3行まとめ

  1. 文部科学省の令和4年の調査では、通常の学級で「知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた小中学生は推定8.8%。ただしこの数字は、医師の診断でも発達障害の割合でもなく、教育的な支援が要るかどうかを担任が見取った結果です。
  2. その子どもたちのうち、校内委員会で「特別な教育的支援が必要」と判断されていたのは28.7%にとどまります。国の報告書自身が、残りについてはそもそも校内委員会での検討がされていない可能性を指摘しています。
  3. だから家庭からの一言に意味があります。相談の入口は担任と特別支援教育コーディネーターで、後者は制度上「保護者に対する学校の窓口」と定義された役職です。診断書がないと相談できない、という決まりはありません。

この記事でわかること

  • 「支援が必要な子は8.8%」という数字が、実際には何を数えたものなのか
  • 困難があるとされた子の約7割が、校内の検討にのっていないという実態
  • つまずきを学校に伝えるときに使える、学習面の6つの言葉
  • 校内委員会・特別支援教育コーディネーターが、それぞれ何をする仕組みなのか
  • 通級による指導とは何で、何ではないのか。始まるまでに誰が何を判断するのか
  • 家庭から相談を始めるときの、具体的な順番と伝え方

同じところで、また止まっている

学期のはじめに配られたドリルを、今日も同じページで開いています。前に一緒にやったところです。あのときは解けた、と親のほうは覚えている。けれど子どもの鉛筆は、同じ行で止まっています。「これ、この前やったよね」と言いかけて、飲み込む。言えば、子どもの顔がすっと閉じるのが分かっているからです。

家庭でのつまずきは、たいていこういう形で現れます。テストの点が急に落ちるより先に、同じ場所を何度も通ることのほうが目につく。音読の速さが学年の途中で止まったまま動かない。漢字は書けるのに、文章題になると何を聞かれているのか分からなくなる。板書を写すのに時間がかかって、家に持ち帰るノートが途中で終わっている。連絡帳の字が、一学期の初めより崩れている。どれも「今日はたまたま」で説明できてしまう小ささなのに、半年経っても同じ形で残っています。

そのあいだ、家庭は動いていないわけではありません。むしろよく動いています。教材を変え、時間帯を変え、声かけを変え、ときには親が横に座り続ける。それでも変わらないとき、多くの親が最初に疑うのは自分のやり方です。褒め足りないのか、甘いのか、逆に厳しすぎるのか。そして次に、子どものやる気を疑ってしまう。この二つの疑いが、家庭のなかで一番つらい時間を作ります。

ここで一度、視点を外に置いてみます。学校という組織は、こういう子どもがいることを前提に設計されています。担任ひとりの気づきに任せず、複数の教職員で検討する会議が置かれ、保護者の相談を受け止める役職が指名され、必要なら通常の学級に在籍したまま別の指導を受けられる制度がある。それらは、家庭が努力で埋めきれない部分を引き受けるために作られたものです。問題は、その仕組みが家庭からは見えにくいことと、多くの場合、家庭が声を出さないかぎり動き出さないことのほうにあります。

8.8%という数字が、実際に数えているもの

まず、実態を示す数字から見ていきます。文部科学省は令和4年1月から2月にかけて、全国の公立の小・中・高等学校の通常の学級に在籍する児童生徒を対象に、「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」を実施しました。標本として抽出された88,516人のうち74,919人について回答が得られ、回収率は84.6%です。結果は令和4年12月13日に公表されました。

この調査で、質問項目に対して学級担任等が回答した内容から「知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒の割合は、小学校・中学校で推定値8.8%(95%信頼区間8.4%〜9.3%)でした。内訳を見ると、学習面で著しい困難を示すとされたのが6.5%、行動面が4.7%、両方が2.3%です。高等学校では8.8%ではなく2.2%と、大きく下がります。

