3行まとめ
- 大規模地震のあとの基本原則は「むやみに移動を開始しない」(一斉帰宅抑制)。国の指針は、原則3日間は安全な場所で待機し、おおむね4日目以降を目途に順次帰宅する想定を示しています。
- 同じ指針は、小さな子どものお迎えなどやむを得ない事情で早く帰る判断もありうるとしたうえで、その場合は家庭内の対応者を1名にするなど、動く人数を増やさないことを求めています。「どちらが迎えに行くか」を先に決めておく意味はここにあります。
- 学校や保育施設には、保護者が帰宅困難になる前提で引き渡し方法を検討し、その結果を保護者へ周知することが求められています。まずは我が子の園・学校のルールを確認し、あわせて災害用伝言ダイヤル(171)などの連絡手段を家族で試しておくのが現実的な一歩です。
この記事でわかること
- 離れているときに被災した親が、まず何をすべきかという公的な考え方
- 学校・学童・保育施設の引き渡しについて、家庭が事前に確認しておくこと
- 電話がつながらない前提での安否確認の手段と、家族での練習のしかた
「あの時間に起きたら」と思うと動悸がする
防災訓練のお知らせが学校から届いたり、大きな地震のニュースを見たりしたあと、ふと考えてしまう瞬間があります。「もし、いま揺れたら」。自分は会社の会議室、上の子は5時間目の教室、下の子は保育園のお昼寝の時間。頭のなかで家族の居場所を並べてみると、全員が別々の建物にいて、自分の手が届く距離には誰もいない。そう気づいた瞬間に、胸のあたりがざわざわする——共働きの親なら、多くの人が一度は味わう感覚だと思います。
そして、その不安はたいてい行き場を失います。会社の防災訓練では「安全確保」までは教わるけれど、子どものことは出てきません。学校からは引き渡し訓練のお知らせが来るけれど、その日は平日で、そもそも自分が行けるかどうかわからない。パートナーとも「そのときはなんとかするしかないね」で話が終わってしまう。備蓄の水は買ってあるのに、いちばん怖い場面の段取りだけが空白のまま残っている、という家庭は少なくありません。
この空白は、能力の問題でも、意識の低さの問題でもありません。単に、決めるべき項目が明確になっていないだけです。実は、災害時に離れている家族がどう行動するかについては、国がかなり具体的な考え方を公表しています。次の章では、その指針が何を言っているのかを見ていきます。子どもが一人で家にいる時間帯の備えについては、留守番を始める前に親子で確認することもあわせてご覧ください。
公的指針の見方 ― 「むやみに移動を開始しない」の意味
首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議が令和6年7月にまとめた「一斉帰宅抑制後の帰宅行動指針」は、大規模地震のあとの行動について、はっきりした基本原則を置いています。発災直後の救命・救助活動や消火活動を妨げず、群集事故などの二次災害からも身を守るため、「むやみに移動を開始しない」という一斉帰宅抑制の原則に基づいて対策に取り組むという考え方です。同じ指針は前提として「原則3日間は一斉帰宅抑制」を掲げ、災害発生から72時間(=3日間)は人命救助のために重要な時間であり、この間、行政機関は救命・救助などの応急活動を中心に対応する必要があるため、帰宅困難者は原則3日間は安全な場所に待機し、応急活動が落ち着くと考えられる発災後おおむね4日目以降を目途に、順次帰宅することが想定されている、と説明しています。
ここまで読むと、多くの親は反射的に「でも、子どもが待っているのに3日も待てない」と感じるはずです。実は指針自身が、その葛藤に触れています。注記として、小さなこどものお迎えや家族の介護などやむを得ない事情により、帰宅困難者が自らの判断で移動を開始することも考え得る、と書かれているのです。そのうえで、移動する場合には、指針の趣旨が自らの安全確保と応急活動の円滑な実施にあることを理解したうえで、自己の判断に責任をもって行動すべきだとしています。つまり「迎えに行くことは想定外の行動ではないが、無自覚に飛び出すのとは違う」という整理です。
