3行まとめ
- 国の推計では、高齢者の約3.6人に1人が認知症か軽度認知障害(MCI)。認知症は誰もがなり得るものとして、家族の中で話題にしてよい。
- 同じ質問をくり返す、物を盗まれたと疑うといった変化は、本人の性格ではなく病気によるものとして子どもに伝える。
- 「何もできなくなる」とは考えず、本人ができることを一緒に続ける。介護の役割を子どもに背負わせすぎず、地域包括支援センターなどに相談する。
この記事でわかること
- 認知症と軽度認知障害の人数(国の推計)
- 加齢によるもの忘れと、認知症によるもの忘れの違い
- 国が示す「新しい認知症観」の考え方
- 子どもへの伝え方と、言い換えの例
- 家族が相談できる窓口
「おばあちゃん、変だよ」と言われた日
週末に祖母の家へ行った帰り道、小学3年の息子が「おばあちゃん、学校のこと3回も聞いてきた。ぼくの話、聞いてないのかな」と言った。最近、祖母は「財布がなくなった、誰かが持っていった」と電話をかけてくることもある。病院で認知症と言われたばかりで、父親自身もまだ気持ちの整理がついていない。子どもに何をどこまで話せばいいのか分からず、「年だからね」とだけ答えてしまった。
子どもは、会うたびに祖父母の様子の違いに気づくことがあります。説明がないままだと、「自分の話がつまらないのかな」「おばあちゃんが意地悪になった」と、自分なりの理由をつけてしまうかもしれません。変化に理由があることを、子どもに分かる言葉で伝えることが最初の一歩になります。
高齢者の約3.6人に1人が、認知症か軽度認知障害
厚生労働省が九州大学の研究をもとにまとめた推計によると、2022年の65歳以上の認知症の人は443.2万人(有病率12.3%)、軽度認知障害(MCI)の人は558.5万人(15.5%)です。軽度認知障害は、もの忘れなどはあるものの日常生活は自立していて、認知症とは診断されない状態をいいます。認知症施策推進基本計画は、両方を合わせると1,000万人を超え、高齢者の約3.6人に1人にあたるとしています。2040年には認知症の高齢者が584.2万人になると推計されています。
政府広報オンラインは、年をとれば誰にでも起こる「加齢によるもの忘れ」と、認知症によるもの忘れは違うと説明しています。加齢では、朝ごはんを食べたことは覚えていてメニューが思い出せない。認知症では、食べたこと自体を忘れている。加齢では忘れた自覚があり、進み方もごくゆっくりですが、認知症では自覚がないことが多く、症状が進みます(初期には自覚があることも少なくありません)。
うつや、せん妄と呼ばれる一時的な意識の乱れ、甲状腺の病気などでも、認知症に似た状態になることがあります。同じページは、だからこそ早めに適切な診断を受けることが大切だとしています。
子どもに、認知症のことを話したほうがいいですか
年齢に合った言葉で話すことを、一つの考え方として勧めます。国も、家族が認知症であることを隠すのではなく、周囲に伝えることを前提にしています。2024年12月に閣議決定された認知症施策推進基本計画は、誰もが認知症になり得る今、自分や家族が認知症であることを周囲に伝え、自分らしい暮らしを続けるにはどうすべきかを考える時代が来ている、としています。学校教育でも、子どもが地域の認知症の人と関わり、理解を深める取り組みを進めるとしています。
子どもへの説明では、変化が病気によるものだと伝えることが要になります。「認知症の人と家族の会」が家族の経験からまとめた「早期発見のめやす」には、同じことを何度も言う・問う、財布や通帳を盗まれたと人を疑う、ささいなことで怒りっぽくなる、ひとりになると怖がる、といった言動が並びます。こうした変化は本人のわがままや、子どもへの気持ちが変わったせいではありません。そう知っておくと、子どもは同じ質問をされたときに、自分が悪いのだと受け取らずにすみます。認知症の症状は進んでいくものなので、説明は一度で終わらせず、祖父母の様子が変わったときや子どもが疑問を口にしたときに、その都度話し直してかまいません。
「何もできなくなる」ではない、という見方
基本計画は、認知症になると何も分からなくなり、できなくなるという考え方がいまも根強く残っていると指摘しています。そのうえで示されたのが「新しい認知症観」です。認知症になってからも、一人一人にできることややりたいことがあり、地域で仲間とつながりながら、希望を持って自分らしく暮らし続けられるという考え方です。