この数字は「35人学級に3人程度」といった形でよく引用されますが、引用の途中で落ちてしまいがちな注記があります。調査結果の留意事項には、こう書かれています。この調査は学級担任等による回答に基づくもので、特別支援教育コーディネーター又は教頭による記入内容の確認を経て、校長の了解の下で提出された回答に基づくものであり、発達障害の専門家チームによる判断や、医師による診断によるものではない。したがって、本調査の結果は発達障害のある児童生徒数の割合を示すものではなく、特別な教育的支援を必要とする児童生徒数の割合を示すものである、と。

この一文は、家庭にとって重要です。8.8%は「診断がついた子の割合」ではなく、「教室のなかで学びにくさが見えていて、何らかの手当てがあったほうがよい子の割合」です。裏を返せば、支援について考えることと、診断を受けることは、同じ手続きではありません。診断を受けるかどうかを決める前に、教育の側でできることの検討を始めてよい、というのが制度の立て付けです。

学年別の数字も、家庭の実感を裏づけます。小学校全体では10.4%、中学校では5.6%。小学校のなかでは第1学年12.0%、第2学年12.4%が高く、第4学年9.8%、第5学年8.6%、第6学年8.9%と、学年が上がるにつれて下がっていきます。低学年ほど高く出るのは、その年齢での「できなさ」が目立ちやすいこと、そして年齢とともに追いついていく子がいることの両方を示していると読めます。逆に言えば、低学年で目についた困りごとのすべてが、そのまま続くわけではないということでもあります。

もうひとつ、報告書の考察には見落とされやすい指摘があります。分布の状況を見ると、著しい困難を示すとされる基準には達していないものの、基準の近くに分布している児童生徒も一定数いる。だから、基準に該当した児童生徒以外にも特別な教育的支援を必要としている児童生徒がいることを念頭に、どのような支援ができるかを検討する必要がある、と書かれています。支援が要る・要らないの境目は、線ではなくグラデーションだと国の側も認めているわけです。「うちの子は、そこまでではないから」と家庭が線を引いてしまう必要はありません。

困難があるとされた子の約7割が、検討にのっていない

同じ調査には、家庭にとってもっと直接的に効いてくる結果があります。この調査は困難の状況だけでなく、その子どもたちが実際にどんな支援を受けているかも聞いているのです。

「校内委員会において、現在、特別な教育的支援が必要と判断されているか」という設問に対し、学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた小中学生のうち「必要と判断されている」は推定値28.7%、「必要と判断されていない」は70.6%でした。つまり、教室で学びにくさが見えていると担任が答えた子どもの、およそ7割が、校内の会議では「支援が必要」と扱われていないことになります。

これをどう読むかについて、報告書自身が踏み込んでいます。校内委員会において特別な教育的支援が必要と判断されていない児童生徒については、そもそも校内委員会での検討自体がなされていないことが考えられる。そのため、校内委員会が効果的に運用されていないなど、学校全体で取り組めていない状況が見受けられる、と。判断されなかったのではなく、議題にすらのっていない可能性が高い、という自己点検です。

関連する数字も同じ方向を向いています。困難を示すとされた小中学生のうち、「個別の教育支援計画」を作成しているのは18.1%、「個別の指導計画」を作成しているのは21.4%、通級による指導を受けているのは10.6%でした。いずれも、8.8%という入口の数字に対して、支援の実体に届いている割合はかなり小さいことが分かります。

ここから導かれる結論は、責める向きの話ではありません。学校の体制そのものは整ってきています。文部科学省の「令和5年度特別支援教育体制整備状況調査」(令和5年5月1日現在)では、校内委員会の設置、実態把握、特別支援教育コーディネーターの指名、個別の指導計画・個別の教育支援計画の作成という各項目について、小・中学校ではいずれも9割以上の達成率だと報告されています。器はほぼ全校にある。それでも、目の前の一人ひとりが議題にのるかどうかは、誰かが名前を挙げるかどうかにかかっています。

担任は毎日30人前後を見ています。学級のなかで最も目立つ困りごとから順に手が回るのは、責められることではありません。だからこそ、家庭からの「気になっていることがあります」という一言が、その子を検討の場に乗せる現実的な引き金になります。家庭は学校の外にいるのではなく、この仕組みを動かせる数少ない当事者のひとつです。

