3行まとめ
- 歩行中の小学生の死者・重傷者を通行目的別に見ると、登校中232人に対して下校中は484人(令和2〜6年の合計)。時間帯も14〜15時台が最多で、危ないのは「行き」より「帰り」、しかも親が家にいないことが多い時間帯です。
- 政府の「登下校防犯プラン」は、共働き家庭の増加で見守りが難しくなった結果、自宅周辺に子どもが1人で歩く「1人区間」という空白が生じていると分析し、見守りに参加できない保護者にもできることを名指しで挙げています。
- 家庭でできるのは、下校の時間帯に通学路を一緒に歩いて「どこで一人になるか」を確かめること、助けを求められる場所と渡り方を決めること、気づいた危険を学校や自治体に戻すことです。
この記事でわかること
- 小学生の登下校中の事故が、いつ・どこで・どんな形で起きているのか
- 「1人区間」「見守りの空白地帯」という国の分析が、共働き家庭に何を示しているか
- 通学路の危険箇所を点検・改善する仕組みと、そこに保護者がどう関われるか
- 休みのうちにできる3つの工夫と、緊急でないときの相談先
「気をつけてね」の先が見えない朝に
心配していないわけではありません。ただ、心配の中身が漠然としているので、言葉にすると「気をつけてね」に丸まってしまう。旗当番や見守り当番が回ってくると、休みを取れないことに後ろめたさを感じる方もいます。けれど政府が平成30年にまとめた「登下校防犯プラン」は、防犯ボランティアの高齢化と並べて、共働き家庭の増加に伴い保護者による見守りが困難となっていることを、対策が必要になった理由として明記しています。付き添えないことは個々の家庭の落ち度ではなく、社会の側が引き受けるべき変化として扱われています。
公的情報の見方 ― 数字が示す「帰り」と「自宅の近く」
手がかりになるのは内閣府の「令和7年交通安全白書」です。小学生の交通事故による死者・重傷者数は平成27年の1,185人から令和6年の686人へ約42.1%減り、長い目で見れば通学路の安全は改善してきました。問題は、残っている危険がどこに集まっているかです。令和2〜6年の合計で、歩行中の死者・重傷者は登校中232人(12.4%)に対して下校中484人(25.8%)。下校中が登校中の約2倍です。
時間帯を重ねると像が浮かびます。歩行中の死者・重傷者は、全年齢層では18〜19時台が最も多いのに対し、小学生では14〜15時台が最多、次いで16〜17時台。多くの共働き家庭にとって、まだ誰も家にいない時間です。事故のかたちも偏っていて、歩行者側に法令違反等がなかったのは40.9%(全年齢層は64.9%)、内訳は飛出しが最多。道路の形でいえば交差点が49.2%を占めます。事故の多くが「道を渡る」という一つの動作に集中しているということです。なお令和8年9月1日から、中央線等がない生活道路の法定速度が時速30キロメートルに引き下げられます。
「1人区間」と見守りの空白地帯
防犯の側から同じ時間帯を指している資料もあります。平成30年に決定された「登下校防犯プラン」は、道路上における身体犯の被害件数全体は減少しているのに、被害者が13歳未満の子どもである事案に限るとほぼ横ばいで推移し、登下校時、特に15時から18時の下校時間帯に集中しているとしています。交通事故の集中する時間帯とほぼ重なります。
プランは、防犯ボランティアの高齢化と共働き家庭の増加により「地域の目」が減少し、自宅周辺で子どもが1人で歩く「1人区間」などにおいて「見守りの空白地帯」が生じている、と分析します。通学路全体を「危ないか安全か」で見ると判断しようがありませんが、「1人区間」なら自分の子に固有の答えが出ます。実際に歩いてみると、たいてい親の想像とは違う場所から始まっています。
さらに5番目の柱には、保護者が直接的な見守り活動への参加が困難な場合であっても、自宅周辺の「1人区間」の状況や「子供110番の家」の所在地等を子供と確認すること、子供が把握した不審者情報等を聞き出すこと等、家庭においてこそ効果的に果たせる役割を踏まえた取組を推進する、と書かれています。こども家庭庁の「登下校の安全Q&A」も同じ三つを挙げています。三つとも、平日の日中に家にいなくてもできることです。
