3行まとめ
- 内閣府の調査では、災害への対処を家族や身近な人と話し合ったことが「ある」人は63.6%。「ない」と答えた600人の理由の一位は「話し合うきっかけがなかったから」で56.7%。
- 話し合う内容として重要なものの一位は「避難場所・避難経路」で79.1%。だが実際に決めている人は37.0%にとどまる。
- 日本児童青年精神医学会の資料は、災害の映像を繰り返し見せないこと、子どもが話すことを否定せずに聞くこと、話したくないときは無理に聞き出さないことを挙げている。
この記事でわかること
- 家庭で災害の話が進まない理由として、実際に何が挙げられているのか
- 「重要だと思うこと」と「実際に決めていること」の差
- 子どもへの伝え方の線引きと、学校の引渡し・待機について確認しておくこと
「大丈夫だよ」で終わらせてしまう場面
夕方のニュースで被害の映像が流れ、子どもが「これ、うちにも来る?」と聞いてくる。手を止めて「うちは大丈夫だよ」と答える。子どもは「ふーん」と言って画面から離れていく。会話としては成立していますが、何かを決めたわけでも、伝えたわけでもありません。
この返事は、その場で不安を受け止めようとした結果です。ただ、内容がないぶん次につながらず、子どもの側では質問が打ち切られたように感じられることもあります。逆に、被害の映像を一緒に見せ続ける家庭もありますが、それは後で見るとおり学会がはっきり避けるよう挙げている関わり方です。「軽く流す」と「強く見せる」の間に、家庭が取れる中間の形があります。
公的情報の見方 ― 話していない理由と、決まっていないこと
内閣府の「防災に関する世論調査(令和7年8月調査)」は、全国の18歳以上3,000人を対象に郵送法で行われ、1,707人(56.9%)から回答を得ています。ここ1〜2年ぐらいの間に家族や身近な人と災害時の対処について話し合ったことが「ある」は63.6%、「ない」は35.1%。およそ3人に1人が話し合っていない状態が続いています。
「ない」と答えた600人の理由は、一位が「話し合うきっかけがなかったから」で56.7%。次いで「すぐに連絡が取れると思うから」22.0%、「話し合う時間がなかったから」18.8%でした。「必要ないと思うから」は上位に来ていません。家庭がまず用意すべきなのは、決意ではなく日付のほうだということになります。
話し合う内容として重要なものは、一位が「避難場所・避難経路について」79.1%、「家族や親族との連絡手段について」は54.1%(前回59.1%)でした。一方、実際にとっている対策は「足元灯や懐中電灯などを準備している」51.3%、「食料・飲料水、日用品、医薬品などを準備している」46.1%(前回40.8%)、「家具・家電などを固定している」37.6%、「避難場所・避難経路を決めている」37.0%、「特に対策は取っていない」13.5%。79.1%が重要だと答えた避難場所・避難経路を、実際に決めているのは半分以下です。家具・家電を固定できていない理由の一位も「やろうと思っているが先延ばしにしてしまっているから」で38.2%でした。
子どもと話すときの注意は、日本児童青年精神医学会の保護者向け資料「被災されたお子さんの家族の方へ」(2020年4月改定)が参考になります。同資料は、ストレスや環境の変化でこころやからだが反応するのは「あたり前のこと」で、赤ちゃんがえりや落ち着きのなさ、寝つきの悪さ、腹痛や頭痛などは「正常な反応」であり、多くは生活が回復すれば自然によくなるとしています。心がけるとよいこととして並ぶのは、子どもを一人にしない、生活リズムを崩さない、災害のテレビや映像を繰り返し見せない、子どもが話すことを否定せずに聞く、ただし話したくない時には無理に聞き出さない、といった点です。かける言葉としては「みんなが守ってあげるからね」「心配なことがあったら何でも言ってね」「あなたはちっとも悪くないよ」「ここは大丈夫だよ」の4つを挙げ、何度繰り返してもかまわないとしています。冒頭の「大丈夫だよ」は方向としては間違っておらず、足りないのは前後の「ゆっくり聞く」部分です。
子どもが学校にいる時間帯なら、判断するのは学校です。文部科学省の「学校の危機管理マニュアル作成の手引」は、通学路や学校周辺の安全確認の状況をもとに「授業の打切り」「集団下校」「保護者への引渡し」「学校待機」等を判断すると整理し、急な大雨で災害が発生する可能性がある場合は保護者が無理に迎えにくることがないようにしておく必要がある、ともしています。