つまずきを伝えるための、6つの言葉

相談しようと決めたとき、次に詰まるのは「何と言えばいいのか」です。「勉強ができない」では、学校の側も動きようがありません。「うちの子、発達障害でしょうか」と切り出すのも、話が診断の話題に寄りすぎて、教育上の手当ての検討から遠ざかることがあります。

手がかりになるのが、先ほどの調査で使われた枠組みです。この調査は学習面の困難を、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」という6つの領域に分けて質問しています(学習障害の判断に用いられる調査票を参考に作成されたものです)。この6つは、家庭が観察した内容を学校に伝えるときの、そのまま使える語彙になります。

領域別の結果も出ています。小中学生では、「聞く」又は「話す」に著しい困難を示すとされた割合が2.5%、「読む」又は「書く」が3.5%、「計算する」又は「推論する」が3.4%でした。学習のつまずきは算数や漢字といった教科の形で現れますが、その下にあるのは教科より手前の、こうした働きの得意・不得意である場合があります。

学習面の困難を分けて見るための6つの領域を示した図。1つ目は聞く・話す。指示が通りにくい、集団の中だと聞き取りにくい、順序立てて話すのが難しいなど。小中学生で著しい困難を示すとされた割合は2.5%。2つ目は読む・書く。音読が遅い、行を飛ばす、読めても内容が入らない、字の形や大きさが整わないなど。割合は3.5%。3つ目は計算する・推論する。暗算に時間がかかる、文章題の立式が分からない、量や単位の理解が難しいなど。割合は3.4%。いずれも診断名ではなく、家庭が見たことを学校に伝えるための言葉として使う。
図1:学習のつまずきを、教科名ではなく6つの領域で言い分ける。(文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)」の質問項目の区分より作成)

家庭で伝える文にすると、たとえばこうなります。「聞く」なら、「一度に二つ以上のことを言われると、後のほうが抜けます。個別に言えば通じます」。「読む」なら、「音読は一学期の初めから速さが変わっていません。行を飛ばして読み直すことが多いです」。「書く」なら、「板書を写しきれずに帰ってくる日が週に何度かあります」。「計算する」なら、「筆算は正確ですが、九九の範囲の暗算にとても時間がかかります」。「推論する」なら、「式を立てるところで止まります。計算そのものはできます」。

ポイントは、程度ではなく場面を言うことです。「苦手です」より「こういう場面で、こう止まります」のほうが、学校の側は次の手を考えやすい。もうひとつ、いつからそうなのかを添えると、話が具体化します。学期の途中から急に、なのか、入学時からずっと、なのかで、検討の方向が変わるからです。この記録の取り方については、算数につまずいた時、家庭で「どこで止まったか」を見つけるで扱った「止まった場所を特定する」考え方が、そのまま使えます。

学校の中にある窓口 ― 校内委員会とコーディネーター

では、その言葉を誰に届けるのか。学校の中には、この目的のために置かれた仕組みが二つあります。

ひとつが校内委員会です。文部科学省の体制整備状況調査は、校内委員会を「学校内に置かれた発達障害を含む障害のある幼児児童生徒の実態把握及び支援の在り方等について検討を行う委員会」と定義しています。担任ひとりの判断ではなく、学校として実態を把握し、どう支えるかを決める場です。前の節で見た28.7%という数字は、この会議に子どもの名前が挙がり、支援が必要だと結論されたかどうかを聞いたものでした。

もうひとつが特別支援教育コーディネーターです。同じ調査は、この役職を「学校内の関係者や福祉・医療等の関係機関との連絡調整及び保護者に対する学校の窓口として、校内における特別支援教育に関するコーディネーター的な役割を担う者」と定義しています。定義そのものに「保護者に対する学校の窓口」と書かれている点が大事です。家庭が相談することは、この役職の想定された使い方の中心にあります。多くの場合、通常の学級の担任や特別支援学級の担任、養護教諭などが兼務で指名されており、誰が担当かは学校に聞けば分かります。

