3行まとめ

  • 文部科学省の手引は、話さないことだけに着目して何とか話させようとする働きかけが続くと、逆に緊張と萎縮を生じさせることがあると述べている。
  • 令和7年度の全国学力・学習状況調査では、小6の29.6%が発表を「工夫していなかった」側に答えた。機会がなかったという回答は1.6%で、話す場面はほぼ全員が通る。
  • 学校には通級による指導という仕組みがあり、令和5年度は情緒障害を理由に28,274人が利用している。家庭だけで抱える話ではない。

この記事でわかること

  • 「何とか話させよう」が逆に働くことがある理由
  • 小学校で人前で話す時間がどれだけ組まれているか
  • 発表を苦手に感じる子が珍しくないという全国調査の数字
  • 緊張を下げるために家庭でできる具体的な順番
  • 学校や専門機関に相談する目安と、使える窓口

「手を挙げればよかったのに」

授業参観の帰り道が、いちばん言葉を選ぶ場面かもしれません。答えは分かっていたはずなのに、最後まで手が挙がらなかった。家では妹相手に延々としゃべるので、話す力がないわけではないと分かっています。だからこそ「もったいない」が先に出てしまいます。

翌週は音読の発表がある、その次は係の紹介がある。予定が分かるたび、家で練習を持ちかける回数が増えます。子どもは最初こそ付き合いますが、やがて「やらない」とだけ言って部屋に入ります。練習を増やすほど当日が重くなっていく感じがして、どう手を貸せばいいのか分からなくなります。

話させようとする働きかけが、緊張を強めるとき

文部科学省が令和3年6月に出した「障害のある子供の教育支援の手引」に、この行き詰まりをそのまま説明した記述があります。第3編のⅧ「情緒障害」の冒頭で、選択性かん黙への対応を例に挙げながら、周囲が本人の話さないことだけに着目し過ぎるために、何とか話させようという働きかけが多くなることがある、と書かれています。そしてこのような働きかけが続くと、逆に緊張と萎縮を生じさせてしまうことがあると続きます。手引はその先で、対人恐怖や不登校などの状態を引き起こす場合もある、とまで述べています。

手引がもう一つ挙げているのは、周囲の受け取り方の影響です。その子を話をしない子供と見なし、周囲の子供に対してもそういう印象を与えてしまうことにより、かえってその状態を強化させてしまう場合もある、という指摘です。家庭でいえば、きょうだいや親戚の前で「この子は恥ずかしがりだから」と説明してしまう場面が近いかもしれません。本人を守るつもりの一言が、役割を固定する方向に働くことがあります。

では、どういう視点に立てばよいのか。手引は、意図的に話をしないのではなく、場面によっては意図的に話ができないという視点から、子供に生じている緊張や不安を緩和できるように対応することが大切だ、としています。これは選択性かん黙という特定の状態についての記述ですが、考え方の向きは、人前が苦手な子と関わるときにも読み替えられます。意欲の問題として扱うのをやめて、緊張の量を下げる方向に手を動かすということです。練習を増やすのも、励ますのも、意欲に働きかける行為です。手応えがないときは、量を足すより向きを見直すほうに分がありそうです。

二つの関わり方を上下で比べた図。上の枠は意欲に働きかける関わりで、家で何度も練習させる、手を挙げてごらんと促す、恥ずかしがりだからと周囲に説明する、話せたかどうかを毎回確かめる。下の枠は緊張を下げる関わりで、話す量ではなく場面の見通しを整える、聞き手を一人から増やしていく、話さない日も普段どおりに接する、本人が選べる参加の形を一緒に探す。
図1:同じ「話せるようになってほしい」でも、意欲に向けるか緊張に向けるかで手の出し方が変わります。

学校は、話す時間をあらかじめ組んでいる

人前で話す場面は、学校の気まぐれで増えているわけではありません。小学校学習指導要領(平成29年告示)は、国語科の「話すこと・聞くこと」について年間の授業時数を学年ごとに配当しています。第1学年及び第2学年では年間35単位時間程度、第3学年及び第4学年では30単位時間程度、第5学年及び第6学年では25単位時間程度です。意図的、計画的に指導する機会が得られるように、という理由が明記されています。