子どもに伝えるときも、「おばあちゃんはもう何も分からない」ではなく、「覚えておくのは苦手になったけれど、編み物は今も上手だよ」のように、できることに目を向けた言い方ができます。病気を知ったあとも、祖父母と孫が一緒に過ごす時間を減らさずにすむように考えることができます。
次の3つは、家庭で取り入れやすい工夫です。
家庭で試す3つの工夫
- 病気の名前と、変化の理由を短く伝える:「認知症という脳の病気で、新しいことを覚えておくのが難しくなっているんだよ」と、子どもの年齢に合わせて話します。
- 一緒にできることを続ける:散歩、昔の写真を見る、料理の手伝いを頼むなど、祖父母が得意なことを孫と一緒にする時間をつくります。
- 子どもの気持ちを聞く時間をとる:「怖かった」「悲しい」と感じるのは自然なことです。帰り道などに、どう感じたかを聞いて受け止めます。
声かけの言い換え例
- 「年だから仕方ないの」→理由が分からず、子どもの不安が残る。
- 「病気のせいで覚えておくのが難しいんだよ。あなたの話がいやなわけじゃないよ」→自分のせいではないと分かる。
- 「さっきも言ったでしょ、って言っちゃだめ」→子どもが困ったときの返し方が分からない。
- 「同じことを聞かれたら、初めてみたいにもう一度答えてあげてね」→子どもにできることが見える。
- 「おばあちゃんはもう何も分からないから」→本人を遠ざけてしまう。
- 「昔の話はよく覚えているから、写真を見ながら聞いてみようか」→できることに目が向く。
- 「お姉ちゃんなんだから、おじいちゃんの面倒を見てね」→子どもに役割を背負わせすぎる。
- 「困ったことがあったら、すぐ大人を呼んでね」→大人が引き受けることが伝わる。
家庭で確認するチェックリスト
- 子どもに、病気の名前と変化の理由を伝えた。
- 同じことを聞かれたときの返し方を、子どもと話した。
- 祖父母と一緒にできることを、家族で考えた。
- 子どもが感じたことを聞く時間をとった。
- 住んでいる地域の地域包括支援センターの連絡先を調べた。
家庭の工夫だけで抱え込まないために
この記事は、家族が認知症になったときの子どもへの伝え方を整理したもので、認知症かどうかや病気の程度を判断するものではありません。「早期発見のめやす」も医学的な診断基準ではなく、思い当たることがあれば専門家に相談する目安です。気になる変化があれば、かかりつけ医やもの忘れ外来に相談する選択肢があります。
介護や暮らしの困りごとは、全ての市町村にある地域包括支援センターに相談できます。厚生労働省の相談先ページには、認知症の人と家族の会の電話相談(0120-294-456、月〜金の10〜15時、祝日除く。携帯電話からは050-5358-6578・通話料有料)や、65歳未満の人と家族向けの若年性認知症専用コールセンター(0800-100-2707)も載っています。番号や受付時間は変わることがあるので、最新は公式ページで確かめてください。
同居や介護が始まると、子どもが見守りや家事を担う場面が増えることがあります。年齢に見合わない負担になっていないか、ときどき確かめます。子どもの元気がない、学校の様子が変わったと感じたら、担任やスクールカウンセラーに相談できます。
よくある質問
- 祖父母が認知症になったことを、子どもに隠したほうがいいですか。
- 隠さず、年齢に合った言葉で伝えることを一つの考え方として勧めます。認知症施策推進基本計画は、家族が認知症であることを周囲に伝え、自分らしい暮らしを続ける方法を考える時代が来ているとしています。同じ質問をくり返すなどの変化が病気によるものだと伝えます。
- 年をとったもの忘れと、認知症のもの忘れはどう違いますか。
- 政府広報オンラインは、加齢では体験の一部を忘れ、認知症では体験そのものを忘れると説明しています。朝ごはんのメニューを思い出せないのは加齢によるもの忘れ、食べたこと自体を忘れるのは認知症によるもの忘れの例です。ただし判断は専門家に相談します。
- 認知症のことは、どこに相談すればいいですか。
- 介護や暮らしの困りごとは、全ての市町村にある地域包括支援センターに相談できます。認知症の人と家族の会の電話相談(0120-294-456、月〜金の10〜15時)もあります。気になる変化については、かかりつけ医やもの忘れ外来に相談する方法もあります。
出典・参考
- 厚生労働省「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」