この二つに加えて、支援が具体化したときに作られるのが個別の指導計画個別の教育支援計画です。前者は、一人ひとりの状態に応じたきめ細かな指導が行えるよう、指導目標や指導内容・方法を具体的に盛り込んだ指導計画。後者は、教育・福祉・医療・労働などの関係機関と連携しながら、乳幼児期から学校卒業後までの長期的な視点で一貫した支援を行うために作られる計画です。名前が似ていますが、前者は学校の授業の中の話、後者は学校の外や将来までを含む話、と分けて覚えると混乱しません。進級や進学のときに引き継がれるのは後者の役割です。

体制の整備状況を見ると、これらは特別な学校だけのものではありません。令和5年度の調査では、小・中学校において校内委員会の設置・実態把握・コーディネーターの指名・二つの計画の作成のいずれの項目も9割以上の達成率でした。つまり、お子さんの通う学校にも、ほぼ確実にこの窓口は存在します。あとは、そこに話が届くかどうかです。

通級による指導は、何で、何ではないのか

相談を進めるなかで名前が出てくることがあるのが、通級による指導です。誤解も多い制度なので、輪郭を押さえておきます。

通級による指導とは、通常の学級に在籍しながら、大部分の授業を通常の学級で受け、一部の授業について障害に応じた特別の指導を別の場(通級指導教室)で受ける指導形態です。学校教育法第81条第1項、および学校教育法施行規則第140条・第141条に根拠があります。対象として省令に定められているのは、言語障害者、自閉症者、情緒障害者、弱視者、難聴者、学習障害者、注意欠陥多動性障害者、肢体不自由・病弱および身体虚弱の児童生徒です。転校は必要ありません。在籍はそのままで、自分の学校の教室に通う「自校通級」、近隣の学校に通う「他校通級」、担当の教師が学校を巡回して指導する「巡回指導」という形があります。

指導の時間は、小・中学校で年間35単位時間から280単位時間(週1単位時間から8単位時間)の範囲とされ、学習障害および注意欠陥多動性障害のある児童生徒については年間10単位時間が下限となっています。月に1回程度から始められる幅がある、ということです。

そして、ここが一番誤解されやすいところですが、通級による指導は教科の遅れを取り戻す補習ではありません。文部科学省の資料は、これが障害による学習上又は生活上の困難の改善・克服を目的とする指導であり、単に各教科の学習の遅れを取り戻すための指導ではないことに留意する必要がある、と明記しています。実際の指導内容として挙げられているのは、自分に合った学習方法を身に付ける、得意なこと・苦手なことなど自分のことを理解する、気持ちの整理の仕方を身に付ける、他者との関わり方や状況に応じた言葉遣いを身に付ける、といったものです。教科の穴を埋めるのではなく、学び方そのものを手に入れる時間だと考えると近い。

利用は広がっています。「令和5年度通級による指導実施状況調査」(令和7年7月公表)によれば、通級による指導を受けている児童生徒数は全国で203,376人。前年度から5,033人増え、小学校・中学校・高等学校に在籍する児童生徒数に占める割合は1.7%です。内訳は小学校166,556人、中学校34,449人、高等学校2,371人。10年前の平成25年度が77,882人だったことと比べると、およそ2.6倍になっています。珍しい選択肢ではなくなった、というのが数字の示すところです。

もうひとつ、家庭が知っておくと違うことがあります。通級による指導の対象とするか否かの判断にあたっては、医学的な診断の有無のみにとらわれることのないよう留意し、総合的な見地から判断するとされています。診断書がなければ相談すらできない、ということではありません。もちろん、判断は障害の状態や特性、発達の段階、本人・保護者および専門家の意見等を踏まえて総合的に行われるため、医療の情報が役に立つ場面はあります。ただ、順番として「まず診断を取らなければ」と家庭が身構える必要はない、ということです。

なお、通級による指導が始まったあとも、家庭の役割はなくなりません。資料は、指導の効果を通常の学級や日常生活に広げるためには、通常の学級担任・通級の担当教師・家庭が随時、学習の進捗状況等について情報交換を行うなど連携することが重要だとしています。二つの計画は、そのやりとりの土台として使われます。

