3行まとめ
- 睡眠ガイドが挙げる睡眠時間は小学生9〜12時間・中学高校生8〜10時間。e-ヘルスネットは、日本のこどもの睡眠時間は「平均すると推奨時間を下回る、もしくは下限付近」としている。
- 問題は長さだけではなく時間帯にある。就寝の約2時間前からメラトニンの分泌が始まり、それ以降に強い光を浴びると分泌が抑制され、入眠が妨げられると報告されている。
- 取り上げるだけでは続かない。余暇時間が減ることがストレスや抑うつにつながる可能性にも触れ、減らした分を日中に補う工夫が勧められている。
この記事でわかること
- 公的資料が挙げている睡眠時間の目安と、その数字がどこから来ているのか
- 「寝る前の画面」がなぜ問題にされるのか―光・時間帯・姿勢という3つの筋道
- 取り上げるのではなく置き換えるための手順と、家庭の工夫では届かないサイン
「あと1本」が積み上がっていく夜
夜ふかしは、たいてい大きな決断としては起きません。宿題が終わった安心感でソファに座り、なんとなく動画を開く。友達がまだオンラインにいるのが見えて、もう1試合。どの瞬間にも「今日は夜ふかしをしよう」という判断はないまま、就寝時刻は後ろへずれていきます。厚生労働省のe-ヘルスネット「こどもの睡眠」も、学童期はテレビやゲームなどで「なんとなく夜更かししてしまう」子が最も多いとし、こどもの4〜5人に1人が何らかの睡眠の問題を抱えているとしています。
睡眠ガイド2023は、この「なんとなく」に名前を与えています。特段の理由がないのに本来の就寝時刻を超えて夜ふかししている状態を「就寝時刻の先延ばし」と呼び、テレビが止められない、SNSで交流するといった行動を挙げています。名前がつくと、責める対象が「子ども」から「起きている現象」へ移ります。
公的情報の見方 ― 眠りを削っているのは長さだけではない
まず目安の数字です。睡眠ガイド2023のこども版は、米国睡眠医学会が示す推奨をもとに「小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間を参考に睡眠時間を確保することを推奨します」と書き、睡眠時間の不足により肥満のリスクが高くなること、抑うつ傾向が強くなること、学業成績が低下すること、生活の質が低下することが報告されているとしています。ただしこの数字は米国の学会の推奨を参照したものだとガイド自身が明記しており、「下回ったら異常」という基準線ではなく、逆算のための出発点です。
次に、時間帯の話です。睡眠ガイドは、就寝の約2時間前から睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌が始まり、それ以降に照明やスマートフォンの強い光を浴びると分泌が抑制され、睡眠・覚醒リズムが遅れて入眠が妨げられると報告されている、としています。近年の照明器具やスマートフォンにはLEDが使われ、体内時計への影響が強い短波長光(ブルーライト)が多く含まれるため、寝室には端末を持ち込まず、できるだけ暗くして寝ることが良い睡眠に寄与するとされています。
三つ目は姿勢です。こども版の「デジタル機器使用の回避」の項目は、寝そべりながら使うとディスプレイの視聴距離が近くブルーライトを浴びやすくなるため、寝つきや睡眠の質の悪化につながるとしています。同じ1時間でも、暗い部屋で顔の近くに画面を置けば、目に入る光の量は変わります。
実際の画面時間はどうか。こども家庭庁「令和6年度青少年のインターネット利用環境実態調査」では、平日1日あたりの平均利用時間は302.3分(約5時間2分)で前年度より約5分増。小学生(10歳以上)223.9分、中学生302.3分、高校生379.4分です。5時間以上使っている割合は小学生24.7%、中学生44.8%、高校生56.8%でした。
スポーツ庁の「令和6年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」は、学習以外のスクリーンタイムが3時間以上と回答した割合を小学校男子44.1%、小学校女子38.7%、中学校男子49.3%、中学校女子48.4%と報告し、平成28年度以降で最も高いとしています。一方で睡眠時間が「8時間以上」の割合は小中学校の男女とも増加しました。同調査の分析では、睡眠が「10時間未満」までは睡眠が長いほどスクリーンタイムが短い傾向がある一方、「10時間以上」では増加に転じるとされています。「画面を減らせば眠りが伸びる」という一方向だけの話にはならないということです。
最後に、家庭のルールをめぐる数字です。「ルールを決めている」と答えた割合は、小学生では子ども82.1%に対し保護者89.9%、中学生では73.0%に対し82.1%、高校生では46.6%に対し61.1%。学年とともに差が広がり、高校生では約15ポイントの差があります。親が「決めてある」と思っている内容が、子どもの側では共有された約束になっていない場面が一定の割合で存在します。
統計を家庭に当てはめるときの注意
こども家庭庁の利用時間は「利用機器の合計」です。テレビを流しながらスマートフォンを触っていれば、その時間は二重に数えられます。見るべきなのは他家庭との比較ではなく、朝起きられているか、日中に眠そうにしていないかという手元の観察のほうです。