通学路は、点検して直す対象になっている
三つ目に押さえたいのは、通学路の危険が点検して直す対象として制度化されている点です。平成24年の京都府亀岡市の事故などを受けて全国約2万の公立小学校等で緊急合同点検が行われ、7万4,483か所が洗い出されました。その後、地域ごとに「通学路交通安全プログラム」に基づく推進体制を作ることになり、合同点検の体制は「教育委員会・学校、保護者、警察、道路管理者を含む体制とすることを基本とする」と明記されています。保護者は点検される側ではなく、点検する体制の構成員なのです。
動く仕組みでもあります。令和3年の千葉県八街市の事故を受けた緊急対策では7万6,404か所が抽出され、令和5年度末までに全ての箇所で安全対策が講じられたと記録されています。「ゾーン30」は令和6年度末までに4,410地区が整備され、整備前後で交通死亡事故・重傷事故が28.7%減少しました。家庭の工夫は、道路や地域の対策の代わりではなく、その上に重ねる薄い一枚です。
家庭で試す3つの工夫
- ①下校の時間帯に、通学路を一緒に歩いて「1人区間」を決める:朝ではなく14〜16時ごろに歩くのがポイントです。「ここまでは誰と一緒?」「ここからは一人?」と確かめると、どこから一人になるかが地点として分かります。多くの場合それは学校の近くではなく自宅の手前です。低学年のうちは、注意を促すより「一人の時間を短くする」工夫のほうが効きます。
- ②「助けを求める場所」と「渡り方」を、地図ではなく現場で決める:「子供110番の家」のステッカー、開いている店、交番を指さして確かめ、可能なら走って入ってみる駆け込み訓練まで。渡る場所は2〜3か所に絞り、「一度止まる・手を挙げて渡る意思を伝える・車が止まったのを見てから渡り始める・渡っている間も周りを見る」の4つだけを実演します。
- ③気づいた危険を、家庭の中で終わらせずに戻す:「あそこは危ないから気をつけて」で終わらせず、連絡帳や保護者会、PTA、自治体の担当課へ一言戻します。声をかけられた、後をついてこられたといった出来事も、警察や学校に共有することが保護者の役割として挙げられています。
声かけの言い換え例
「気をつけてね」→ 何にどこで気をつけるかが入っていない。「今日の帰り、どこから一人になる?」と聞くと、子ども自身が区間を意識できる。
「知らない人にはついて行かないでね」→ 「知らない人」の線引きは子どもには難しい。「怖いと思ったら、あの店かステッカーの家に入っていいよ」と逃げ込む先を場所で示すほうが動ける。
「車が来てないかちゃんと見なさい」→ 見る対象が広すぎる。「一回止まって、手を挙げて、車が止まったのを見てから渡ろう」と動作に分ける。
「なんでそんな遠回りして帰ったの」→ 責める形になると次から経路を言わなくなる。「今日は誰と、どこ通って帰った?」を習慣にしておく。
二学期が始まる前に確認したいこと
- 下校の時間帯(14〜16時ごろ)に、通学路を子どもと一緒に歩いてみた。
- 「どこから一人になるか」を、地点として親子で共有できている。
- 助けを求められる場所(子供110番の家・開いている店・交番)を、指さして確認した。
- 渡る場所を絞り、「止まる・手を挙げる・止まったのを見てから渡る・渡りながらも見る」をやってみた。
- 気になった箇所や不審な出来事を、どこに伝えるかを決めてある。
家庭の工夫だけで抱え込まないために
この記事は、国の白書や対策文書の考え方を家庭向けに置き直した一般的な整理であり、特定の道路や地域の危険度を判定するものではありません。実際の判断は、学校が示している通学路や登下校のきまりを土台にしてください。
子どもの注意力に寄りかからないことも大切です。登下校防犯プランは、小学校低学年の子どもに多くの役割を期待することは現実的ではないと明記したうえで、子どもを極力1人にしないという観点から安全な登下校方策を実施することの重要性を述べています。家庭で教えることは、大人側の見守りや道路の対策を置き換えるものではありません。
