3行まとめ
- 「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む」に「そう思う」と答えた日本の13〜29歳は56.4%。アメリカ76.2%、ドイツ76.2%、フランス80.0%、スウェーデン71.2%で、5か国で最も低い。
- 一方、小学6年生・中学3年生で「自分には、よいところがあると思う」と答えた割合は令和7年度で約87%。平成27年度より10ポイント以上高い。自己評価そのものより、やってみる手前が重い。
- 文部科学省の生徒指導提要は、挑戦を支えるものとして「できないことを笑わない場」と「自分で選び決める場」を挙げている。家庭でも使えるのは、この二つ。
この記事でわかること
- 「どうせ無理」が、やる気のなさとは限らない理由
- 挑戦に関する国際比較の数字が示していること
- 自己評価は上がっているのに、一歩が重いという食い違い
- 公的資料が挙げる、挑戦を支える二つの条件
- 打ち消さずに受け取る、家庭での返し方
「やってみたら?」の後に来る沈黙
学校からプリントが届きます。クラブの募集でも、漢字コンクールでも、自由研究の発表でも構いません。「これ、やってみたら?」と声をかけると、返ってくるのは「どうせ無理」。その一言で会話が止まり、親のほうは「やる前から決めつけないの」と続けたくなります。
この言葉は、能力の見積もりというより、失敗したときの自分を先に閉じておく身振りに見えることがあります。やらなければ、できなかった自分を見なくて済むからです。だとすると、親が「そんなことない」と打ち消しても、閉じたふたはそのままです。先に必要なのは、励ましよりも、その一言をいったん受け取ることのほうかもしれません。
挑戦の手前だけが、低い
こども家庭庁が令和5年度に行った「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査」は、日本・アメリカ・ドイツ・フランス・スウェーデンの満13歳から29歳の男女を対象に、各国およそ1,000人ずつに聞いたものです。その中に「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む」という項目があります。
「そう思う」「どちらかといえばそう思う」を合わせた割合は、日本が56.4%。アメリカ76.2%、ドイツ76.2%、フランス80.0%、スウェーデン71.2%で、日本が最も低い結果でした。はっきり「そう思う」と答えた人に絞ると、日本は13.4%で、他の4か国の26.9%〜35.8%とは差が開きます。結果が読めないことに向かうときの構えが、他国より慎重だという傾向が見えます。
ただし、この調査の対象は13歳から29歳です。小学生の子に、この数字をそのまま当てはめることはできません。使えるのは「うちの子だけが臆病なのではないらしい」という距離の取り方までで、それ以上に読むと数字が独り歩きします。
「自分にはよいところがある」は増えている
国内の数字も見ておきます。国立教育政策研究所が令和7年度の全国学力・学習状況調査で聞いた「自分には、よいところがあると思いますか」に対し、小学6年生は「当てはまる」47.4%と「どちらかといえば、当てはまる」39.6%で合わせて87.0%。中学3年生は40.8%と45.4%で86.2%でした。平成27年度は小学6年生76.9%、中学3年生68.1%でしたから、10年でかなり上がっています。
同じ調査の「私は、自分自身に満足している」も、日本の13〜29歳では45.1%から57.4%へ、5年間で12.3ポイント上がりました。つまり自分を否定的に見ている子が増えているわけではありません。それでも「どうせ無理」が出るなら、問われているのは自分の価値ではなく、この場面でうまくいくかどうかの見通しだと考えたほうが、話が噛み合います。
挑戦を支える二つの条件
文部科学省が令和4年12月に改訂した「生徒指導提要」は、教職員向けの手引きですが、家庭にも読み替えられる記述があります。児童生徒が「主体的に課題に挑戦してみること」の重要性を実感することが大切だとしたうえで、そのために留意する視点を四つ挙げています。
一つ目が、学級づくりの条件です。「失敗を恐れない、間違いやできないことを笑わない、むしろ、なぜそう思ったのか、どうすればできるようになるのかを皆で考える」場をつくることが土台だと書かれています。裏を返せば、間違いが笑われる場所では挑戦は起きにくい、ということです。家庭の食卓も、この意味では一つの場です。きょうだいに笑われた、親に「またそれ?」と返された経験が積み重なると、言わない・やらないほうが安全になります。
二つ目が「自己決定の場の提供」です。自ら考え、選択し、決定する体験が重要だとされています。同じ課題でも、与えられたものと自分で選んだものでは、取りかかるときの重さが変わります。家庭でできるのは、やるかやらないかを親が決めてしまわず、選べる幅を小さく作って本人に渡すことです。家庭での決め方そのものは「あなたはどう思う?」を家庭で聴くでも扱っています。