家庭から相談を始める4つのステップ

制度の全体像が見えたところで、実際の順番に落とし込みます。文部科学省の資料が示す通級による指導の開始までの流れは、気になる子どもへの気付き → 実態把握 → 在籍学級での指導の工夫 → 校内委員会で判断 → 市町村教育委員会(教育支援委員会)で判断 → 本人・保護者への説明と同意 → 指導開始、という順序です。家庭から見ると、関わる場面は次の4つに整理できます。

家庭から相談を始めるときの4つのステップを示した流れ図。ステップ1、家庭で2週間ほど記録する。いつ・どの場面で・どう止まったかを短く書き留め、聞く・話す・読む・書く・計算する・推論するのどれに近いか見当をつける。ステップ2、担任に時間をもらって伝える。連絡帳や電話で15分ほどの相談時間を頼み、程度ではなく場面を伝える。ステップ3、校内委員会での検討と特別支援教育コーディネーターへの相談を依頼する。担任経由でも直接でもよい。ステップ4、学校からの提案を受け取り、家庭の希望も伝える。学級での配慮、個別の指導計画、通級による指導などの選択肢が出てくる。決定は本人・保護者への説明と同意を経て行われる。
図2:家庭が関わるのは、記録・相談・依頼・合意の4か所です。(文部科学省の通級による指導に関する資料が示す開始までの流れをもとに、家庭の側から整理)

ステップ1は、記録です。2週間ほどでかまいません。日付と、場面と、どう止まったかを一行ずつ書き留めます。「9/3 音読 3行目を飛ばして読み直し2回」「9/5 算数の文章題 式が立てられず10分」。前の節の6つの領域のどれに近いかを、あとから見当づけられれば十分です。この記録があると、相談は「困っています」ではなく「こういうことが続いています」から始められます。

ステップ2は、担任に伝えることです。連絡帳や電話で、15分ほど話す時間をもらいたいと頼みます。伝えるのは記録の中身と、家庭で試したこと、そして「学校での様子はどうでしょうか」という問いです。家庭でだけ起きているのか、学校でも同じなのかは、次の判断を大きく左右します。ここで学校側の見え方が家庭とまったく違うこともありますが、それも情報です。

ステップ3は、校内での検討を頼むことです。「校内委員会で一度検討していただくことはできますか」「特別支援教育コーディネーターの先生にも相談したいのですが」と、名前を出して頼みます。前の節で見たとおり、この二つは制度上そのために置かれている仕組みで、コーディネーターは保護者に対する窓口と定義された役職です。遠慮の必要はありません。担任を通しても、学校に直接聞いても構いません。

ステップ4は、提案を受け取り、家庭の考えを返すことです。出てくる選択肢は一つではありません。学級のなかでの配慮(座席、指示の出し方、板書の量、テストの受け方など)で足りることもあれば、個別の指導計画を作る話になることも、通級による指導の検討に進むこともあります。通級については市町村教育委員会(教育支援委員会)の判断を経たうえで、本人・保護者への説明と同意という手順が置かれています。同意の場面が制度に組み込まれているということは、家庭が納得しないまま進む設計にはなっていない、ということでもあります。分からないことは、その場で聞いて構いません。

家庭で試す3つの工夫

  • ① 「できない」ではなく「どこで止まるか」でメモする:一日の終わりに一行だけ書きます。教科名ではなく、場面と止まり方を書くのがコツです。「漢字が苦手」ではなく「漢字の細かい部分を書き間違える」「読めても内容が頭に入らない」。この書き方は、そのまま学校で使える言葉になります。二週間分たまると、たまたまなのか続いているのかが自分でも判別できるようになり、相談の場で言葉に詰まらなくなります。
  • ② 家庭でやることを、教科から学び方へずらす:通級による指導が目指しているのは、教科の遅れを埋めることではなく、自分に合った学習方法を身に付け、得意なこと・苦手なことを自分で理解することでした。家庭でも同じ方向に少しずらせます。「この問題を解こう」ではなく「昨日はどのやり方だとできた?」と聞く。声に出すと入るのか、図にすると分かるのか、時間を区切ると続くのか。子ども自身が自分の取扱説明書を持てると、支援が始まったときにも役立ちます。
  • ③ 学校とのやりとりを一か所にまとめる:いつ、誰に、何を伝え、どう返ってきたかを、一冊のノートかスマートフォンのメモにまとめておきます。担任が替わる、学年が上がる、転校する。そのたびに一から説明し直すのは家庭にとって重い作業です。制度の側にも、長期的な視点で一貫した支援を行うための「個別の教育支援計画」という仕組みがありますが、家庭の手元にも同じ機能の控えがあると、引き継ぎのときに具体的な話から始められます。