「きっかけ」は外から借りられます。令和8年度の防災週間は令和8年8月30日(日)から9月5日(土)まで(令和8年7月31日の中央防災会議で決定、9月1日が「防災の日」)。NTT東日本の案内では、災害用伝言板(web171)の体験利用は毎月1日・15日の0時〜24時のほか、防災週間(8月30日9時〜9月5日17時)にも提供され、その目的は「災害時に備えて、事前に家族で使い方を習熟しておくこと」だと説明されています。
データを家庭に当てはめるときの注意
内閣府の世論調査は18歳以上の一般の人を対象にしたもので、子育て家庭に限った調査ではありません。「63.6%が話し合っている」を、そのまま「子育て家庭の63.6%」と読み替えることはできません。測っているのも「話し合ったことがあるかどうか」であって、中身や質ではありません。
学会の資料は、実際に被災した子どもと家族に向けたもので、平時の防災教育の手引きではありません。
家庭で試す3つの工夫
- 「きっかけ」を外から借りて、日付を先に決める:話していない理由の一位が「きっかけがなかったから」(56.7%)である以上、まず用意すべきは日付です。令和8年度の防災週間は8月30日から9月5日まで。この一週間のどこか、夕食後の15分でかまわないので、カレンダーに「防災の話」と書き入れてしまいます。
- 決めるのは3つだけにして、紙に書いて貼る:その15分で決めるのは、避難場所、落ち合い方、連絡手段の3つ。連絡手段は、災害用伝言板(web171)の体験利用日に子ども自身に一度操作させておくと、いざというときの動きが変わります。決めたことは口約束にせず、紙に書いて全員が見る場所に貼ります。
- 学校が子どもをどう扱うかを確認する:どの条件で引渡しや学校待機になるのか、引渡しは誰まで可能か、連絡はメール配信か電話かは、学校ごとに決まっています。学校の配布物やホームページを見直し、引渡しカードの緊急連絡先が今も有効かも確認しておきます。
同じ内容でも、言い方によって子どもの受け取り方は変わります。防災の話でよく出る4つの場面を並べます。
声かけの言い換え例
- 「うちは大丈夫だよ」(それで話を終える)→受け止めようとした返事だが、内容がないぶん次につながらない。
- 「怖かったね。うちがどうするかは、もう決めてあるよ」→気持ちを受け止める言葉と、決めてあるという事実を並べる形。
- 「ほら、こんなに大変なんだよ」(映像を一緒に見続ける)→学会の資料が、繰り返し見せないよう挙げている関わり方。
- 「今日はここまで。続きは明日、地図を見ながら話そうね」→打ち切るのではなく、場所と時間を移す形。
防災週間のあとに見返したいチェックリスト
- 「防災の話をする日」を、気持ちではなく日付としてカレンダーに入れた。
- 避難場所・落ち合い方・連絡手段の3つを紙に書き、全員が見える場所に貼ってある。
- 災害用伝言板(web171)を、体験利用日に子ども自身が一度操作した。
- 学校の引渡し・待機の条件と連絡方法を確認し、引渡しカードの連絡先を見直した。
- 不安を口にしたとき否定せずに聞き、話したがらないときは無理に聞き出さずにいられた。
家庭の工夫だけで抱え込まないために
必要な備えは、住んでいる地域の地形や想定される災害、住居の形態、家族構成、子どもの年齢によって大きく変わります。実際の避難場所や避難経路、浸水想定区域や土砂災害警戒区域については、お住まいの自治体が公表しているハザードマップと避難情報をご確認ください。防災週間の日程や災害用伝言サービスの提供条件も、年度によって変わります。
子どもの様子で気になることがあるときは、家庭内で原因を探ろうとせず、相談できる先を早めに持っておいてください。日本児童青年精神医学会の資料も、反応が長引いたり気になる状態があれば、相談窓口や巡回する保健師などに相談し、必要なときには保健所・保健センター、医療機関にも相談するよう案内しています。学校の養護教諭やスクールカウンセラー、自治体の子育て・保健の窓口など、複数の入り口を控えておくと動きやすくなります。同資料は、後回しにされがちなおとな自身の心身の体調管理にも意識を向けてほしい、とも述べています。
出典・参考
- 内閣府「防災に関する世論調査(令和7年8月調査)」
この出典で確認した記述
