3行まとめ
- こども家庭庁の「こどもの居場所づくりに関する指針」は、ある場所が居場所になるかどうかは本人がそう感じるかどうかによるとし、学校は多くのこどもにとって一日の大半を過ごす居場所だと書いている。
- 2025年に都道府県をまたいで移動した子どもは、5〜9歳が5万804人、10〜14歳が2万8027人。珍しくはないが、学年が上がるほど教室では一人だけになりやすい。
- 海外の追跡研究が悪い結果と結びつけているのは一度の転校ではなく、転校が短い期間に重なることのほう。年齢でも意味が変わる。
この記事でわかること
- 「居場所かどうかは本人が決める」という国の指針の書き方
- 同じ年に県をまたいで動く子どもの人数と、年齢による違い
- 研究が問題にしているのが「回数」と「年齢」である理由
- 転校が決まった日から使える家庭の段取りと、相談できる窓口
段取りだけが先に進む夜
「来月から、向こうの学校にね」。そう伝えた日、子どもは「ふーん」とだけ言って、いつも通りにゲームの続きを始めた、という話をよく聞きます。拍子抜けして、そのまま荷造りの相談に戻ってしまう。
親のほうは、住まい、転出と転入の届け、荷物、職場の引き継ぎと、決めることが列になって並んでいます。そんな日が続いたある夜、子どもが布団のなかで「◯◯ちゃんと会えなくなる」と泣き出します。
とっさに出るのは「また会えるよ」「すぐ新しい友達できるよ」という言葉です。その言葉が間違っている、という話ではありません。ただ、段取りだけが先に進み、気持ちの話が手つかずで残る、ということは起こりがちです。
転校で変わるのは、通う場所だけではない
こども家庭庁が令和5年12月22日に閣議決定した「こどもの居場所づくりに関する指針」は、居場所というものの性質を踏み込んだ言葉で説明しています。指針はまず、ある場所がこども・若者にとっての居場所になるかどうかは、本人がそこを居場所と感じるかどうかによるという意味で、こどもの居場所は個人的なものである、と書いています。そして、昨日まで居場所だと感じていた場や対象が、心理的な変化や人間関係の変化などにより、今日は居場所だと感じられないこともある、と続きます。
学校についても指針ははっきり書いています。こどもにとって学校は単に学ぶだけの場ではなく、他者と関わりながら育つ大切な居場所の一つであり、一日の大半を過ごす場所として、多くのこどもにとっての居場所となっている。その場で他者に受け入れてもらえることや交流ができることが、本人が居場所と感じることに影響している、とも書かれています。
そう読むと、転校は通学路と校舎が変わるだけでなく、一日の大半を過ごす居場所が人との関係ごと一度ほどける出来事でもあることになります。居場所になったかどうかを決められるのは、本人だけです。
同じ年に転校する子は、どのくらいいるのか
総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」は、住民票の異動をもとに一年間に動いた人数を毎年公表しています。2025年(令和7年)結果では、市区町村をまたいで移動した人は519万548人でした。このうち都道府県をまたいだ移動を年齢の5歳きざみで見ると、子どもの年代は次のようになります。
| 年齢階級 | 都道府県間移動者数 |
|---|---|
| 0〜4歳 | 96,544人 |
| 5〜9歳 | 50,804人 |
| 10〜14歳 | 28,027人 |
| 15〜19歳 | 144,152人 |
この表は二つのことを同時に示しています。県をまたいで動く子どもは毎年数万人いて、珍しい出来事ではないこと。そして、小学校に上がったあとは学年が上がるほどその数が減ることです。10〜14歳の2万8027人は5〜9歳のおよそ半分で、全国では珍しくないのにその子の教室では自分ひとり、という状況が起きやすくなります。
「転校なんてよくあることだよ」という励ましが届きにくいのは、たぶんここに理由があります。
転校は子どもの将来に響きますか
海外の追跡研究が悪い結果と結びつけてきたのは、一度の転校そのものではなく、短い期間に転校が重なることのほうです。年齢によっても意味が変わります。
米国シカゴの長期追跡研究を使ったHerbersらの2013年の分析は、都市部の低所得層に育った1,410人を追いました。4〜8年生(日本の小4から中2ごろ)のあいだに2回以上転校した子どもは、期限内に高校を修了するオッズ比が0.56(95%信頼区間0.36〜0.89)、教育年数はおよそ0.25年短く、抑うつ症状の得点も高い(B=0.37、p<.01)という関連が示されました。著者らは一度の転校と頻回の転校を分け、後者のほうが悪い結果を予測すると述べています。