解説では、話したり聞いたりする力は、学習したことを繰り返し用いたり、生活場面において使いこなす機会を多くもったりすることで、より確実に身に付くとも書かれています。一度の発表の出来ではなく、機会の積み重ねで育つものだという位置づけです。ここは家庭にとって、少し息をつける情報だと思います。今年の学芸会でうまく話せなかったことが、そのまま将来の話す力を決めるわけではありません。

同時に、逃げ切ることも難しいと分かります。国語の時間だけで年に25回から35回、それ以外の教科や係活動、行事を足せば、人前で声を出す場面は毎週のように巡ってきます。避けるか克服するかの二択ではなく、その都度の負荷をどう下げるかという設計の話になります。

苦手なのは、その子だけではない

全国の子どもがどう感じているかも、数字で確かめられます。文部科学省と国立教育政策研究所が令和7年8月に公表した全国学力・学習状況調査の質問調査で、小学6年生に「5年生までに受けた授業で、自分の考えを発表する機会では、自分の考えがうまく伝わるよう、資料や文章、話の組立てなどを工夫して発表していましたか」と尋ねています。

回答は、発表していたが26.9%、どちらかといえば発表していたが41.8%。一方で、どちらかといえば発表していなかったが22.6%、発表していなかったが7.0%でした。およそ3割の子が、工夫して発表していなかった側に手を挙げていることになります。教室で自信ありげに見える子ばかりではない、という当たり前のことが確かめられます。

もう一つ目を引くのは、考えを発表する機会はなかったという回答が1.6%しかない点です。つまり小学校を通じて、ほぼすべての子が発表の場面を経験しています。この調査は「工夫して発表したか」を聞いたもので、苦手意識そのものを測った数字ではありません。それでも、経験は全員に近く、手応えは割れている、という輪郭は読み取れます。

発表の予定が分かってからの家庭での4つの手順を示した図。1、場面を具体にする。どこに立つか、何番目か、どれくらいの長さかを確かめる。2、聞き手を一人から。親一人で通してみる。出来ではなく最後まで聞く。3、当日は確認しない。「言えた?」を毎回聞かない。話題が出たときだけ受け取る。4、続くなら学校へ。担任・スクールカウンセラー・自治体の教育相談に伝える。
図2:増やすのは練習量ではなく、見通しと聞き手の数です。

家庭で試す3つの工夫

  1. 練習量ではなく、見通しを渡す:「何回読もう」ではなく、「どこに立つの」「何番目」「どれくらいの長さ」を一緒に確かめます。当日の景色が具体的になると、想像の中でふくらんだ場面が実物の大きさに戻ります。原稿を覚え込ませるより効く日があります。
  2. 聞き手を、一人から増やす:いきなり家族全員の前で通さず、親一人、次にきょうだいも、と段階を作ります。うまく言えたかの採点はせず、最後まで聞くことに徹します。人数が増えても同じ空気だった、という経験そのものが手がかりになります。
  3. 話せなかった日を、普段どおりに終える:「今日は言えた?」を毎回確認すると、話せたかどうかが家庭の関心事だと伝わります。聞かない日をつくり、話題が出たときだけ受け取る。手引が指摘する、話さないことへの注目が増える状態を避けられます。

声かけの言い換え例

  • 「なんで手を挙げなかったの」→責める形になり、次から授業の話をしなくなる。
  • 「今日はどんな時間だった?」→発表の可否に限定せず、話したいことから出せる。
  • 「この子、恥ずかしがりなので」→本人の前で役割を固定し、その状態を強めることがある。
  • 「今は考えてるところみたい」→今日の一場面の説明にとどめ、人物の説明にしない。

家庭で確認するチェックリスト

  • 練習の回数を増やす前に、当日の段取りを本人と確認できている。
  • 話せたかどうかを、毎日確認する形になっていない。
  • 本人の前で「恥ずかしがり」と紹介する言い方を減らしている。
  • 家で話せる相手が、親以外にも一人はいる。
  • 担任やスクールカウンセラーに、家での様子を伝える機会をつくれている。

