3行まとめ
- 2020年4月から、しつけであっても体罰は法律で禁止されています。国の定義では、親がしつけのつもりでも身体に苦痛や不快感を意図的にもたらす罰であれば、どんなに軽くても体罰にあたります。一方で、道に飛び出しそうな手をつかむような保護のための行為は含まれません。
- 国のとりまとめは、この法改正を「親を罰したり、追い込むことを意図したものではない」と明記しています。
- 代わりの手立ては精神論ではなく手順の話です。肯定文で・具体的に・近づいて・落ち着いた声で伝える、できていることを具体的に褒める、そして親自身が5秒数える・その場を離れる・人に頼る、という組み立てです。
この記事でわかること
- 2020年の児童福祉法等改正と2022年の民法改正で、しつけをめぐる法律の何が変わったのか
- 国の定義における「体罰にあたる行為」と「あたらない行為」の線引き
- 叩く・怒鳴るがなぜ長い目で見て逆向きに働くのか
- とっさの場面で使える言い換えと、親自身のための手立て・相談先
「もうやめよう」と思った翌日に、また出てしまう
手が出てしまう場面は、腹が立ったから叩いたというより、言葉が届かない状態が続いて余力が尽きたときに出ます。やっかいなのは、この出来事が家の中で完結してしまうことです。一人で反省を繰り返すうちに「自分は親として向いていないのではないか」という方向へ話が進んでしまう。けれど国がまとめた資料は、叩いてしまう親を責める書き方をしていません。扱われているのは意志の強さではなく、段取りです。
公的情報の見方 ― 法律は何を変え、何を変えなかったのか
令和元年6月に成立した児童福祉法等の改正法によって、親権者等は児童のしつけに際して体罰を加えてはならないことが法律に明記され、令和2年4月1日に施行されました。これを受けて公表されたのが「体罰等によらない子育てのために」というとりまとめです。さらに令和4年12月公布の民法等の改正で、「懲戒権」を定めていた民法822条が削除され、新821条が子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならないと定めました。見落とされがちですが民法820条は変わっておらず、しつけをしてはいけなくなったのではなく、しつけの手段から罰が外れた、という整理になります。
線引きも明快です。とりまとめは「たとえしつけのためだと親が思っても、身体に何らかの苦痛を引き起こし、又は不快感を意図的にもたらす行為(罰)である場合は、どんなに軽いものであっても体罰に該当し、法律で禁止される」と述べています。基準が「親の意図」ではなく「その行為が苦痛や不快感を与える罰かどうか」に置かれているのが特徴です。挙げられている例は、三回注意したが聞かないので頬を叩いた、長時間正座をさせた、宿題をしなかったので夕ご飯を与えなかった、など。逆に体罰に該当しないものも明示されており、道に飛び出しそうな手をつかむような保護のための行為や、他の子どもへの暴力を止める行為は含まれません。そして定義のすぐ後ろには、これは親を罰したり、追い込むことを意図したものではないという一文が置かれています。
「なぜ効かないのか」の説明もあります。叩かれたり怒鳴られたりすると恐怖心等から一時的に言うことを聞くかもしれないが、これは、どうしたらよいのかを自分で考えたり学んでいるわけではないとし、むしろ暴力的な言動のモデルを示すことになる、保護者に恐怖心を抱くと必要なときに悩みを相談することが難しくなる、と続きます。根拠として、体罰を受けていた子どもは行動問題のリスクが高まるとする国内の前向き研究(藤原武男ほか、2017年)と、軽い体罰であっても有害さは深刻な身体的虐待と類似しているとするメタアナリシス(ガーショフほか、2016年)が引かれています。同時に、その後の適切な関わりや周囲の人々の支援により、悪影響を回復することも報告されているとも書かれています。
家庭サイズの3ステップ
とりまとめは工夫を「子どもとの関わりの工夫」と「保護者自身の工夫」に分けています。ここでは「抱え込まない」を加えた三つで整理します。
①間を作る。「保護者自身の工夫」は、感情を消せとは書いていません。まずそういう気持ちに気付き、認めることが大切だという順序で、そのうえで、それは子どものことが原因なのか、自分の体調や忙しさ、孤独感が関係しているのかを振り返ると気持ちが少し落ち着くことがある、と続きます。具体策は、深呼吸する、ゆっくり5秒数える、窓を開けて風にあたる、時には保護者自身が休むこと。手が出るまでの数秒に別の行動を差し込む形になっています。