年齢による違いを示した報告もあります。JAMA Pediatrics誌に載ったDudovitzらの2019年の論考によれば、調査した高校生1,270人のうち266人(20.9%)が11年生の終わりまでに転校しており、その85.7%は2回以上でした。著者らは、12歳以下の子どもでは質の高い学校がある地域への転居が教育と健康の結果を改善した一方、13〜18歳ではそうならず、男子ではメンタルヘルスの問題が悪化した可能性すらある、と書いています。
どちらも米国の特定の集団を対象にした研究で、日本の家庭にそのまま当てはまるものではありません。それでも方向は共通しています。重いのは転校そのものより、変化が重なることと、そこで支えが途切れることのほうだ、ということです。家庭にできるのは、重なりを減らし、切れやすいつながりを残しておくことになります。
ここからは、それを家庭の手順にしたものです。
家庭で試す3つの工夫
- 日付を紙に書いて渡す:引っ越す日、いまの学校の最後の登校日、新しい学校の初登校日を、口で言うだけでなく紙やカレンダーに書いて子ども自身が見られるようにします。決まっていない項目は「まだ決まっていない」と書きます。置き去りにされる感じは、予定が見えないところから生まれます。
- お別れの仕方は本人に決めてもらう:手紙を書くのか、写真を撮るのか、最後の日に何をするのか。指針が居場所を本人が決めるものとしている以上、区切りの付け方も本人に任せるほうが筋が通ります。「何もしない」という選択も含めて受け取ります。
- 変わるものを先に見せておく:教科書は転校先で変わることがあります。文部科学省の教科書無償給与制度では、学年の中途で転学した児童生徒には、転学後に使う教科書が転学前と異なる場合に新しい教科書が給与されます。制度として手当てがあると先に伝えておくと、授業が分からなくなるのではという不安が、扱える心配に変わります。
声かけの言い換え例
- 「すぐ慣れるよ」→慣れるまでの時間を親が決めてしまう。
- 「慣れるまで、どのくらいかかりそう?」→見通しを本人の側に戻せる。
- 「また会えるから大丈夫」→別れの重さを軽く扱う響きになる。
- 「会えなくなるのは、さびしいね」→気持ちをそのまま置ける。
- 「新しい学校、楽しみだね」→楽しみでない気持ちの置き場がなくなる。
- 「楽しみな気持ちといやな気持ち、どっちが大きい?」→両方あってよいと伝わる。
- 「向こうでは頑張ろうね」→頑張ることが前提になる。
- 「向こうで、まず何が分かれば安心できそう?」→不安が具体的な質問になる。
家庭で確認するチェックリスト
- 引っ越す日と、最後の登校日・初登校日を具体的に伝えている。
- いまの学校での区切りの付け方を、本人に決めてもらっている。
- 友達との連絡の取り方を、家庭のきまりとして決めている。
- 教科書や持ち物など、変わりうることを先に伝えている。
- 転校後しばらくは、様子が変わっても待つ時間を見込んでいる。
家庭の工夫だけで抱え込まないために
この記事が想定しているのは、家庭の事情による引っ越しにともなう転校です。いじめや登校しぶりを理由に学校を変えるかどうかの判断は、学校や教育委員会と相談しながら進める領域になります。その段階にいる場合は、「学校に行きたくない」と言われたらもあわせて読めます。
紹介した研究は、いずれも米国の特定の集団を対象にしたものです。日本の子どもに同じ数字が当てはまるという意味でも、2回以上転校した子がそうなると決まっているという意味でもありません。示されているのは集団としての関連であって、一人ひとりの見通しではありません。
転校のあと、眠れない、食べられない、腹痛や頭痛が続くといった変化が長く残るときは、家庭だけで抱えずに、学校のスクールカウンセラーや自治体の教育相談窓口に相談する選択肢があります。本人が親に言いにくそうなときは、文部科学省の「24時間子供SOSダイヤル」(0120-0-78310)もあります。夜間・休日を含めていつでも受け付けており、かけた所在地の教育委員会の相談機関につながります。保護者も利用できます。
よくある質問
- 転校すると勉強が遅れませんか。教科書はどうなりますか。
- 教科書は制度として手当てがあります。文部科学省の教科書無償給与制度では、学年の中途で転学した児童生徒について、転学後に使用する教科書が転学前と異なる場合に新たに教科書が給与されます。対象は国・公・私立の義務教育諸学校の全児童生徒と、その使用する全教科の教科書です。進度の違いは学校ごとにあるので、転入先の担任に確認するのが早道です。
- 転校は子どもの将来に悪い影響が残りますか。
- 海外の追跡研究が悪い結果と結びつけているのは、一度の転校ではなく短い期間に転校が重なることのほうです。Herbersらの分析では、4〜8年生のあいだに2回以上転校した子どもで、期限内の高校修了のオッズ比が0.56という関連が示されました。ただし対象は米国都市部の低所得層で、日本の家庭にそのまま当てはめられるものではありません。