家庭の工夫だけで抱え込まないために

ここまでは、人前が苦手という幅の中の話です。一方で、家では普通に話せるのに学校などの特定の場面ではほとんど声が出ない状態が続く場合、学校教育の制度上は選択性かん黙として情緒障害に位置づけられ、教育的な支援の対象になっています。これは家庭が診断名を判断するという意味ではありません。学校や専門機関に相談する入口がある、という意味です。

その入口の一つが通級による指導です。通常の学級に在籍し、通常の学級での学習におおむね参加できる子が、一部の時間だけ障害に応じた特別の指導を受ける形で、言語障害や自閉症とならんで情緒障害も対象に含まれています。文部科学省の令和5年度の調査では、通級による指導を受けている児童生徒は全国で203,376人、在籍児童生徒に占める割合は1.7%でした。このうち情緒障害を理由とする子どもは28,274人で、小学校だけで21,717人です。特別な家庭の話ではありません。

手引も、低年齢の段階から医療機関とも連携しつつ、学校で安心して過ごせる環境を整えることが必要だとしています。まずは担任、スクールカウンセラー、自治体の教育相談窓口が現実的な相談先です。学校に言いにくいときは、文部科学省の「24時間子供SOSダイヤル」(0120-0-78310)があります。夜間・休日を含めていつでも受け付けており、かけた所在地の教育委員会の相談機関につながります。気持ちの言葉にしにくさが気になるときは、かんしゃく・感情の爆発に、どう寄り添うかも参考になります。