睡眠ガイドの推奨値は米国睡眠医学会の推奨を参照したもので、スポーツ庁の分析も関連を示すものであり因果を示すものではありません。目安から逆算し、少しずつ動かして朝の様子で確かめることだと思います。
家庭で試す3つの工夫
- 起きる時刻から逆算して、寝る時刻を先に置く:睡眠ガイド2023は、小学生以降について「早起き習慣を保ったうえで、前述の推奨睡眠時間から逆算して、夜寝る時間を決めることをお勧めします」と書いています。学校に間に合う起床時刻を紙に書き、そこから9時間なり8時間なりを引いて、寝る時刻を一緒に出してみてください。
- 「終わる時刻」と「置き場所」を分けて決める:就寝の約2時間前からメラトニンの分泌が始まるので、決めたいのは「何分まで」ではなく「何時まで」です。そのうえで置き場所を別に決めます。こども版は「デジタル機器は寝室には持ち込まず、電源を切って、別の部屋に置いておきましょう」と明記しています。充電器をリビングに一つ置き、家族全員の端末がそこで一晩過ごす形にすると、子どもだけが対象にされている感じが薄れます。
- 減らした分を日中に返し、朝の光でリセットする:睡眠ガイドは、就寝時刻の先延ばしをやめることで余暇時間が減り、ストレスの増加や抑うつにつながる可能性があるとしたうえで、その分を日中に補えるよう工夫するとよいと書いています。そのうえで朝です。e-ヘルスネットは「早寝・早起き」ではなく「早起き・早寝」から始めることを勧め、朝に明るい光を浴びてから約14時間後に眠気が来るよう体内時計がセットされていると説明します。室内を見るだけでは不十分で、外の光を浴びることが挙げられています。夜を早めたいときに動かすのは、実は朝のほうです。
同じ内容でも、切り出し方によって「責められた」と受け取られるかどうかが変わります。夜に起こりやすい4つの場面を並べます。
声かけの言い換え例
- 「いつまでやってるの、いい加減にしなさい」→時間の話が人格の話に聞こえる。「終わりの時刻だけ先に決めておこう」。
- 「夜は預かるからね」→一方的な没収に聞こえる。「充電はリビングでまとめてやることにしない?」。
- 「夜ふかしすると成績が下がるよ」→脅しに近い。「明日は6時半に起きるよね。9時間眠るなら何時に寝る計算?」。
- 「休みの日くらい好きにさせてよ、って言われてもね」→対立で終わる。「夜に削った分、土曜の午前は好きなだけやっていい」。
今週のうちに確認したいこと
- 朝の起床時刻から逆算した「寝る時刻」を、子どもと一緒に紙に書き出した。
- 夜に画面を終える時刻を、分数ではなく時刻の形で決めてある。
- 寝るときに、スマートフォンやタブレット、ゲーム機が寝室の外にある。
- 夜に減らした時間の行き先(休日の午前など)を、子どもに伝えてある。
- 朝起きたあと、カーテンを開けるか外に出るかして、外の光を浴びる流れになっている。
家庭の工夫だけで抱え込まないために
子どもの年齢、部屋の間取り、保護者の勤務時間によって、できることは変わります。部活動や塾の帰宅時刻から逆算すると目安の睡眠時間が収まらない時期もあります。全部を一度に整えようとせず、朝の光か寝室の置き場所か、どちらか一つを動かすところから始めるほうが現実的です。
睡眠ガイド2023は、夜ふかし・朝寝坊の習慣が長く続いて朝起きることが難しくなり、遅刻や登校困難につながる状態を、睡眠・覚醒相後退障害という睡眠障害の一つとして説明し、この状態の6割近くに起立性調節障害を合併すると報告されているとしたうえで、できるだけ早く医師に相談することが重要だとしています。e-ヘルスネットも、日中の眠気が強すぎるといった症状が1か月以上続くときは小児科医に相談することを挙げ、平日に比べて週末に3時間以上遅くまで寝ている場合は睡眠不足があると考えてよいとしています。学校生活に影響が出ているときは、担任のほか養護教諭やスクールカウンセラーにも早めに共有しておくと動きやすくなります。
出典・参考
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(令和6年2月策定/令和6年9月18日一部修正)
この出典で確認した記述
こども版の推奨事項として「小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間を参考に睡眠時間を確保する」「朝は太陽の光を浴びて、朝食をしっかり摂り、日中は運動をして、夜ふかしの習慣化を避ける」を挙げていること。米国睡眠医学会の推奨として1〜2歳児11〜14時間・3〜5歳児10〜13時間・小学生9〜12時間・中学高校生8〜10時間を参照していること。睡眠時間の不足により肥満のリスクが高くなること、抑うつ傾向が強くなること、学業成績が低下すること、生活の質が低下することが報告されているとしていること。小学生以降は早起き習慣を保ったうえで推奨睡眠時間から逆算して夜寝る時間を決めることを勧め、友達との交流や遊びの時間について十分な睡眠時間が確保できるよう親が援助することが望ましいとしていること。「デジタル機器使用の回避」として、デジタル機器は寝室には持ち込まず電源を切って別の部屋に置くこと、寝そべりながら使うとディスプレイの視聴距離が近くブルーライトを浴びやすくなるため寝つきや睡眠の質の悪化につながることを挙げていること。