②伝え方を変える。とりまとめは、大声で怒鳴るよりも「ここでは歩いてね」など、肯定文で何をすべきかを具体的に、また、穏やかに、より近づいて、落ち着いた声で伝えると伝わりやすい、としています。この一文には四つの指示が入っています。肯定文にする、具体的にする、近づく、声を落とす。怒鳴っている場面は、この四つがすべて逆になっています。③抱え込まない。実務的に効くのが次の一文です。子育てには気力・体力をとても使うため、困ってから相談に行こうと思っても、その気力が湧かなくなってしまうこともある。相談は限界の日にするものではなく、平時に細く始めておくものという設計です。
家庭で試す3つの工夫
- ①出やすい時間帯を一つだけ特定する:一日じゅう気を張るのは続きません。朝の登校前、宿題の時間、寝る前——まず一つを選び、そこだけ段取りを変えます。時間を5分前倒しする、口で言う代わりに紙に書いて渡す。とりまとめが「身の周りの環境を整えてみましょう」と述べているのは、叱らないでよい状況を先に作るという発想です。
- ②「間を作る動作」を一つ決めて、家族に宣言しておく:「怒りそうになったら、お母さんは一回そこの窓を開けるから」と言っておけば、その動作が冷たい態度ではなく共有された合図になります。深呼吸・5秒・風にあたるは、いずれも数秒で完結する動作です。
- ③一日の終わりに、できていたことを一つだけ言葉にする:とりまとめは、すぐに褒めるのが一番効果的だが寝る前等でもよいと書いています。朝に怒鳴ってしまった日ほど、この一言は関係の修復として働きます。
声かけの言い換え例
「何回言わせるの!いいかげんにしなさい!」→ 回数を責める言い方は、行動の中身を伝えていない。何をすべきかを具体的に伝えるほうが伝わりやすい。
「先に靴下だけはいてね。そのあと歯みがき」→ やることを区切って、肯定文で、順番に。近づいて、落ち着いた声で言うところまでが一組。
「お兄ちゃんはこんなことしなかったよ」→ きょうだいを引き合いにしてけなす言い方は、とりまとめが「子どもの心を傷つける行為」として挙げている例。
「昨日は自分で始められてたよね。今日はどこで止まってる?」→ 比べる相手をその子自身の過去に置き、できていた事実を先に返す。
一週間、試したあとに見返したいチェックリスト
- 声が大きくなりやすい時間帯を一つ特定し、その時間の段取りを変えてみた。
- 間を作る動作(5秒数える・窓を開けるなど)を決め、子どもにも伝えてある。
- 指示を出すとき、遠くから叫ぶのではなく、近づいて言えた場面が一度はあった。
- 「なんで◯◯しないの」を、「◯◯してね」という肯定文に置き換えられた場面があった。
- 市区町村の子育て相談窓口や相談ダイヤルの連絡先を、実際に控えてある。
家庭の工夫だけで抱え込まないために
この記事で紹介した工夫は、国のとりまとめの一般的な考え方を家庭向けに置き直したものであり、すべての家庭・すべての子どもに同じように当てはまるものではありません。工夫を試してうまくいかないとき、それは家庭のやり方が足りないという意味ではなく、状況に合う別の手立てが要るという意味かもしれません。
とりまとめが列挙している「体罰等をしてしまう背景」も読む価値があります。子ども側の状況に加えて、仕事や介護でストレスが溜まっている、周囲に相談したり頼りにできる人がいない、自分自身もそうやって育ってきた、親が甘いからだと責められた——といった事情まで並んでいます。手が出る背景は個人の資質の問題として扱われていません。すでに手が出てしまったことがある場合も、隠して一人で抱えるより、早い段階で相談につながるほうが選択肢が増えます。
相談先は、まずお住まいの市区町村の子育て相談窓口や保健センターが入口です。電話では児童相談所虐待対応ダイヤル「189」(通話料無料。匿名でも相談でき、秘密は守られます)と児童相談所相談専用ダイヤル「0570-783-189」。文字で相談したい場合はこども家庭庁の「親子のための相談LINE」があります。緊急の場面では、ためらわずに110番・119番を。
出典・参考
- こども家庭庁「体罰等によらない子育てのために ~みんなで育児を支える社会に~」(令和2年2月・厚生労働省「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」とりまとめ)
この出典で確認した記述
しつけの定義(子どもの人格や才能等を伸ばし、社会において自律した生活を送れるようにすること等の目的から、子どもをサポートして社会性を育む行為)、体罰の定義(たとえしつけのためだと親が思っても、身体に何らかの苦痛を引き起こし、又は不快感を意図的にもたらす行為(罰)である場合は、どんなに軽いものであっても体罰に該当し、法律で禁止される)、「これは親を罰したり、追い込むことを意図したものではなく、子育てを社会全体で応援・サポートし、体罰によらない子育てを社会全体で推進することを目的としたものです」、体罰にあたる6つの例、体罰に該当しない行為(罰を与えることを目的としない保護のための行為/第三者に被害を及ぼす行為を制止する行為)、暴言等の子どもの心を傷つける行為、体罰等による悪循環(恐怖心による一時的な服従/暴力的な言動のモデル/悩みを相談しにくくなる)、藤原武男ほか2017の行動問題6項目と頻度による増加、ガーショフほか2016のメタアナリシス(軽い体罰でも深刻な身体的虐待と類似の有害さ)、適切な関わりや支援による回復の報告、体罰等をしてしまう背景の3分類、具体的な工夫のポイント7点(肯定文で具体的に・穏やかに・より近づいて・落ち着いた声/できていることを具体的に褒める・すぐに褒めるのが一番効果的だが寝る前等でも大丈夫 