声かけの言い換え

声かけの言い換え例

「何回やったら覚えるの?」→ 回数の問題として扱っており、止まっている場所が最後まで見えないままになる。

「どのへんから分からなくなった? 一緒にたどってみよう」→ 場面を特定する問いになり、そのまま学校に伝えられる情報になる。

「みんなできてるのに、どうしてできないの」→ 比較で追い込むうえに、支援の検討にも一切つながらない言い方。

「学校の先生にも、この話を一度してみようと思うんだけど、どう?」→ 相談することを子どもに隠さず、本人を置き去りにしないための一言。

相談を始める前のチェックリスト

家庭で確認するチェックリスト

  • 気になっていることを、教科名ではなく「どの場面でどう止まるか」で書き出している。
  • それが、いつごろから続いているのかを言えるようにしている。
  • 家庭での様子だけでなく、学校での様子を担任にたずねる予定がある。
  • 校内委員会・特別支援教育コーディネーターという言葉を、相談で使えるようにしている。
  • 診断の有無にかかわらず相談してよいことを、家庭のなかで確認している。

気をつけたいこと・相談先

家庭の工夫だけで抱え込まないために

この記事は、公的機関が公表している制度と調査結果を整理したものであり、お子さんの状態を判断したり、発達や学習の困難があるかどうかを見立てたりするものではありません。記事で紹介した6つの領域も、調査で使われた区分を家庭が状況を言葉にするために借りたものであって、家庭でチェックして当てはめるための診断項目ではありません。数を数えて「うちの子は何個当てはまる」と判定する使い方はしないでください。調査の留意事項にあるとおり、この種の見取りは医師による診断とは別のものです。医療にかかるかどうかの判断は、かかりつけ医や専門の医療機関にご相談ください。

制度の運用には地域差があります。通級指導教室が校内にあるか近隣校か、申し込みの時期や書式、教育支援委員会の開催回数などは、市区町村によって異なります。学校で得られる説明が、この記事の一般論と食い違う場合は、お住まいの自治体の説明のほうが実際です。また、学校に相談したからといって、すぐに支援が始まるとは限りません。検討に時間がかかることも、学級内の配慮で様子を見ることになる場合もあります。それでも、検討の場に子どもの名前が挙がった状態と、挙がっていない状態はまったく違います。

相談先は学校だけではありません。担任に話しにくい事情があるときは、特別支援教育コーディネーターや学年主任、教頭・校長に直接相談する道があります。学校とのやりとりだけでは行き詰まるときは、市区町村や都道府県の教育委員会・教育センターの教育相談窓口を利用する選択肢もあります。発達に関する情報や相談先を調べたい場合は、厚生労働省と文部科学省の協力の下、国立障害者リハビリテーションセンターと国立特別支援教育総合研究所が共同で運営する「発達障害ナビポータル」に、本人・家族向けのライフステージ別の情報がまとまっています。就学や学びの場の変更に関する相談の流れについては、文部科学省の「障害のある子供の教育支援の手引」が、事前の相談・支援から就学先決定までのモデルプロセスを示しています。

最後に、家庭のなかのことを。つまずきが続く時期は、子ども本人が一番長くその状態と付き合っています。相談を進めるときは、本人に伏せたまま話を進めないほうが、あとの負担が軽くなります。制度の側にも本人・保護者への説明と同意という段階が置かれているのは、その考え方に立っているからです。子どもが学校に行きしぶる、気持ちの落ち込みが続くといった様子が見えるときは、学習の話からいったん離れて、「学校に行きたくない」と言われたら ― 登校しぶりへの初動対応もあわせてご覧ください。制度や統計は年度によって変わることがあるため、最新の情報は文部科学省などの公式サイトでご確認ください。

