3行まとめ
- 子どものアカウントは、気づかないうちに増えている。こども家庭庁の令和7年度調査では、10〜17歳の99.0%がインターネットを利用し、機器はスマートフォン78.5%、学校のGIGA端末72.7%、ゲーム機66.2%と重なっている。端末が複数あれば、IDとパスワードも複数ある。
- 破られ方は、意外なほど地味である。令和7年の不正アクセス行為の認知件数は7,190件(前年比約34.2%増)。検挙された識別符号窃用型399件の手口で最も多いのは「パスワードの設定・管理の甘さにつけ込んで入手」(84件)で、次が「フィッシングサイトから入手」(77件)だった。
- 子どもは被害者にも、加害者にもなりうる。同じ統計で、検挙人員248人のうち14〜19歳が81人(32.7%)を占め、ほかに14歳未満の少年7人が触法少年として補導されている。「友達のIDで入ってみた」が、法律に触れる行為として扱われる領域がある。
この記事でわかること
- 不正アクセスが実際にどんな手口で起きているのか、公的統計が示している内訳
- 推測されやすいパスワードとは具体的にどんなものか(公的教材が挙げている実例)
- パスワードをどこに保管するのがよいのか ― 公的資料の間で分かれている点も含めて
- 「友達だから教えた」を防ぐために、家庭で先に決めておける言い方
- アカウントが乗っ取られたと感じたときに、どこへ相談できるのか
「うちの子はまだ」と思っている間に増えていくもの
家庭でアカウントの話が出るのは、たいてい何かを始めるときです。ゲーム機を買った日、学習アプリを入れた日、学校から端末を持ち帰ってきた日。そのつど登録画面が現れ、メールアドレスとパスワードを求められます。親のほうは夕食の準備の途中だったりして、「じゃあ、いつものやつで」と流してしまう。子どもは覚えやすい文字列を選び、親はそれを確認しないまま次の作業に戻ります。こうして、家の中には誰も全体像を把握していないアカウントが少しずつ積み上がっていきます。
数の感覚をつかむために、公的な調査を見ておきます。こども家庭庁の「令和7年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」では、満10歳から満17歳の青少年のうち99.0%がインターネットを利用していると回答しました。利用している機器は、スマートフォンが78.5%、学校から配布・指定されたパソコンやタブレット等(GIGA端末)が72.7%、ゲーム機が66.2%、テレビ(地上波・BS等は含まない)が65.9%、自宅用のパソコンやタブレット等が42.5%です。合計が100%を超えているのは、複数の機器を使っている子が多いためです。機器が重なっている以上、IDとパスワードも一人あたり複数あると考えるほうが実態に近いということになります。
ここで起きやすいのが、二つの単純化です。ひとつは使い回し。数が増えれば覚えきれないので、同じ組み合わせをあちこちで使うようになります。もうひとつは覚えやすさの優先。名前、誕生日、好きなキャラクターの名前、出席番号。どれも子どもにとっては忘れない文字列ですが、同時に、子どものことを少しでも知っている人にとっては推測できる文字列でもあります。
総務省の「インターネットトラブル事例集(2026年版)」には、この二つが重なったときに何が起きるかを描いた事例が載っています。事例13「覚えやすいIDとパスワードを設定したら」は、SNSで自分のアカウントから知らないうちに悪口が投稿され、教室で友人から責められる場面から始まります。本人は身に覚えがない。話をたどっていくと、IDは「名前+出席番号」、パスワードは「生年月日」で設定されていた、というところに行き着きます。アカウントが乗っ取られて、投稿だけが他人によって行われていたわけです。この事例が扱っているのは、お金の被害ではなく人間関係の壊れ方です。子どもにとっては、こちらのほうが切実かもしれません。
公的情報の見方 ― 破られ方は、技術ではなく設定と管理
まず、全体の規模を確かめます。国家公安委員会・総務大臣・経済産業大臣が令和8年3月12日に公表した「不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況」によれば、令和7年(2025年)における不正アクセス行為の認知件数は7,190件で、前年(令和6年)と比べて1,832件、約34.2%増加しました。過去5年の推移は、令和3年1,516件、令和4年2,200件、令和5年6,312件、令和6年5,358件、令和7年7,190件と、増減はありながらも高い水準が続いています。不正アクセス後に行われた行為の内訳では、「インターネットバンキングでの不正送金等」が4,747件で最も多く、「証券会社のインターネット取引サービスでの不正取引」1,484件、「インターネットショッピングでの不正購入」228件が続きます。