ほか)、保護者自身の工夫(深呼吸・ゆっくり5秒数える・窓を開けて風にあたる・時には休む)、相談先(市区町村の子育て相談窓口・保健センター・189・0570-783-189)、スウェーデンが1979年に世界で最初に体罰禁止を法定化したこと。 - こども家庭庁「体罰等によらない子育てのために~みんなで育児を支える社会に~」(政策ページ)
この出典で確認した記述
令和元年6月に児童福祉法等改正法が成立し、親権者等は児童のしつけに際して体罰を加えてはならないことが法定化され令和2年4月に施行されたこと、厚生労働省が令和元年9月から「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」で検討を進め令和2年2月18日にとりまとめが公表されたこと、令和5年4月より業務がこども家庭庁に移管されたこと、ポスター・リーフレット・パンフレットが公開されていることの根拠。 - こども家庭庁 パンフレット「体罰等によらない子育てを広げよう!」
この出典で確認した記述
体罰にあたる例・あたらない例、暴言等の例、児童虐待の定義(身体的虐待/性的虐待/ネグレクト/心理的虐待)、体罰等をしてしまう背景の一覧、工夫のポイント7点、保護者自身の工夫、「こんなときどうする」の声かけ例(支度/座ってほしいとき/忘れ物)、児童相談所虐待対応ダイヤル189が通話料無料で匿名の通告・相談ができ相談した人と内容の秘密が守られること、児童相談所相談専用ダイヤル0570-783-189の根拠。 - 法務省民事局「懲戒権に関する規定等の見直し」(令和5年4月)
この出典で確認した記述
改正前民法822条の懲戒権の内容、削除の理由(児童虐待の口実に使われることがある/懲らしめ、戒めるという強力な権利であるとの印象を与える)、新民法821条の3要素(子の人格を尊重/子の年齢及び発達の程度に配慮/体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動を禁止)、民法820条(監護教育権)は改正されていないこと、社会的に許容される正当なしつけは820条の「監護及び教育」として行うことができるという注記、児童福祉法・児童虐待防止法にも同様の措置が講じられたこと(新児童虐待防止法14条1項ほか)の根拠。なお、民法等の一部を改正する法律は令和4年12月16日に公布されている。 - こども家庭庁「令和6年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数」
この出典で確認した記述
全国236か所の児童相談所における令和6年度の対応件数223,691件、対前年度▲0.8%(1,818件の減少。令和5年度は+5.0%)、虐待種別(心理的虐待133,024件59.5%/身体的虐待52,535件23.5%/ネグレクト35,612件15.9%/性的虐待2,520件1.1%)、相談経路(警察等115,644件51.7%/家族・親戚18,792件8.4%/近隣・知人19,841件8.9%/学校17,924件で前年度から1,341件増)、および「児童相談所が相談を受け、援助方針会議等の結果、児童虐待と判断して指導や措置等を行った件数」という定義の根拠。 - こども家庭庁「『親子のための相談LINE』について」
この出典で確認した記述
子育てや親子関係について悩んだときに、こども(18歳未満)とその保護者などが相談できる窓口であること、LINE上のアイコンとニックネームによる匿名の相談ができ相談内容の秘密が守られること、友だち登録後に住んでいる都道府県と市区町村を登録して利用すること、受付曜日・受付時間が自治体ごとに異なり一覧で確認できること(令和6年10月時点)の根拠。
この記事について
本記事は家庭での関わりを整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や治療の判断に代わるものではありません。研究知見や公的資料は「一つの考え方」として紹介しており、家庭ごとに合う・合わないがあります。お子さんの状態が気になる場合は、専門機関や学校にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。