓口 ― 校内委員会とコーディネーター
学校の中には、この目的で置かれた仕組みが二つあります。ひとつが校内委員会で、文部科学省は「学校内に置かれた(中略)実態把握及び支援の在り方等について検討を行う委員会」と定義しています。担任ひとりの判断ではなく、学校として支え方を決める場です。
もうひとつが特別支援教育コーディネーター。同じ調査はこの役職を「学校内の関係者や福祉・医療等の関係機関との連絡調整及び保護者に対する学校の窓口として(中略)役割を担う者」と定義しています。誰が担当かは学校に聞けば分かります。支援が具体化すると、授業の中の話である「個別の指導計画」と、将来までを含む「個別の教育支援計画」が作られます。
通級による指導は、何で、何ではないのか
通級による指導は、通常の学級に在籍しながら、一部の授業について障害に応じた特別の指導を別の場で受ける指導形態です。学校教育法第81条第1項および同施行規則第140条・第141条に根拠があり、転校は必要ありません。時間は年間35〜280単位時間(学習障害・注意欠陥多動性障害は年間10単位時間が下限)です。
いちばん誤解されやすいのはここです。文部科学省の資料は、これが困難の改善・克服を目的とする指導であり「単に各教科の学習の遅れを取り戻すための指導ではない」と明記しています。指導内容は、自分に合った学習方法を身に付ける、得意・苦手など自分のことを理解する、といったものです。令和5年度は全国で203,376人が受けており、10年前の約2.6倍。対象とするかの判断は「医学的な診断の有無のみにとらわれることのないよう留意し、総合的な見地から判断する」とされています。
家庭から相談を始める4つのステップ
文部科学省が示す通級開始までの流れは、気付き→実態把握→在籍学級での指導の工夫→校内委員会で判断→教育支援委員会で判断→本人・保護者への説明と同意→指導開始、という順序です。家庭が関わる場面は4つです。
①記録する。2週間ほど、日付と場面と止まり方を一行ずつ。「9/3 音読 3行目を飛ばして読み直し2回」。相談が「困っています」ではなく「こういうことが続いています」から始められます。②担任に伝える。記録の中身と、家庭で試したこと、「学校での様子はどうでしょうか」という問いを渡します。③校内での検討を頼む。「校内委員会で一度検討していただくことはできますか」と、名前を出して頼みます。④提案を受け取り、家庭の考えを返す。同意の場面が制度に組み込まれているということは、家庭が納得しないまま進む設計にはなっていないということでもあります。
家庭で試す3つの工夫
- ①「できない」ではなく「どこで止まるか」でメモする:一日の終わりに一行だけ。教科名ではなく場面と止まり方を書きます。「漢字が苦手」ではなく「漢字の細かい部分を書き間違える」。二週間分たまると、たまたまなのか続いているのかが判別できます。
- ②家庭でやることを、教科から学び方へずらす:「この問題を解こう」ではなく「昨日はどのやり方だとできた?」と聞く。子ども自身が自分の取扱説明書を持てると、支援が始まったときにも役立ちます。
- ③学校とのやりとりを一か所にまとめる:いつ、誰に、何を伝え、どう返ってきたかを一冊のノートに。担任が替わるたびに一から説明し直さずに済みます。
声かけの言い換え例
「何回やったら覚えるの?」→ 回数の問題として扱っており、止まっている場所が見えないままになる。
「どのへんから分からなくなった?一緒にたどってみよう」→ 場面を特定する問いになり、そのまま学校に伝えられる情報になる。
「みんなできてるのに、どうしてできないの」→ 比較で追い込むうえに、支援の検討にもつながらない。
「学校の先生にも一度この話をしてみようと思うんだけど、どう?」→ 相談することを子どもに隠さず、本人を置き去りにしないための一言。
家庭で確認するチェックリスト
- 気になっていることを、教科名ではなく「どの場面でどう止まるか」で書き出している。
- それが、いつごろから続いているのかを言えるようにしている。
- 学校での様子を担任にたずねる予定がある。
- 校内委員会・特別支援教育コーディネーターという言葉を、相談で使えるようにしている。
- 診断の有無にかかわらず相談してよいことを確認している。
家庭の工夫だけで抱え込まないために