出典・参考

  • 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について」(令和4年12月13日・初等中等教育局特別支援教育課)
    調査が令和4年1月から2月に実施され、標本児童生徒数88,516人のうち74,919人について回答が得られ回収率84.6%であること、「知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒の割合の推定値が小学校・中学校8.8%(95%信頼区間8.4%〜9.3%)・高等学校2.2%であり、うち学習面6.5%・行動面4.7%・両方2.3%であること、学校種別で小学校10.4%・中学校5.6%、小学校の学年別で第1学年12.0%・第2学年12.4%・第4学年9.8%・第5学年8.6%・第6学年8.9%であること、学習面の区分が「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」の6領域で「LDI-R-LD診断のための調査票-」を参考に作成されたこと、領域別に「聞く」又は「話す」2.5%・「読む」又は「書く」3.5%・「計算する」又は「推論する」3.4%であること、留意事項に「発達障害の専門家チームによる判断や、医師による診断によるものではない」「本調査の結果は、発達障害のある児童生徒数の割合を示すものではなく、特別な教育的支援を必要とする児童生徒数の割合を示すもの」と記載されていること、校内委員会において特別な教育的支援が必要と判断されている割合が28.7%・判断されていない割合が70.6%であること、「個別の教育支援計画」を作成している18.1%・「個別の指導計画」を作成している21.4%・通級による指導を受けている10.6%であること、考察に「そもそも校内委員会での検討自体がなされていないことが考えられる」および基準近くに分布している児童生徒も一定いることを念頭に支援を検討する必要があるとの記述があることの根拠。https://www.mext.go.jp/content/20230524-mext-tokubetu01-000026255_01.pdf(確認日 2026-08-27)。
  • 文部科学省「令和5年度通級による指導実施状況調査」(令和7年7月・初等中等教育局特別支援教育課)
    通級による指導を受けている児童生徒数が全国で203,376人(前年度比+5,033人)であり、小学校・中学校・高等学校に在籍する児童生徒数に占める割合が1.7%(前年度1.6%)であること、学校種別の内訳が小学校166,556人・中学校34,449人・高等学校2,371人であること、平成25年度の77,882人から令和5年度までの推移が示されていること、および令和2年度から令和5年度までの数値は3月31日を基準として通年で通級による指導を実施した児童生徒数を調査したものであることの根拠。https://www.mext.go.jp/content/20250715-mxt_tokubetu01-000037861_02.pdf(確認日 2026-08-27)。
  • 文部科学省「令和5年度特別支援教育体制整備状況調査結果」(令和6年9月・初等中等教育局特別支援教育課)
    調査時点が令和5年5月1日現在であること、校内委員会が「学校内に置かれた発達障害を含む障害のある幼児児童生徒の実態把握及び支援の在り方等について検討を行う委員会」と定義されていること、特別支援教育コーディネーターが「学校内の関係者や福祉・医療等の関係機関との連絡調整及び保護者に対する学校の窓口として、校内における特別支援教育に関するコーディネーター的な役割を担う者」と定義されていること、個別の指導計画が指導目標や指導内容・方法等を盛り込んだ指導計画、個別の教育支援計画が関係機関との連携を図りつつ乳幼児期から学校卒業後までの長期的な視点に立って作成される支援計画と定義されていること、および調査結果の概要に「特に小・中学校においては、いずれの項目も9割以上の達成率である(教師の専門性に関する調査結果を除く)」と記載されていることの根拠。https://www.mext.go.jp/content/20240906mxt_tokubetu02-000037861-02rr.pdf(確認日 2026-08-27)。
  • 文部科学省「『障害に応じた通級による指導の手引 解説とQ&A(改訂第3版)』(文部科学省 編著)より抜粋」(初等中等教育局特別支援教育課)