家庭にとって重要なのは、次の内訳です。同じ資料で、令和7年に検挙した不正アクセス禁止法違反のうち、他人のID・パスワードを使う「識別符号窃用型」(399件)を手口別に見ると、最も多いのは「パスワードの設定・管理の甘さにつけ込んで入手」で84件、次いで「フィッシングサイトから入手」77件でした。つまり、実際に検挙された事案のなかで最も多い入口は、システムの弱点を突く高度な攻撃ではなく、推測できるパスワードが設定されていた、あるいは管理が甘かったという、家庭の側で手を打てる部分です。これは裏を返せば、家庭でできることの効き目が小さくない、という話でもあります。
そしてもう一つ、子育て家庭が知っておいてよい数字があります。同じ統計の被疑者の年齢別内訳では、検挙人員248人のうち20〜29歳が91人(36.7%)、14〜19歳が81人(32.7%)で、この二つで約7割を占めます。30〜39歳は41人(16.5%)、40〜49歳は23人(9.3%)です。さらに注記として、このほかに不正アクセス禁止法違反で14歳未満の少年7人が触法少年として補導されていることが記されています。子どもは、アカウントを乗っ取られる側になるだけでなく、他人のアカウントに入ってしまう側にもなりうる。「友達のIDとパスワードを知っていたから、ちょっと入ってみた」という行為が、どういう扱いになるのかを家庭で言葉にしておく理由が、ここにあります。
では、具体的にどう設定すればよいのか。総務省の「インターネットトラブル事例集(2026年版)」は、先ほどの事例13の解説として、いくつかの具体的な線を示しています。ひとつは長さと組み合わせで、制限がなければ10ケタ以上で、英数字や記号を入れて工夫すること。避けるべき例として、「123456」のように順番にしたもの、自分のSNSなどから推測できるもの、そして名前や誕生日、自分の好きなものが挙げられています。もうひとつは共有の禁止です。同資料は「IDやパスワードを誰かに教えるのもご法度」とし、それは「自分の家の鍵を渡してしまうようなもの」だと説明しています。さらに「アカウント名やID・パスワードなどの大切な個人情報を聞き出そうとする人には注意」、「友達やゲーム仲間でも、どんな人にも教えない!を徹底」と、相手を限定しない形で書かれています。子どもの世界では「仲がいいから教える」が信頼の証として扱われることがあるので、この線は先に共有しておく価値があります。
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「不正ログイン対策特集ページ」も、方向は同じです。パスワードは「できるだけ長く」「複雑で」「使い回さない」ものにすること、そのうえで多要素認証を利用することが挙げられています。多要素認証とは、記憶情報・所持情報・生体情報という三つの要素のうち二つ以上を組み合わせる認証方式のことで、同ページでは主要なサービスごとの設定方法へのリンクもまとめられています。パスワードを長くする作業は子どもには面倒に映りますが、多要素認証は一度設定してしまえば日々の負担が小さく、しかもパスワードが漏れても、それだけではログインされないという性質を持ちます。先ほどの警察庁等の資料も、防御上の留意事項として二要素認証や二経路認証の利用、さらにフィッシングに耐性のある認証技術(パスキー)に触れています。家庭で優先順位をつけるなら、パスワードを完璧にすることより、大事なアカウントから多要素認証を入れていくほうが現実的だと思います。
最後に、意見が分かれるように見える論点にも触れておきます。パスワードをどこに保管するかです。総務省の事例集は、忘れないための工夫として「スマホに覚えさせる方法もありますが、メモして大切に保管しておいてもいいかもですね」と、紙のメモを選択肢として挙げています。一方で警察庁等の資料は、パスワードを「不用意に他人に教えたり、インターネット上で入力・記録したりすることのないよう注意する」としたうえで、インターネット上に情報を保存するメモアプリ等が不正アクセスされ、保存していたパスワード等の情報が窃取されたと思われるケースも確認されていることから、情報の保存場所についても十分注意するよう述べています。二つを並べると、対立しているわけではないことが分かります。危ないのは「メモすること」ではなく「オンラインに置いたメモ」のほうだ、という整理です。家庭で運用するなら、紙に書いて家の中の決まった場所にしまう形が、いちばん説明しやすいと思います。
統計を家庭に当てはめるときの注意