この記事は、公的機関が公表している制度と調査結果を整理したものであり、お子さんの状態を判断したり、発達や学習の困難があるかどうかを見立てたりするものではありません。紹介した6つの領域も、調査で使われた区分を家庭が状況を言葉にするために借りたものであって、診断項目ではありません。医療にかかるかどうかの判断は、かかりつけ医や専門の医療機関にご相談ください。
制度の運用には地域差があり、学校の説明がこの記事の一般論と食い違う場合は自治体の説明のほうが実際です。相談したからといってすぐに支援が始まるとは限りませんが、検討の場に子どもの名前が挙がった状態と、挙がっていない状態はまったく違います。担任に話しにくいときは、コーディネーターや教頭・校長、市区町村の教育相談窓口という道もあります。
出典・参考
- 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について」(令和4年12月13日・初等中等教育局特別支援教育課)
この出典で確認した記述
調査が令和4年1月から2月に実施され、標本児童生徒数88,516人のうち74,919人について回答が得られ回収率84.6%であること、「知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒の割合の推定値が小学校・中学校8.8%(95%信頼区間8.4%〜9.3%)・高等学校2.2%であり、うち学習面6.5%・行動面4.7%・両方2.3%であること、学校種別で小学校10.4%・中学校5.6%、小学校の学年別で第1学年12.0%・第2学年12.4%・第4学年9.8%・第5学年8.6%・第6学年8.9%であること、学習面の区分が「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」の6領域で「LDI-R-LD診断のための調査票-」を参考に作成されたこと、領域別に「聞く」又は「話す」2.5%・「読む」又は「書く」3.5%・「計算する」又は「推論する」3.4%であること、留意事項に「発達障害の専門家チームによる判断や、医師による診断によるものではない」「本調査の結果は、発達障害のある児童生徒数の割合を示すものではなく、特別な教育的支援を必要とする児童生徒数の割合を示すもの」と記載されていること、校内委員会において特別な教育的支援が必要と判断されている割合が28.7%・判断されていない割合が70.6%であること、「個別の教育支援計画」を作成している18.1%・「個別の指導計画」を作成している21.4%・通級による指導を受けている10.6%であること、考察に「そもそも校内委員会での検討自体がなされていないことが考えられる」および基準近くに分布している児童生徒も一定いることを念頭に支援を検討する必要があるとの記述があることの根拠。 - 文部科学省「令和5年度通級による指導実施状況調査」(令和7年7月・初等中等教育局特別支援教育課)
この出典で確認した記述
通級による指導を受けている児童生徒数が全国で203,376人(前年度比+5,033人)であり、小学校・中学校・高等学校に在籍する児童生徒数に占める割合が1.7%(前年度1.6%)であること、学校種別の内訳が小学校166,556人・中学校34,449人・高等学校2,371人であること、平成25年度の77,882人から令和5年度までの推移が示されていること、および令和2年度から令和5年度までの数値は3月31日を基準として通年で通級による指導を実施した児童生徒数を調査したものであることの根拠。 - 文部科学省「令和5年度特別支援教育体制整備状況調査結果」(令和6年9月・初等中等教育局特別支援教育課)
この出典で確認した記述
調査時点が令和5年5月1日現在であること、校内委員会が「学校内に置かれた発達障害を含む障害のある幼児児童生徒の実態把握及び支援の在り方等について検討を行う委員会」と定義されていること、特別支援教育コーディネーターが「学校内の関係者や福祉・医療等の関係機関との連絡調整及び保護者に対する学校の窓口として、校内における特別支援教育に関するコーディネーター的な役割を担う者」と定義されていること、個別の指導計画が指導目標や指導内容・方法等を盛り込んだ指導計画、個別の教育支援計画が関係機関との連携を図りつつ乳幼児期から学校卒業後までの長期的な視点に立って作成される支援計画と定義されていること、および調査結果の概要に「特に小・中学校においては、いずれの項目も9割以上の達成率である(教師の専門性に関する調査結果を除く)」と記載されていることの根拠。 - 文部科学省「『障害に応じた通級による指導の手引 解説とQ&A(改訂第3版)』(文部科学省 編著)より抜粋」(初等中等教育局特別支援教育課)