調査対象が全国18歳以上の日本国籍を有する者3,000人、調査期間が令和7年8月21日〜9月28日、郵送法、有効回収数1,707人(回収率56.9%)であること。ここ1〜2年ぐらいの間に家族や身近な人と自然災害への対処について話し合ったことが「ある」63.6%・「ない」35.1%であること。話し合ったことが「ない」と答えた600人の理由が「話し合うきっかけがなかったから」56.7%・「すぐに連絡が取れると思うから」22.0%・「話し合う時間がなかったから」18.8%であること。話し合う内容として重要なことが「避難場所・避難経路について」79.1%・「食料・飲料水について」67.1%・「家族や親族との連絡手段について」54.1%(前回59.1%から低下)・「非常持ち出し品について」50.5%であること。大地震に備えての対策が「停電時に作動する足元灯や懐中電灯などを準備している」51.3%・「食料・飲料水、日用品、医薬品などを準備している」46.1%(前回40.8%から上昇)・「家具・家電などを固定し、転倒・落下・移動を防止している」37.6%・「近くの学校や公民館などの避難場所・避難経路を決めている」37.0%、「特に対策は取っていない」13.5%であること。家具・家電の固定ができていない理由の一位が「やろうと思っているが先延ばしにしてしまっているから」38.2%であることの根拠(同ページ「調査の概要」および「調査結果の概要」1.自然災害について/2.地震対策について)。 - 日本児童青年精神医学会「被災されたお子さんの家族の方へ」(2020年4月改定)
この出典で確認した記述
大きなストレスや環境の変化があればこころやからだが反応するのはあたり前のことで、たいていの場合は時間がたって生活が回復すれば自然によくなっていくとされていること。子どもに現れやすい行動・こころ・からだの反応(赤ちゃんがえり、甘えが強くなる、落ち着きがなくなる、反抗的になる、話をしなくなる、集中できなくなる、寝つきが悪くなる、腹痛や頭痛などの訴え等)が「正常な反応」と明記されていること。「心がけるとよいこと」として、家族が一緒にいる時間を増やす・生活リズムを崩さない・災害のテレビや映像は繰り返しみせない・子どもが話すことは否定せずに聞く・話したくない時には無理に聞きださない・むやみに叱ったり突き放したりせず受けとめる・がんばり屋タイプの子に気をつける、が挙げられていること。声かけとして「みんなが守ってあげるからね」「心配なことがあったら何でも言ってね」「あなたはちっとも悪くないよ」「ここは大丈夫だよ」の4つが挙げられ、何度繰り返してもかまわないとされていること。反応が長引いたり気になる状態があれば相談窓口や巡回する保健師などに相談し、必要なときには保健所・保健センター、医療機関などにも相談するよう案内されていること。おとな自身の心身の体調管理にも意識を向けるよう述べられていることの根拠。 - 内閣府「令和8年度『防災週間』について」(防災情報のページ)
この出典で確認した記述
令和8年度の「防災週間」が令和8年8月30日(日)から同年9月5日(土)までであること、これが令和8年7月31日の中央防災会議で決定されたものであること、「防災の日」が9月1日であること、広く国民が災害についての認識を深め、これに対する備えを充実強化することにより災害の未然防止と被害の軽減に資することを趣旨としていることの根拠。 - 文部科学省「学校の危機管理マニュアル作成の手引」(文部科学省 学校安全ポータルサイト掲載版)
この出典で確認した記述
気象災害の際、通学路や学校周辺の安全確認の状況を基に「授業の打切り」「集団下校」「保護者への引渡し」「学校待機」等の対応を判断すること、ゲリラ豪雨等の急な大雨で災害が発生する可能性がある場合は保護者が無理に迎えにくることがないようにしておくことが必要であること、停電等により保護者と連絡が取れない場合も想定し複数の連絡方法をあらかじめ決めておく必要があること、学校からの休業等の連絡がなくても自宅周辺で危険を感じたときは無理に登校させない判断が必要であることを保護者と共通に理解しておくこと、平時より各自治体のハザードマップなどで危険な場所を事前に確認しておくことの根拠(第3章 個別の危機管理「3-6 気象災害への対応」)。 - NTT東日本「災害用伝言板(web171)体験利用のご案内」
この出典で確認した記述
体験利用の提供日時が「毎月1日、15日 00:00〜24:00」「正月三が日(1月1日00:00〜1月3日24:00)」「防災週間(8月30日9:00〜9月5日17:00)」「防災とボランティア週間(1月15日9:00〜1月21日17:00)」であること、体験利用の目的が、災害時に備えて事前に家族で使い方を習熟しておくことであることの根拠。
この記事について
本記事は家庭での関わりを整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や治療の判断に代わるものではありません。研究知見や公的資料は「一つの考え方」として紹介しており、家庭ごとに合う・合わないがあります。お子さんの状態が気になる場合は、専門機関や学校にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。