- 新しい学校になじめていないようです。どのくらい待てばいいですか。
- 期間を決める公的な目安はありません。こども家庭庁の指針は、ある場所が居場所になるかどうかは本人がそう感じるかどうかによるとし、昨日まで居場所だった場が今日はそう感じられないこともある、と書いています。親が「もう慣れたはず」と判定するより、本人の言葉を待つ姿勢のほうが指針の考え方に近いといえます。
- 家庭だけで抱えきれないとき、どこに相談できますか。
- 学校のスクールカウンセラーや、自治体の教育相談窓口に相談する選択肢があります。学校に言いにくいときは、文部科学省の「24時間子供SOSダイヤル」(0120-0-78310)が夜間・休日を含めていつでも受け付けており、かけた所在地の教育委員会の相談機関につながります。子ども本人も保護者も利用できます。
出典・参考
- こども家庭庁「こどもの居場所づくりに関する指針」(令和5年12月22日閣議決定)
この出典で確認した記述
表紙に「こどもの居場所づくりに関する指針」「令和5年12月22日」と記載されている。「2.こどもの居場所の特徴」(PDF5ページ)の「個人的であり、変化しやすいものであること」に「ある場所がこども・若者にとっての居場所になるかどうかは、本人がそこを居場所と感じるかどうかによるという意味で、こどもの居場所は個人的なものである。あるこどもにとって居場所だと感じる場や対象が、他のこどもの居場所になるとは限らないという特徴がある。」「また、昨日まで居場所だと感じていた場や対象が、心理的な変化や人間関係の変化などにより、今日は居場所だと感じられないこともある。さらに、こどもの成長や発達に伴い、同じこどもであっても求める居場所が異なってくる。このように、こどもの居場所は変化しやすいものである。」と記載されている。同ページの「人との関係性の影響を受けるものであること」に「その場において、他者に受け入れてもらえることや交流ができることなど、人との関係性があることが、本人が居場所と感じることに影響している。学校やクラブ活動など、結果としてこども・若者の居場所になっている場があるのは、こうした人との関係性によるところが大きい。」と記載されている。「多くのこどもにとって学校が居場所になっていること」(PDF5〜6ページ)に「こどもにとって、学校は単に学ぶだけの場ではなく、安全に安心して過ごしながら、他者と関わりながら育つ、大切な居場所の一つであり、実際に、一日の大半を過ごす場所として、学校は多くのこどもにとっての居場所となっている。」と記載されている。「3.こどもの居場所づくりとは」(PDF6ページ)に「居場所とは、こども・若者本人が決めるものである一方で、居場所をつくること(居場所づくり)とは、第三者が中心となって行われるものであるため、居場所と感じることと、居場所づくりには隔たりが生じ得る。」と記載されている。本文「転校で変わるのは、通う場所だけではない」節、図1、工夫2、よくある質問3つ目はこれによる。 - 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果 結果の概要」(2026年2月公表)
この出典で確認した記述
「Ⅱ 全国における日本人及び外国人の移動者 1.移動者数」(PDF6ページ、本文4ページ)に「市区町村間移動者数は519万548人(対前年比0.3%減少)」「都道府県間移動者数は251万5731人(対前年比0.3%減少)」と見出しがあり、本文に「市区町村間移動者数は519万548人で、前年に比べ1万7198人(0.3%)の減少と3年連続の減少となっている。」と記載されている。同ページの都道府県間移動者数の説明に「年齢5歳階級別にみると、20〜24歳が58万5495人と最も多く」と記載されている。続く「表4」(PDF7ページ、本文5ページ)の年齢5歳階級別・男女別の都道府県間移動者数は、総数2,515,731人、0〜4歳96,544人、5〜9歳50,804人、10〜14歳28,027人、15〜19歳144,152人、20〜24歳585,495人であり、20〜24歳の値が本文の記述と一致することから、当該表が都道府県間移動者数の年齢階級別内訳であることを確認した。本文「同じ年に転校する子は、どのくらいいるのか」節の表と数値、3行まとめ2つ目はこれによる。なお本統計は住民票の異動に基づくもので、転校した児童生徒数を直接数えたものではない。 - Herbers JE, Reynolds AJ, Chen C-C. "School mobility and developmental outcomes in young adulthood." Development and Psychopathology. 2013;25(2):501-515.