「すごい」より、本人が気にしていた点に触れる
やってみたあとの返し方についても、参考になる公的資料があります。国立教育政策研究所の生徒指導リーフ「『自尊感情』?それとも、『自己有用感』?」は、大人が子どもを「褒める」ときは一般に大人の基準や水準で褒めているのに対し、子どもが求めているのは「子供なりのこだわりで努力したり工夫したりしたこと」を認められることだ、と整理しています。
同じ資料は、実際の行動と向き合わずに表面的にお世辞を言ったりちやほやしたりしても、自己有用感はおろか自尊感情すら高めない可能性が高い、とも書いています。「褒めて育てる」より「認められて育つ」ほうが自信は続きやすい、という言い方もされています。
家庭に移すと、「すごいね」「やればできるじゃない」は大人の基準の言葉です。本人が直前まで気にしていたのは、たいていもっと小さい一点です。声が小さくなるのが嫌だった、字が汚くなるのが嫌だった、最後まで座っていられるか不安だった。その一点に触れて返すと、次に挑戦するときの見通しが具体的になります。ほめ方そのものはほめ方で変わる、やる気と自己肯定感の見方でも扱っています。
家庭で試す3つの工夫
- 打ち消さずに、一度だけ返す:「そんなことないよ」の代わりに「そう思うんだね」と一度返します。否定されなかった一言は、その後に本音が続きやすくなります。同意ではなく、受け取ったという合図です。
- 「どこが無理そう?」を一つだけ聞く:全体が無理なのか、最初の一手だけが重いのかを分けます。「発表が無理」ではなく「最初の一文が思いつかない」まで絞れれば、家庭でも手伝える大きさになります。
- 選べる幅を、小さく作って渡す:やるかやらないかではなく、「今日は表紙だけにする? それとも一問だけ解く?」のように二択にします。自分で決めたという感覚が、取りかかりの重さを下げます。
声かけの言い換え例
- 「そんなことないよ、やればできる」→気持ちを飛ばされたと感じ、会話がそこで止まる。
- 「そう思うんだね。どこが無理そう?」→受け取った上で、困っている場所だけを小さくできる。
- 「前もそう言ってたよね」→過去を持ち出され、言わないほうが安全だと学習してしまう。
- 「一問だけやってみて、無理そうなら止めよう」→引き返せる前提があると、最初の一歩が軽くなる。
家庭で確認するチェックリスト
- 「どうせ無理」に、まず打ち消さずに一度返せている。
- 無理そうな場所を、全体ではなく一点まで絞って聞いている。
- やるかやらないかではなく、選べる二択を渡している。
- できなかったことを、家族の誰も笑わない場になっている。
- 終わった後、本人が気にしていた一点に触れて返している。
家庭の工夫だけで抱え込まないために
ここで紹介した国際比較の数字は、満13歳から29歳を対象に各国約1,000人へ聞いたものです。年齢層も文化的な背景も違うため、目の前の子ども一人の状態を説明する数字ではありません。全国学力・学習状況調査の数値も、小学6年生と中学3年生の全国的な傾向であって、個々の子の評価に使うものではありません。
「どうせ無理」は多くの家庭で聞かれる言葉ですが、口ぐせの範囲を超えて見えるときもあります。眠れない、食べられない、朝になると起きられない、学校に行きたがらない、自分を強く責める発言が続く。こうした変化が重なっているときは、関わり方の工夫だけで持ちこたえようとせず、担任やスクールカウンセラー、自治体の子ども家庭相談の窓口に、状況を共有する選択肢があります。
親のほうが疲れている日に、受け取る余裕を持ち続けるのは難しいものです。うまく返せなかった日があっても、それで積み上げが消えるわけではありません。話の聴き方そのものが重いと感じるときは、子どもの話を最後まで聴くことは、安心感の土台になるも合わせて読んでみてください。
出典・参考
- こども家庭庁「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査(令和5年度)」
この出典で確認した記述
第1部(1〜2ページ)に、調査対象国が日本・アメリカ・ドイツ・フランス・スウェーデンの計5か国、調査対象者が各国満13歳から満29歳までの男女、調査時期が令和5年11月から12月、方法は各国とも1,000サンプル回収を原則とするWEB調査であること、調査実施機関が株式会社インテージリサーチであることが記載されている。第2部第1章5「自己認識」(18・22ページ)に、「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む」で『そう思う』(「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」)と答えた割合が日本56.4%(「そう思う」13.4%、「どちらかといえばそう思う」43.0%)、アメリカ76.2%(同35.8%)、ドイツ76.2%(同26.9%)、フランス80.0%(同35.8%)、スウェーデン71.2%(同28.3%)であることが示されている。