危険な場所に気づいたときは、学校や教育委員会、PTAへ。自治体のサイトで「通学路交通安全プログラム」を探すと、地域の点検結果が確認できることがあります。不審な出来事で身の危険が迫っている場合は110番、事件や事故には至っていないけれど不安がある場合には全国共通の警察相談専用電話「#9110」があります。学校にも同時に伝えておくと、不審者情報として地域に共有される仕組みにつながります。
出典・参考
- 内閣府「令和7年交通安全白書」特集 通学路における交通安全の確保について 第1章第1節 状態別にみた小学生の交通事故の状況
この出典で確認した記述
小学生の交通事故による死者・重傷者数が平成27年の1,185人から令和6年の686人へ約42.1%減少(全年齢層は約30.5%減)したこと、令和2〜6年の合計で小学生は歩行中1,875人(55.6%)・自転車乗用中1,205人(35.8%)であること、学齢別では歩行中が小学1年生446人・2年生453人で特に多く自転車乗用中は6年生282人が最多であること、歩行中の通行目的別で登校中232人(12.4%)・下校中484人(25.8%)・合計716人(38.2%)であること、発生時間帯別で小学生は14〜15時台が最多・次いで16〜17時台(全年齢層は18〜19時台が最多)であること、発生月別で小学1年生は4月27人・6月40人・10月61人であること、歩行者の法令違反等別で違反なしが749人(40.9%、全年齢層は64.9%)で約6割に法令違反等があり飛出し・横断違反・信号無視・路上遊戯の順に多いことの根拠。 - 内閣府「令和7年交通安全白書」特集 第1章第2節 事故の類型にみた小学生の交通事故の状況
この出典で確認した記述
歩行中の死者・重傷者を道路形状別に見ると小学生は交差点が918人(49.2%)で交差点付近と合わせると5割を超えること、相手当事者別では小学生の歩行中の死亡事故・重傷事故のうち自動車が1,679件(91.7%)であること、「ゾーン30」が平成23年から整備され令和6年度末までに4,410地区が整備されたこと、令和4年度末までに整備した4,288地区の整備前後比較で交通死亡事故・重傷事故件数が28.7%減少し対歩行者・自転車の事故は26.2%減少したことの根拠。 - 内閣府「令和7年交通安全白書」特集 第2章 通学路における交通安全の確保に向けた取組(第1節 通学路点検の始まり/第2節 緊急対策への取組)
この出典で確認した記述
平成24年4月の京都府亀岡市の事故等を受けて全国約2万の公立小学校等の通学路で緊急合同点検が行われ対策必要箇所7万4,483か所が抽出されたこと、平成25年12月に文部科学省・国土交通省・警察庁が基本的な進め方を取りまとめ「通学路交通安全プログラム」に基づく推進体制(教育委員会・学校、PTA、警察、道路管理者を基本とする構成)を地域ごとに構築することとしたこと、合同点検の体制は「教育委員会・学校、保護者、警察、道路管理者を含む体制とすることを基本とする」とされていること、PDCAサイクルの実施方針および対策箇所図・対策一覧表の公表が定められていること、令和3年6月の千葉県八街市の事故を受けた緊急対策のもとで全国7万6,404か所の対策必要箇所が抽出され暫定的な安全対策を含めて令和5年度末までに全箇所で安全対策が講じられたことの根拠。 - 「登下校防犯プラン」(平成30年6月22日 登下校時の子供の安全確保に関する関係閣僚会議)
この出典で確認した記述