ここまでの数字を家庭に持ち込むときに、気をつけたい点が三つあります。ひとつめは、不正アクセスの統計が子どもの被害に限った統計ではないことです。認知件数7,190件の多くはインターネットバンキングでの不正送金であり、その被害者の中心が子どもだとは書かれていません。「7,190件」を子どもの危険度としてそのまま読むことはできません。この記事が使っているのは、件数の大きさではなく手口の内訳のほうです。
ふたつめは、手口別の内訳が「検挙された事案」の内訳だという点です。検挙に至らなかった事案の構成比は、これとは違う可能性があります。したがって「パスワードの設定・管理の甘さが全体の何割」と言い切ることはできません。読み取れるのは、検挙された事案のなかで最も多い入口がそこだった、という事実までです。それでも家庭にとって意味があるのは、そこが家庭の側で手を打てる領域だからです。
みっつめは、10代の被疑者数の読み方です。14〜19歳が81人(32.7%)というのは検挙人員に占める割合であり、10代全体のなかでそういう行為をする子の割合を示すものではありません。大多数の子は関係がない、というのが実際のところです。この数字は、子どもを疑うために使うものではなく、「アカウントに勝手に入る行為は、法律の対象になりうる」と伝える根拠として使うのが適切だと思います。あわせて、統計や制度の内容は公表時点のものです。各サービスの認証方式も変わっていくため、実際に設定する際は各公式サイトで最新の案内をご確認ください。
家庭で試す3つの工夫
ここからは、今週のうちに実行できる大きさに絞ります。すべてのアカウントを作り直す必要はありません。順番をつけて、上から手をつける形にします。
家庭で試す3つの工夫
- ① まず「いくつあるか」を紙に書き出す:対策の前に、対象を確かめます。学校のGIGA端末、ゲーム機、動画サービス、SNS、学習アプリ、通販、それに親のスマホに紐づいているもの。子どもと一緒に、思いつくまま名前だけを書き出していきます。このとき、パスワードそのものは書きません。書くのは「サービス名」と「誰が使っているか」だけです。こども家庭庁の調査でスマートフォン78.5%、GIGA端末72.7%、ゲーム機66.2%と機器が重なっていたように、たいていは思ったより多く出てきます。書き出したら、お金が動くものと他人とやりとりできるものに印をつけてください。この2種類が、乗っ取られたときの影響がいちばん大きいものです。全部を直そうとすると挫折するので、印のついたものだけを次の対象にします。
- ② 印をつけたものから、作り直して多要素認証を足す:総務省の事例集は、制限がなければ10ケタ以上で英数字や記号を入れることを挙げ、名前・誕生日・好きなもの・「123456」のような並びを避けるよう書いています。ここで役に立つのが、家族や友達が知らない言葉を土台にする方法です。子ども自身に「クラスの誰も知らない言葉」を考えてもらい、そこに数字と記号を足す。作った文字列は親が確認せず、次の③の保管方法にゆだねます。そして、同じ作業のついでに多要素認証を設定します。IPAの不正ログイン対策特集ページには、主要サービスごとの設定手順へのリンクがまとまっています。パスワードを長くする効果には限界がありますが、多要素認証は、パスワードが漏れたあとでも一枚の壁として残ります。
- ③ 保管場所と「教えない」を、家族で言葉にする:保管については、紙に書いて家の中の決まった場所にしまう方法が、家庭では説明しやすいと思います。警察庁等の資料が注意を促しているのは、インターネット上のメモアプリなどに保存していた情報が窃取されたケースがあることでした。学校から配られたIDとパスワードの紙も、筆箱やランドセルの中ではなく家の保管場所へ移します。そのうえで、「教えない」を一度だけ、はっきり言葉にしてください。総務省の事例集は、IDやパスワードを人に教えることを「自分の家の鍵を渡してしまうようなもの」と表現し、友達やゲーム仲間でも教えないことを挙げています。同時に、逆向きの約束も伝えておきます。人のIDとパスワードを使ってログインする行為は、法律の対象になりうること。統計上、検挙人員の32.7%が14〜19歳だったこと。脅すためではなく、「知らずにやってしまう」を防ぐためです。
声かけの言い換え
この話題は、切り出し方によって「疑われている」と受け取られやすいところがあります。よくある4つの場面を並べます。
声かけの言い換え例
「パスワード、何にしてるの? 言ってごらん」→ 中身を聞き出す形になり、「親には教えるもの」という前例を作ってしまう。誰にも教えないという約束と矛盾する。
「中身は聞かないよ。10文字より長いかと、誕生日を使っていないかだけ教えて」→ 確認する対象を条件だけに絞る言い方。総務省の事例集が挙げる「10ケタ以上」「誕生日を避ける」に対応している。