もう一つ、共働き家庭に直接効く一文があります。指針の帰宅行動の項目には、小さなこどものお迎えなどやむを得ない事情で早期に帰宅すると判断した人は、対応者を家庭内で1名にするなどして、移動する人数の増加を抑えるよう努めるという趣旨の記述があります。父も母も同時に職場を飛び出せば、混雑した街を移動する人が二人に増え、危険にさらされる家族も二人になります。だからこそ、「その日はどちらが迎えに向かい、どちらは動かずに待つのか」を、平常時に決めておく価値があるのです。役割の分担そのものは、日々の家事や育児の分担と地続きの話でもあります(共働きの家事・育児分担を「見える化」して不公平感を減らす)。
指針は、平常時の備えについても具体的です。外出時に大規模地震に遭う可能性を踏まえ、家族や関係者との間で、帰宅しないという選択、安否確認の方法、お迎えや介護が必要な家族がいる場合の対応方法、自宅が被害を受けた場合の避難先や合流場所などについて話し合い、取り決めをしておくこと。勤務先には、一時滞在を想定した備え(水、食料、着替え、携帯トイレ、生理用品、携帯電話用充電器など)と、徒歩帰宅を想定した備え(歩きやすい靴、日常行動範囲の地図、救急用具など)を常備しておくこと。徒歩帰宅の経路は複数を検討し、実際に歩いて確認しておくこと。指針はさらに、発災後は緊急車両の通行が優先されるため、家族に車での送迎を依頼することも控えるべきだと述べています。「誰かに車で迎えに来てもらう」は、思っているほど現実的な選択肢ではない、ということです。
家庭側の備蓄についても、公的な目安ははっきりしています。内閣府は、最低3日間、できれば1週間過ごせるよう、飲料水(一人1日3リットル)や食料などを備蓄することを勧めています。首相官邸の解説も、飲料水と非常食は3日分、大規模災害では1週間分が望ましいとしたうえで、家具を壁に固定すること、非常用持ち出しバッグを用意しておくこと、ハザードマップで避難場所と経路を確認しておくことを挙げています。ここで見落とされがちなのは、備蓄が「自宅にあればいい」ものではない点です。日中に被災すれば、家族は自宅ではなく、職場や学校で最初の数日を過ごすかもしれません。職場のロッカーに歩きやすい靴と携帯トイレ、子どもの通学かばんに小さな飲み物と連絡先カード——備えを家の外にも分散させておく発想が、共働き家庭ではとくに効いてきます。
学校・学童・保育園の引き渡しルールを確かめる
「迎えに行く」と決めていても、子どもがどこで、どんな条件で待っているのかを知らなければ、段取りは組めません。ここでも公的な整理があります。先ほどの帰宅行動指針は、学校や保育施設等の管理者に対して、市区町村の所管部局・防災部局と連携し、施設利用者の保護者等が帰宅困難者となる可能性を踏まえて、施設利用者と保護者等の安否確認の方法や連絡手段、保護者等への引渡し方法等について検討を進めるよう求めています。引渡しの時期や方法を検討する際には、施設の立地条件・規模・安全性、職員の確保状況に加えて、保護者の移動距離や、保護者以外への引渡しの可能性なども勘案し、子どもの安全確保はもちろん、保護者自身の安全確保にも配慮すべきだとしています。そして、検討した結果については、保護者等に周知すると明記されています。
つまり、引き渡しのルールは学校や園がすでに検討し、保護者に伝えているはずのものです。年度初めに配られたプリント、学校のウェブサイト、保護者会の資料のどこかに、「震度いくつ以上のときは引き渡し」「引き渡しができるまで学校で待機させる」「保護者以外に引き取りを頼める人を登録する」といった内容が書かれていることが多いはずです。文部科学省も、各学校が危険等発生時に職員が講じる措置の内容や手順を定めた危機管理マニュアルを作成することとしており、その参考として「学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き」を公表し、事前・発生時・事後の3段階で対応を整理するよう示しています。学校の対応は思いつきではなく、こうした枠組みの上に立っています。