この出典で確認した記述
対象はChicago Longitudinal Studyの参加者で、1979〜80年生まれ、当初1,539人のうち最低4年間の在籍記録がある1,410人を分析対象としている。属性はアフリカ系アメリカ人93.3%、ヒスパニック系6.7%、女性50.1%で、高貧困地域在住76.1%、母親が高卒未満54.3%、ひとり親家庭77.4%、生活保護受給63.0%と記載されている。結果として、4〜8年生の間の2回以上の転校について、期限内の高校修了のオッズ比0.56(95%CI [0.36, 0.89])、教育達成が約0.25年少ないこと、抑うつ症状についてB=0.37(p<.01)が示されている。K-12全体では1回の転校増加あたり抑うつ症状B=0.04(p<.05)、成人期の逮捕のオッズ比1.15(95%CI [1.03, 1.27])が示されている。著者らはsingle movesとfrequent school moves(3回以上と定義されることが多い)を区別し、後者がより負の結果を予測すると述べている。本文「転校は子どもの将来に響きますか」節、3行まとめ3つ目、よくある質問2つ目はこれによる。対象が米国都市部の低所得・マイノリティ層に偏っているため、日本の家庭への一般化はできない。 - Dudovitz RN, Chung PJ, Wong MD. "School Mobility and Its Impact on Student Health—Reply." JAMA Pediatrics. 2019;173(5).
この出典で確認した記述
本文に「266 of 1270 students (20.9%) changed high schools by the end of 11th grade」、そのうち「228 of these students (85.7%) changed schools more than once」と記載されている。転校理由378件の内訳として、より良い学習環境を求めて29.4%、家に近い学校を希望20.6%、引っ越し19.3%、成績不振10.6%が挙げられている。また「moving to a more wealthy neighborhood with higher-quality schools improved educational and health outcomes for young children 12 years or younger」である一方、「among older children aged 13 to 18 years, moving did not help and may have even led to worse mental health problems among boys」と記載されている。なお本稿は読者コメントへの著者返答(Reply)であり、介入方法についての記述は含まれていない。本文「転校は子どもの将来に響きますか」節はこれによる。 - 文部科学省「12.教科書無償給与制度」
この出典で確認した記述
根拠法として「義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律」(昭和37年3月31日公布)および「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」(昭和38年12月21日公布)が挙げられている。「教科書無償給与の対象となるのは、国・公・私立の義務教育諸学校の全児童生徒であり、その使用する全教科の教科書」と記載されている。転学時の取扱いについて「学年の中途で転学した児童生徒については、転学後において使用する教科書が転学前と異なる場合に新たに教科書が給与されます。」と記載されている。本文の工夫3つ目、よくある質問1つ目、図2の3番目のステップはこれによる。 - 文部科学省「『24時間子供SOSダイヤル』について」
この出典で確認した記述
電話番号が「0120-0-78310(なやみいおう)」であること、「いじめやその他の子供のSOS全般について、夜間・休日を含めて24時間いつでも相談できる」よう整備されたものであること、悩んでいる子供や保護者等が利用できること、原則として電話をかけた所在地の教育委員会の相談機関に接続されることが記載されている。本文「気をつけたいこと」節およびよくある質問4つ目の相談先はこれによる。
この記事について
本記事は家庭での関わりを整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や治療の判断に代わるものではありません。研究知見や公的資料は「一つの考え方」として紹介しており、家庭ごとに合う・合わないがあります。お子さんの状態が気になる場合は、専門機関や学校にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。