この出典で確認した記述
通級による指導が通常の学級に在籍しながら障害に応じた特別の指導を受ける指導形態であり、学校教育法第81条第1項および学校教育法施行規則第140条・第141条に根拠があること、第140条に定める対象が言語障害者・自閉症者・情緒障害者・弱視者・難聴者・学習障害者・注意欠陥多動性障害者・肢体不自由者・病弱者及び身体虚弱者であること、指導時間が小・中学校で年間35単位時間から280単位時間の範囲とされ学習障害・注意欠陥多動性障害のある児童生徒については年間10単位時間が下限であること、および対象とするか否かの判断が障害の状態・特性および児童生徒の発達段階、児童生徒・保護者及び専門家の意見等を踏まえて総合的に行われることの根拠。 - 文部科学省「全教職員で取り組む 通級による指導(教職員向けリーフレット)」
この出典で確認した記述
通級による指導の開始までの流れが「気になる子どもへの気付き→実態把握→在籍学級での指導の工夫→校内委員会で判断→市町村教育委員会で判断(教育支援委員会)→本人・保護者への説明と同意→通級による指導開始」と図示されていること、「通級による指導の対象とするか否かの判断に当たっては、医学的な診断の有無のみにとらわれることのないよう留意し、総合的な見地から判断します」と記載されていること、「障がいによる学習上又は生活の困難の改善又は克服を目的とする指導であり、単に各教科の学習の遅れを取り戻すための指導ではないことに留意する必要がある」と記載されていること、指導内容として「自分に合った学習方法を身に付ける」「得意なこと、苦手なことなど、自分のことを理解する」「気持ちの整理の仕方を身に付ける」「他者との関わり方や、状況に応じた言葉遣いを身に付ける」が挙げられていること、指導の形態が自校通級・他校通級・巡回指導の3つであること、時数が年間35単位時間から280単位時間(週1単位時間から8単位時間)でLD及びADHDのある児童生徒は年間10単位時間が下限であること、および通常の学級担任と通級担当教師・家庭が随時学習の進捗状況等について情報交換を行うなど連携することが重要であることの根拠。 - 文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引~子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて~」(令和3年6月30日・初等中等教育局特別支援教育課)
この出典で確認した記述
同手引が令和3年6月30日に文部科学省初等中等教育局特別支援教育課により公表されたものであること、および第2編が「就学に関する事前の相談・支援、就学先決定、就学先変更のモデルプロセス」を扱っており、就学に関する相談の流れが示されていることの根拠。 - 発達障害ナビポータル(国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター/国立特別支援教育総合研究所 発達障害教育推進センター)
この出典で確認した記述
同サイトが厚生労働省と文部科学省の協力の下、国立障害者リハビリテーションセンター(発達障害情報・支援センター)と国立特別支援教育総合研究所(発達障害教育推進センター)の両センターが共同で運用する国が提供する発達障害に特化したポータルサイトであり、本人・家族向けに乳幼児期・学童期/思春期・青年期/成人期といったライフステージ別の情報が掲載されていることの根拠。
この記事について
本記事は家庭での工夫を整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や治療の判断に代わるものではありません。研究知見や公的資料は「一つの考え方」として紹介しており、家庭ごとに合う・合わないがあります。お子さんの状態が気になる場合は、専門機関や学校にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。