出典・参考

  • 文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引」第3編Ⅷ 情緒障害(令和3年6月)
    https://www.mext.go.jp/content/20211014-mxt_tokubetu02-000018454_12.pdf(確認日 2026-09-13)。
    この出典で確認した記述
    冒頭(266ページ)に「情緒障害とは,周囲の環境から受けるストレスによって生じたストレス反応として状況に合わない心身の状態が持続し,それらを自分の意思ではコントロールできないことが継続している状態をいう」と記載されている。同ページに「子供本人は困難さを感じているにもかかわらず,その困難さが行動として顕在化しないため,一見すると学校生活や社会生活に適応できているように見えてしまう場合もある」と記載されている。「1(1)早期からの教育的対応の重要性」(266〜267ページ)に「例えば,選択性かん黙への対応でいえば,周囲が本人の話さないことだけに着目し過ぎるために,何とか話させようという働きかけが多くなることがある。このような働きかけが続くと,逆に緊張と萎縮を生じさせてしまうことがあり,対人恐怖や不登校などの状態を引き起こす場合もある。また,その子供を,話をしない子供と見なし,周囲の子供に対してもそういう印象を与えてしまうことにより,かえってその状態を強化させてしまう場合もある」と記載されている。続けて「この場合,意図的に話をしないのではなく,場面によっては意図的に話ができないという視点から,子供に生じている緊張や不安を緩和できるように,早期から本人及び周囲の人たちに対して適切な対応を行っていくことが大切である」「こうしたことから,情緒障害のある子供については,低年齢の段階から医療機関とも連携しつつ,学校で安心して過ごせる環境を整えるなど,適切な教育的対応が必要である」と記載されている。本文「話させようとする働きかけが、緊張を強めるとき」節と図1、および「気をつけたいこと」節の位置づけはこれによる。なお本資料は障害のある子供の就学・支援に関する教育委員会・学校向けの手引であり、家庭が診断を判断するための資料ではない。
  • 文部科学省 初等中等教育局特別支援教育課「令和5年度通級による指導実施状況調査」(令和7年7月)
    https://www.mext.go.jp/content/20250715-mxt_tokubetu01-000037861_02.pdf(確認日 2026-09-13)。
    この出典で確認した記述
    「通級による指導を受けている児童生徒数の推移【学校種別・国公私立計】」(4ページ)に「通級による指導を受けている児童生徒数は全国で203,376人(前年度比+5,033人)」「(小学校・中学校・高等学校に在籍する児童生徒数に占める割合は1.7%(前年度:1.6%))」と記載されている。「(参考)通級による指導の概要」(14ページ)に、通級による指導が「通常の学級に在籍し、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする児童生徒に対して、障害に応じた特別の指導を行う指導形態」であること、対象障害種が「言語障害、自閉症、情緒障害、弱視、難聴、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、肢体不自由、病弱・身体虚弱」であることが記載されている。同ページの障害種別内訳に、言語障害47,069人(23.1%)、ADHD44,107人(21.7%)、自閉症41,171人(20.2%)、LD40,396人(19.9%)、情緒障害28,274人(13.9%)と記載されている。「調査結果(1)通級による指導を受けている児童生徒数(国公私別、学校種別、障害種別)」(15ページ)の表に、小学校計の情緒障害が21,717人、小学校計が166,556人と記載されている。令和2年度から令和5年度までの数値は3月31日を基準とし、通年で通級による指導を実施した児童生徒数について調査していることも同ページに記載されている。本文「気をつけたいこと」節の数値はこれによる。
  • 文部科学省 国立教育政策研究所「令和7年度 全国学力・学習状況調査 報告書 質問調査」(令和7年8月)
    https://www.nier.go.jp/25chousakekkahoukoku/report/data/25qn.pdf(確認日 2026-09-13)。
    この出典で確認した記述
    「6 主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善に関する取組状況」(31ページ、質問番号 小31)に、児童質問「5年生までに受けた授業で、自分の考えを発表する機会では、自分の考えがうまく伝わるよう、資料や文章、話の組立てなどを工夫して発表していましたか」が掲載されている。小学校の令和7年度の回答は、「発表していた」26.9%、「どちらかといえば、発表していた」41.8%、「どちらかといえば、発表していなかった」22.6%、「発表していなかった」7.0%、「考えを発表する機会はなかった」1.6%。本文の「およそ3割」は、どちらかといえば発表していなかった22.6%と発表していなかった7.0%の合計29.6%を指す。表紙に「令和7年8月 文部科学省 国立教育政策研究所 令和7年度 児童生徒一人一人の学力・学習状況に応じた学習指導の改善・充実に向けて 報告書 質問調査 全国学力・学習状況調査」と記載されている。なおこの設問は発表の工夫について尋ねたものであり、苦手意識そのものを測った設問ではない。本文「苦手なのは、その子だけではない」節はこれによる。
  • 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編」(平成29年7月)
    https://www.mext.go.jp/content/20220606-mxt_kyoiku02-100002607_002.pdf(確認日 2026-09-13)。
    この出典で確認した記述
    「第4章 指導計画の作成と内容の取扱い」(156ページ)に、学習指導要領の条文として「第2の各学年の内容の〔思考力,判断力,表現力等〕の「A話すこと・聞くこと」に関する指導については,意図的,計画的に指導する機会が得られるように,第1学年及び第2学年では年間35単位時間程度,第3学年及び第4学年では年間30単位時間程度,第5学年及び第6学年では年間25単位時間程度を配当すること」が掲げられている。同ページの解説に「話したり聞いたりすることに関する資質・能力は,学習したことを繰り返し用いたり,生活場面において使いこなす機会を多くもったりすることによって,より確実に身に付けることができる」「他教科等の学習や学校の教育活動全体の中で,学習したことを使う機会がもてるよう,年間指導計画に意図的,計画的に位置付けることが重要である」と記載されている。本文「学校は、話す時間をあらかじめ組んでいる」節はこれによる。
  • 文部科学省「24時間子供SOSダイヤルについて」
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1306988.htm(確認日 2026-09-13)。
    この出典で確認した記述
    電話番号が0120-0-78310(なやみいおう)であること、夜間・休日を含めていつでも受け付けること、「悩んでいる子供や保護者等がいつでも相談できるよう」設けられたものであること、電話をかけた所在地の教育委員会の相談機関に接続されることが記載されている。文部科学省「子供のSOSの相談窓口」ページ(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/06112210.htm)にも同じ番号が24時間こどもSOSダイヤルとして掲載されている。本文「気をつけたいこと」節の相談先はこれによる。

この記事について

本記事は家庭での関わりを整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や治療の判断に代わるものではありません。研究知見や公的資料は「一つの考え方」として紹介しており、家庭ごとに合う・合わないがあります。お子さんの状態が気になる場合は、専門機関や学校にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。

筆者コメント