道路上における身体犯の被害件数全体は過去5年で減少しているのに13歳未満の子供に限定するとほぼ横ばいであり子供の被害は登下校時・特に15時から18時の下校時間帯に集中していること、防犯ボランティアの高齢化に加え「共働き家庭の増加に伴い、保護者による見守りが困難となっている」こと・放課後児童クラブ等で過ごす子供が増え下校帰宅の在り方が多様化していること、その結果「地域の目」が減少し学校から距離のある自宅周辺で子供が1人で歩く「1人区間」等において「見守りの空白地帯」が生じているという現状認識、5つの柱の構成、「子供を極力1人にしないという観点から、安全な登下校方策を策定し実施することが重要」「小学校低学年の子供に多くの役割を期待することは現実的ではないものの、子供自身にも、発達の段階に応じて、危険予測・回避能力を身に付けさせるための防犯教育を行うことは不可欠」との記述、「保護者が、直接的な見守り活動への参加が困難な場合であっても、自宅周辺の『1人区間』の状況や『子供110番の家』の所在地等を子供と確認すること、子供が把握した不審者情報等を聞き出すこと等、家庭においてこそ効果的に果たせる役割を踏まえた防犯の取組を推進する」との記述、「子供110番の家・車」が危険に遭遇した子供の一時的な保護や警察への通報等を行うボランティアでありその駆け込み訓練や実施主体との顔の見える関係の構築が挙げられていること、ウォーキング・ジョギング・買物・犬の散歩・花の水やり等の日常活動の際に防犯の視点を持つ「ながら見守り」の推進の根拠。 - こども家庭庁「登下校の安全Q&A」(登下校防犯ポータルサイト)
この出典で確認した記述
保護者ができることとして、自宅周辺でこどもが1人で歩くことになる「1人区間」を把握すること、危険を感じた時に助けを求めることができる「子供110番の家」や店舗等の場所をこどもと一緒に確認すること、こどもから聞いた不審者に関する情報等を警察や学校に共有することが挙げられていること、個人でできる見守りとしてジョギング・水やり・犬の散歩等をしながら行う「ながら見守り」が挙げられていること、見守りボランティアへ感謝の気持ちを伝えることが活動を継続する上で重要とされていることの根拠。 - 内閣府「令和8年秋の全国交通安全運動推進要綱」(令和8年7月1日 中央交通安全対策会議 交通対策本部決定)
この出典で確認した記述
運動期間が令和8年9月21日から30日までの10日間であること、全国重点の一つ目が「〈歩行者〉歩行者の安全確保と反射材用品の着用促進」であること、趣旨に「歩行中児童の死者・重傷者は登下校中の割合が全体の約4割を占める」と記されていること、道路交通法施行令の一部を改正する政令(令和6年政令第248号)により令和8年9月1日から生活道路における法定速度が30キロメートル毎時に引き下げられること、推進項目として「横断歩道を渡ること、信号機のあるところではその信号に従うこと」「運転者に対して横断する意思を手を挙げるなどして明確に伝え、安全を確認してから横断を始めること、横断中も周囲の安全を確認すること」「歩行中幼児・児童の交通事故の特徴(飛び出しによる死者・重傷者が多いなど)等を踏まえた交通安全教育等の推進」「安全に道路を通行することについて、日常生活や教育現場における保護者等から幼児・児童への教育を促す取組の推進」「通学路交通安全プログラム等に基づく点検や対策の推進」が挙げられていることの根拠。 - 警察庁「警察相談専用電話『#9110』」
この出典で確認した記述
電話での相談には全国共通の短縮ダイヤル「#9110」が利用でき、発信地を管轄する各都道府県警察本部等の総合窓口に直接つながること、携帯電話からも利用できるがダイヤル回線および一部のIP電話では利用できないため各警察本部の番号にかける必要があること、土日祝日および夜間は当直または音声案内等により対応していること、各警察署でも各種相談に応じていることの根拠。
この記事について
本記事は家庭での準備を整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や、制度の可否を判断するものではありません。研究知見や公的資料は「一つの考え方」として紹介しており、家庭や地域ごとに合う・合わないがあります。気になる場合は、専門機関・学校・自治体にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。