家庭がすることは、そのルールを「探して読む」ことです。確認したいのは次の4点にしぼれます。第一に、どんなときに引き渡しになり、どんなときは学校待機になるのか。第二に、保護者以外の誰に引き取りを頼めるのか(祖父母や近所の家庭を登録できるか、登録の締切はいつか)。第三に、学校からの連絡はどの手段で来るのか(緊急メール、アプリ、ウェブサイト、電話連絡網)。第四に、下校時刻を過ぎても迎えに行けない場合、子どもはどこで、誰と待つことになるのか。学童保育や習い事、放課後に立ち寄る場所があるなら、それぞれについて同じ4点を確認します。低学年と高学年で居場所が変わる時期は、とくに抜けが出やすいところです(学童を卒業したあとの放課後を、家庭でどう設計するか)。
そして、確認した内容は子ども自身にも短い言葉で伝えておきます。「大きな地震のときは、お迎えが来るまで学校にいてね」「先生の指示を聞いて、勝手に帰らないでね」「もし迎えがおばあちゃんになっても大丈夫だよ」。子どもにとっていちばん怖いのは、揺れそのものよりも、「誰も来ないかもしれない」という不確かさです。来るまでに時間がかかるかもしれない、それでも必ず合流する、という見通しを言葉にしておくことが、子どもの心の備えになります。
つながらない前提でつくる、安否確認の道
大きな災害のあと、電話は非常につながりにくくなります。だからこそ、公的機関は電話以外の連絡手段を家族で決めておくよう繰り返し勧めています。代表的なのが災害用伝言ダイヤル「171」です。総務省の解説によれば、「171」にダイヤルし、ガイダンスに従って登録は「1」、確認は「2」を選び、市外局番から始まる電話番号を入力して伝言を録音・再生する仕組みで、固定電話のほか、携帯電話やIP電話などからも利用できます。文字で残したい場合は災害用伝言板(web171)があり、1件あたり100字以内のテキストで登録できます。携帯電話各社も、それぞれ災害用伝言板を提供しています。
ここで大事なのは、「どの電話番号をキーにして伝言を残すか」を家族で先に決めておくことです。171は電話番号を手がかりに伝言をやりとりする仕組みなので、家族がそれぞれ別の番号で登録してしまうと、お互いの伝言にたどり着けません。自宅の固定電話番号、あるいは親のうち一方の携帯番号を「我が家の伝言用の番号」と決め、全員がそこに登録し、そこを確認する。これだけで、探し合う時間が大きく減ります。
もう一つ知っておきたいのが「三角連絡法」です。内閣府の広報誌「ぼうさい」は、離れた場所に住む家族や親戚、知人の家を連絡先に決め、そこを中継点にして家族の安否確認や連絡をとる方法を紹介しています。被災地の中では電話がつながりにくくても、遠くの地域へはつながることがあるためです。遠方の祖父母や親戚に「もし関東で大きな地震があったら、みんなここに電話するから」と伝えておくだけで、家族の連絡は一本の線ではなく三角形になります。あわせて同誌は、自宅、学校、職場の近くや、通勤通学の途中にある避難場所を確認しておくことも勧めています。
そして、これらの手段は使ってみないと身につきません。災害用伝言サービスには体験利用の日が設けられていて、総務省の案内では毎月1日と15日、正月三が日、防災週間などに体験できるとされています(提供日と時間は年によって変わることがあるため、総務省や通信各社の最新の案内で確認してください)。休日の朝に5分だけ時間をとって、家族全員で実際に171に電話し、伝言を録音して再生してみる。子どもが自分の指で番号を押してみる。この一度の体験が、いざというときの「やり方がわからない」を消してくれます。
家庭で試す3つの工夫
家庭で試す3つの工夫
- ① 「我が家の防災カード」を1枚だけつくる:伝言に使う電話番号、遠方の中継先、迎えの第1担当・第2担当、合流場所の第1候補と第2候補。決めごとをこの5行だけに絞って書き、家の冷蔵庫、親それぞれの財布、子どもの通学かばんに同じものを入れておきます。停電でスマホが使えなくても読める形にしておくのがポイントです。
- ② 引き渡しルールを「家族会議の議題」にする:学校・学童・保育園から配られた防災のプリントを1か所に集め、休日に15分だけ夫婦で読み合わせます。引き渡しの条件、代理で引き取れる人、連絡が来る手段の3点を確認し、登録が必要なものはその場で申込書を書いてしまいます。年度が替わったら同じ15分をもう一度とります。