「そんな簡単なのにするから危ないんでしょ」→ 起きたことの原因を子どもの性格に帰する言い方。次に困ったときに相談されにくくなる。
「よくある入り方みたいだよ。検挙された事案でもいちばん多い手口だって。一緒に作り直そうか」→ 起きたことを一般的な事象として扱い、作業のほうへ向ける言い方。責任追及ではなく復旧の話にする。
チェックリスト
家庭で確認したいチェックリスト
- 家にあるアカウントを紙に書き出し、お金が動くもの・他人とやりとりできるものに印をつけた。
- 印をつけたアカウントのパスワードに、名前・誕生日・出席番号・好きなものの名前を使っていない。
- 印をつけたアカウントのうち、少なくとも一つで多要素認証を設定した。
- パスワードを書いた紙の置き場所を決め、学校から配られたIDの紙も家の中で保管している。
- 「友達にも教えない」と「人のIDでログインしない」の両方を、家族で一度言葉にした。
気をつけたいこと・相談先
家庭の工夫だけで抱え込まないために
ここで紹介したのは「一つの考え方」であり、すべての家庭にそのまま当てはまるものではありません。子どもの年齢、使っているサービス、学校から配られた端末の運用ルールによって、できることは変わります。学校の端末については、IDやパスワードの扱いが学校や教育委員会の規定で決まっていることがあります。家庭の判断で変更する前に、学校からの案内や配布物をご確認ください。また、この記事はパスワードの安全性を評価したり、特定のサービスや管理ツールを推奨したりするものではありません。
アカウントが乗っ取られたと感じたときは、家庭内だけで原因を探すより先に、相談先を持っておいてください。技術的な相談については、IPAが「情報セキュリティ安心相談窓口」を設けており、ウイルスや不正アクセスに関する一般的な相談を受け付けています(電話 03-5978-7509、受付時間 10時00分から17時00分、土日祝日・年末年始を除く。メールでも受付)。犯罪被害の可能性がある場合は、警察庁の「サイバー事案に関する相談窓口」のページから、都道府県警察の相談窓口を確認できます。学校の端末や、学校の友人関係が関わる場合は、学級担任やスクールカウンセラーも入り口になります。どこから相談してよいか分からないときは、複数の入り口を控えておくと動きやすくなります。
もう一点、子ども自身の受け止め方についてです。乗っ取りは、本人の落ち度としてではなく、起こりうる事故として扱うほうが、その後の相談につながりやすいと思います。総務省の事例集の事例13でも、被害の中心は金銭ではなく、身に覚えのない投稿によって友人関係が壊れかけたことでした。子どもが「自分が悪い」と抱え込むと、次に何かあっても言い出せなくなります。困ったときに家庭へ持ち込める状態をつくることは、パスワードの長さと同じくらい実際的な備えだと考えています。なお、本記事に記載した統計・制度・窓口の情報は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。
出典・参考
- 国家公安委員会・総務大臣・経済産業大臣「不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況」(令和8年3月12日公表・令和7年分)
- 総務省「インターネットトラブル事例集(2026年版)」事例13「覚えやすいIDとパスワードを設定したら」
- こども家庭庁「令和7年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果(概要)」(令和8年3月)
- IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「不正ログイン対策特集ページ」
- IPA「情報セキュリティ安心相談窓口」/警察庁「サイバー事案に関する相談窓口」
この記事について
本記事は、子どものIDとパスワードの扱いについて、国家公安委員会・総務大臣・経済産業大臣による公表資料、総務省の教材、こども家庭庁の調査、IPAの公開情報をもとに、一般的な情報として整理したものです。特定のサービスやパスワード管理ツールを推奨するものではなく、個々の家庭のセキュリティ状態を評価・診断するものでもありません。記載した統計や制度、相談窓口の情報は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。学校から配布された端末のID・パスワードの取り扱いは学校や教育委員会の規定によりますので、変更等の前に学校からの案内をご確認ください。実際に被害が疑われるときは、各サービスの案内に従うとともに、上記の相談窓口や警察へご相談ください。