19ページに、「私は、自分自身に満足している」で『そう思う』と答えた割合が令和5年度調査57.4%、平成30年度調査45.1%で、12.3ポイント高くなっていることが記載されている。21ページに、同項目の各国値がアメリカ73.2%、ドイツ73.9%、フランス75.6%、スウェーデン72.3%であることが示されている。第3部(122ページ)の北海道大学大学院教育学研究院 加藤弘通准教授による分析に、自尊感情の関連要因として日本を含む各国で「長所、主張性、挑戦心が比較的強く関連」していること、日本の若者では自己有用感も関連していることが記載されている。本文「挑戦の手前だけが、低い」節の各国数値と、「自分にはよいところがある」は増えている節の57.4%・45.1%・12.3ポイント、および図1はこれによる。 - 国立教育政策研究所「令和7年度 全国学力・学習状況調査 報告書【質問調査】(児童生徒質問の経年変化)」
この出典で確認した記述
「2 挑戦心、達成感、規範意識、自己有用感、幸福感等」(報告書16ページ)の質問番号(小5)(中5)「自分には、よいところがあると思いますか」の経年変化グラフに、小学校の令和7年度が「当てはまる」47.4%・「どちらかといえば、当てはまる」39.6%(合計87.0%)、平成27年度が36.2%・40.7%(合計76.9%)、中学校の令和7年度が40.8%・45.4%(合計86.2%)、平成27年度が26.3%・41.8%(合計68.1%)と示されている(小学校のグラフが左、中学校のグラフが右)。合計値は当サイトで単純加算したもの。あわせて文部科学省「教育委員会月報 2025年9月号」特集「令和7年度全国学力・学習状況調査の結果等について」(6ページ)に、「自分には、よいところがあると思う」と回答した児童生徒が増加し約9割であったと記載されており、上記と整合する(https://www.mext.go.jp/content/20250910-mxt_syoto01-000044609_0002.pdf)。本文「『自分にはよいところがある』は増えている」節と図1はこれによる。 - 文部科学省「生徒指導提要(令和4年12月)」
この出典で確認した記述
1.1.2「生徒指導の実践上の視点」(14〜15ページ)に、「児童生徒の自己指導能力の獲得を支える生徒指導では、多様な教育活動を通して、児童生徒が主体的に課題に挑戦してみることや多様な他者と協働して創意工夫することの重要性等を実感することが大切です」と記載され、実践上の視点として(1)自己存在感の感受、(2)共感的な人間関係の育成、(3)自己決定の場の提供、(4)安全・安心な風土の醸成の四つが挙げられている。(2)には「失敗を恐れない、間違いやできないことを笑わない、むしろ、なぜそう思ったのか、どうすればできるようになるのかを皆で考える支持的で創造的な学級・ホームルームづくりが生徒指導の土台となります」、(3)には「児童生徒が自己指導能力を獲得するには、授業場面で自らの意見を述べる(中略)自ら考え、選択し、決定する、あるいは発表する、制作する等の体験が何より重要です」と記載されている。本文「挑戦を支える二つの条件」節はこれによる。なお同資料は学校の教職員向けの手引きであり、家庭向けの指針ではない。 - 国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター「生徒指導リーフ Leaf.18『自尊感情』?それとも、『自己有用感』?」(平成27年3月)
この出典で確認した記述
「褒めて(自信を持たせて)育てる」という発想よりも、「認められて(自信を持って)育つ」という発想の方が、子供の自信が持続しやすいと記載されている。ワンポイント・アドバイス「『褒めること』と『認めること』の違いは?」に、「大人が子供を『褒める』ときは、一般に大人の基準や水準で『褒める』ことが多いように思われます」、子供が「認めてもらいたい」ときは「子供なりのこだわりで努力したり工夫したりしたことを『認められたい』のです」、「子供の実際の行動と向き合うことなく、表面的にお世辞を言ったり、ちやほやしたりしても、子供の『自己有用感』はおろか、『自尊感情』すら高めない可能性が高いのです」と記載されている。また「自尊感情」を高めるべく褒める機会を増やしても、実力以上の過大評価や周囲からの評価とのギャップにより元に戻ることがある旨が述べられている。本文「『すごい』より、本人が気にしていた点に触れる」節はこれによる。
この記事について
本記事は家庭での関わりを整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や治療の判断に代わるものではありません。研究知見や公的資料は「一つの考え方」として紹介しており、家庭ごとに合う・合わないがあります。お子さんの状態が気になる場合は、専門機関や学校にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。