夜ふかし・朝寝坊の習慣が続いた状態を睡眠・覚醒相後退障害として説明し、その6割近くに起立性調節障害を合併すると報告されているため、できるだけ早く医師に相談することが重要としていること。「就寝時刻の先延ばし」の説明として、テレビ・ゲーム・SNSなどの余暇活動が挙げられ、家庭での電子機器使用に関するルールづくりが有効な場合がある一方、余暇時間の減少がストレスの増加や抑うつにつながる可能性があるため日中に補う工夫を勧めていること。「良質な睡眠のための環境づくりについて」の節で、就寝の約2時間前からメラトニンの分泌が始まり、それ以降に照明やスマートフォンの強い光を浴びると分泌が抑制され睡眠・覚醒リズムが遅れて入眠が妨げられると報告されていること、寝室にはスマートフォンやタブレット端末を持ち込まずできるだけ暗くして寝ることが良い睡眠に寄与すること、体内時計を調節する光受容細胞が460〜480nm付近の短波長光に感受性のピークを持つことの各記載(こども版 推奨事項1〜2、および「良質な睡眠のための環境づくりについて」)。 - こども家庭庁「令和6年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果(概要)」(令和7年3月)
この出典で確認した記述
インターネットを利用すると回答した青少年の平日1日あたりの平均利用時間が302.3分(約5時間2分)で前年度より約5分増加したこと、学校種別では小学生(10歳以上)223.9分(約3時間44分)・中学生302.3分(約5時間2分)・高校生379.4分(約6時間19分)であること、5時間以上の割合が小学生24.7%・中学生44.8%・高校生56.8%であること、高校生の7時間以上が33.2%でその内訳に9時間以上17.7%が含まれること、目的別で最も長いのが趣味・娯楽の約3時間1分であること。平均利用時間は「利用機器の合計」であり、回答者が利用している各機器の利用時間を合算したものであるとの注記があること。インターネット利用に関する家庭のルールについて「ルールを決めている」と回答した割合が、小学生で青少年82.1%・保護者89.9%、中学生で73.0%・82.1%、高校生で46.6%・61.1%であり、学校種が上がるにつれて認識のギャップが拡大傾向にあること(概要10「青少年のインターネットの利用状況−4(利用時間)」、概要13「インターネット利用に関する家庭のルールの有無」)。 - スポーツ庁「令和6年度 全国体力・運動能力、運動習慣等調査 報告書」(令和6年12月)
この出典で確認した記述
スクリーンタイムを「平日1日当たりのテレビ、スマートフォン、ゲーム機等の画面の視聴時間」と定義していること。学習以外のスクリーンタイムが「3時間以上」と回答した児童生徒の割合が小学校男子44.1%・小学校女子38.7%・中学校男子49.3%・中学校女子48.4%であり、調査を開始した平成28年度以降で最も高い割合を示したこと。睡眠時間が「8時間以上」と回答した割合が小中学校の男女とも増加し、特に中学校では男女とも5ポイント以上増加したこと。睡眠時間とスクリーンタイムの関連について、睡眠時間「10時間未満」までは睡眠時間が長いほどスクリーンタイムが短くなる傾向にあるが、睡眠時間が「10時間以上」になるとスクリーンタイムが増加に転じているとされていること(調査結果の総括「Ⅱ 運動習慣・生活習慣」のまとめ、および運動習慣と生活習慣の関連 図14)。 - 厚生労働省 e-ヘルスネット(健康日本21アクション支援システム)「こどもの睡眠」(三島和夫 執筆/2025年6月1日最終更新)
この出典で確認した記述
こどもの4〜5人に1人が睡眠不足や夜型生活による起床困難など何らかの睡眠障害を抱えているとしていること。こどもの睡眠時間の目安として1〜2歳児11〜14時間・3〜5歳児10〜13時間・小学生9〜12時間・中学高校生8〜10時間を挙げ、日本のこどもの睡眠時間は平均すると推奨時間を下回るもしくは下限付近であるとしていること。4歳6か月時点で最も多い就寝時刻が21時台(50.1%)、次いで22時台(21.9%)であり、21時前に就寝するこどもは5人に1人以下であること。学童期はテレビ・ゲームなどで「なんとなく夜更かししてしまう」こどもが最も多いこと。朝に目覚めて明るい光を浴びてから約14時間後より徐々に眠気を感じるように体内時計がセットされていること。「早寝・早起き」ではなく「早起き・早寝」から始めることを勧め、室内方向を見るだけでは体内時計の時刻合わせには不十分であるとしていること。平日に比べて週末に3時間以上遅くまで寝ているこどもは睡眠不足があると考えてよいとしていること。寝ている途中に呼吸が止まる、眠りの質が悪い、寝入りばなや夜間に身体の異常な動きがある、日中の眠気が強すぎるといった症状が1か月以上続くときには小児科医に相談するとしていることの各記載。
この記事について
本記事は家庭での工夫を整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や治療の判断に代わるものではありません。特定の機器・アプリ・設定・サービスを推奨するものでもありません。お子さんの状態が気になる場合は、専門機関や学校にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。