- ③ 体験利用日に「171ごっこ」をする:毎月1日や15日などの体験利用日に、親子で伝言の録音と再生を試します。子どもには「元気だよ、学校にいるよ、と入れてみよう」と実際に声を吹き込んでもらいます。遊びの延長で1回やっておくだけで、非常時の操作が「知っている手順」に変わります。
声かけの言い換え
声かけの言い換え例
「地震が来たらお母さんはすぐ迎えに行くからね」→ 約束が果たせないことがあり、来ない時間が子どもの不安を大きくする。
「時間はかかるかもしれないけど、迎えに行くよ。それまで先生と待っていてね」→ 待つ時間があることを先に伝え、見通しと安心を同時に渡せる。
「そんなこと考えても仕方ないよ、心配しなくていい」→ 子どもの不安に蓋をして、聞きたいことを聞けなくしてしまう。
「不安になるよね。だから今日、決めごとを一緒に確認しておこう」→ 不安を受け止めたうえで、備えるという行動に変えられる。
我が家の防災の決めごとチェックリスト
家庭で確認するチェックリスト
- 災害用伝言ダイヤル・伝言板に登録する「我が家の電話番号」を1つに決めている。
- 遠方に住む親戚や知人など、三角連絡法の中継先を家族で共有している。
- 迎えに向かう担当(第1・第2)と、動かずに待つ側の役割を決めている。
- 学校・学童・保育園の引き渡し条件と、代理で引き取れる人の登録を確認している。
- 自宅が使えないときの合流場所を、第1候補・第2候補まで決めて全員が知っている。
気をつけたいこと・相談先
家庭の決めごとだけで抱え込まないために
ここで紹介したのは、公的機関が公表している一般的な考え方を、共働き家庭の場面に置き換えて整理したものです。実際にどう動くのが安全かは、地震の規模、住んでいる地域の被害状況、勤務先や学校の立地、その日の交通の状況によって大きく変わります。3日間の待機という目安も、指針自身が「4日目以降でないと帰宅させてはならないというものではない」「反対に、4日目以降も応急活動が継続している場合もあり得る」と注記しているとおり、状況によって幅のあるものです。当日は、家庭で決めた段取りよりも、自治体や気象庁が出す情報、勤務先・学校・施設の指示を優先してください。決めごとは判断を減らすための土台であって、判断を固定するためのものではありません。
また、迎えに行くかどうかは、家庭ごとに条件が違う難しい判断です。子どもの年齢、距離、経路の危険度、預け先の体制によって答えは変わり、どれか一つが正解というものではありません。勤務先の対応方針(一斉帰宅抑制のルール、子育てや介護の事情への配慮の有無)は、平常時に上司や人事に確認しておくと、当日の迷いが減ります。地域の避難場所やハザードマップ、自宅の耐震・家具固定については、お住まいの市区町村の防災担当窓口が相談先になります。学校や園の防災体制について疑問があるときは、担任や管理職に率直に尋ねて構いません。本記事は特定の行動の安全を保証するものではなく、災害時の対応を指示するものでもありません。最新の情報は、内閣府防災情報のページ、気象庁、お住まいの自治体の公式発表でご確認ください。
出典・参考
- 首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議「一斉帰宅抑制後の帰宅行動指針」(令和6年7月26日)
- 内閣府(防災担当)「帰宅困難者等対策」
- 内閣府 防災情報のページ「自然災害への備えは万全ですか?チェックしてみよう!」
- 首相官邸「災害が起きる前にできること」
- 総務省「災害用伝言ダイヤル・災害用伝言板サービス」
- 内閣府 広報誌「ぼうさい」第66号 特集「家族で防災」
- 文部科学省「学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き」(平成24年3月)
この記事について
本記事は、災害時に家族が離ればなれで被災した場合の備えについて、公的機関が公表している一般的な情報を整理したものであり、特定の行動の安全性を保証したり、災害時の対応を指示したりするものではありません。適切な行動は、災害の規模・地域の被害状況・時間帯・家族の状況によって異なります。実際の災害時は、自治体や気象庁が発表する情報と、勤務先・学校・施設の指示に従ってください。制度や施設の対応方針は改定されることがあるため、最新の情報は各公式サイトでご確認ください。