    通級による指導が通常の学級に在籍しながら障害に応じた特別の指導を受ける指導形態であり、学校教育法第81条第1項および学校教育法施行規則第140条・第141条に根拠があること、第140条に定める対象が言語障害者・自閉症者・情緒障害者・弱視者・難聴者・学習障害者・注意欠陥多動性障害者・肢体不自由者・病弱者及び身体虚弱者であること、指導時間が小・中学校で年間35単位時間から280単位時間の範囲とされ学習障害・注意欠陥多動性障害のある児童生徒については年間10単位時間が下限であること、および対象とするか否かの判断が障害の状態・特性および児童生徒の発達段階、児童生徒・保護者及び専門家の意見等を踏まえて総合的に行われることの根拠。https://www.mext.go.jp/tsukyu-guide/institutional/index.html(確認日 2026-08-27)。
  • 文部科学省「全教職員で取り組む 通級による指導(教職員向けリーフレット)」
    通級による指導の開始までの流れが「気になる子どもへの気付き→実態把握→在籍学級での指導の工夫→校内委員会で判断→市町村教育委員会で判断(教育支援委員会)→本人・保護者への説明と同意→通級による指導開始」と図示されていること、「通級による指導の対象とするか否かの判断に当たっては、医学的な診断の有無のみにとらわれることのないよう留意し、総合的な見地から判断します」と記載されていること、「障がいによる学習上又は生活の困難の改善又は克服を目的とする指導であり、単に各教科の学習の遅れを取り戻すための指導ではないことに留意する必要がある」と記載されていること、指導内容として「自分に合った学習方法を身に付ける」「得意なこと、苦手なことなど、自分のことを理解する」「気持ちの整理の仕方を身に付ける」「他者との関わり方や、状況に応じた言葉遣いを身に付ける」が挙げられていること、指導の形態が自校通級・他校通級・巡回指導の3つであること、時数が年間35単位時間から280単位時間(週1単位時間から8単位時間)でLD及びADHDのある児童生徒は年間10単位時間が下限であること、および通常の学級担任と通級担当教師・家庭が随時学習の進捗状況等について情報交換を行うなど連携することが重要であることの根拠。https://www.mext.go.jp/content/20250929-mext-tokubetu01-000043061_02.pdf(確認日 2026-08-27)。
  • 文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引~子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて~」(令和3年6月30日・初等中等教育局特別支援教育課)
    同手引が令和3年6月30日に文部科学省初等中等教育局特別支援教育課により公表されたものであること、および第2編が「就学に関する事前の相談・支援、就学先決定、就学先変更のモデルプロセス」を扱っており、就学に関する相談の流れが示されていることの根拠。https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1340250_00004.htm(確認日 2026-08-27)。
  • 発達障害ナビポータル(国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター/国立特別支援教育総合研究所 発達障害教育推進センター)
    同サイトが厚生労働省と文部科学省の協力の下、国立障害者リハビリテーションセンター(発達障害情報・支援センター)と国立特別支援教育総合研究所(発達障害教育推進センター)の両センターが共同で運用する国が提供する発達障害に特化したポータルサイトであり、本人・家族向けに乳幼児期・学童期/思春期・青年期/成人期といったライフステージ別の情報が掲載されていることの根拠。https://hattatsu.go.jp/(確認日 2026-08-27)。

この記事について

本記事は、学習のつまずきに関わる学校の相談体制と支援の仕組みについて、公的機関が公表している一般的な情報を整理したものであり、お子さんの状態を判断したり、発達障害や学習障害の有無を見立てたりするものではありません。また、支援の利用可否や、学習成果の向上を保証するものでもありません。記事中で紹介した学習面の6つの領域は、調査で用いられた区分を家庭が状況を言葉にするために参照したものであって、家庭で当てはめて判定するための項目ではありません。医療にかかるかどうかの判断は、かかりつけ医や専門の医療機関にご相談ください。通級指導教室の設置状況、申し込みの時期や手続き、教育支援委員会の運用は市区町村によって異なるため、実際の対応については通っている学校およびお住まいの自治体の説明が優先します。制度・統計は改正や更新により変わることがあるため、最新の情報は文部科学省などの公式サイトでご確認ください。

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