この出典で確認した記述
全2ページ。PDF1ページに「資料:『認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究』(令和5年度老人保健事業推進費等補助金 九州大学 二宮利治教授)より厚生労働省にて作成」。表に令和4年(2022)「認知症高齢者数 443.2万人」「高齢者における認知症有病率 12.3%」、令和22年(2040)「584.2万人」「14.9%」。「MCI高齢者数 558.5万人」「高齢者におけるMCI有病率 15.5%」。「2022年に認知症の地域悉皆調査(調査率80%以上)を実施した4地域(福岡県久山町、石川県中島町、愛媛県中山町、島根県海士町)において、新たに推計した」。注に「軽度認知障害(MCI):もの忘れなどの軽度認知機能障害が認められるが、日常生活は自立しているため、認知症とは診断されない状態」。「認知症とMCIの有病率の合計値は約28%(2022年時点)であり、『誰もが認知症になり得る』という認識のもと」。PDF2ページに2022年有病率調査として65歳以上高齢者3603万人・認知症443万人・軽度認知障害559万人。本文の「約3.6人に1人」節1段落目、3行まとめ1つ目はこれによる。 - 内閣官房「認知症施策推進基本計画」(2024年12月3日閣議決定)
この出典で確認した記述
全31ページ。印刷ページ=PDFページ−3。PDF4ページ(印刷1)前文に「令和4(2022)年の認知症の高齢者数は約443万人、軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)の高齢者数は約559万人と推計され、その合計は1,000万人を超え、高齢者の約3.6人に1人が認知症又はその予備群といえる状況にある」「認知症になると何も分からなくなり、できなくなるという考え方が現在も根強く残っており」「今や国民誰もが認知症になり得るという状況に鑑みれば、国民一人一人が認知症を自分ごととして理解し、自分自身やその家族が認知症であることを周囲に伝え、自分らしい暮らしを続けていくためにはどうすべきか、考える時代が来ている」。PDF5ページ(印刷2)に共生社会の実現を推進するための認知症基本法が令和5年6月に成立し「本年1月に施行された」、「『新しい認知症観』とは、認知症になったら何もできなくなるのではなく、認知症になってからも、一人一人が個人としてできること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間等とつながりながら、希望を持って自分らしく暮らし続けることができるという考え方である」。PDF10ページ(印刷7)「(1) 学校教育における認知症に関する知識及び認知症の人に関する理解を深める教育の推進」に「こども・学生やその他の学校関係者が、地域の認知症の人と関わることで、『新しい認知症観』の実感的理解を深められるよう、認知症の人の参画も得ながら、認知症サポーター養成講座や、認知症に関する地域に密着した継続的な教育・交流活動を実施する」。PDF19ページ(印刷16)「6.相談体制の整備等」に地域包括支援センター、認知症疾患医療センター等の相談体制の整備。本文の「約3.6人に1人」節1段落目、「話したほうがいいですか」節1段落目、「何もできなくなる」節、よくある質問1つ目はこれによる。掲載ページ(内閣官房 認知症施策推進本部): https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ninchisho_suishinhonbu/index.html - 政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」(2025年1月16日)
この出典で確認した記述
「『認知症』とは、様々な病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に変化し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障を来した状態をいいます」。「『加齢によるもの忘れ』と『認知症によるもの忘れ』の違い」として、加齢によるもの忘れ「体験したことの一部を忘れる。例)朝ごはんを食べたことは覚えているがメニューが思い出せない。」「もの忘れの自覚がある。」「症状は極めて徐々にしか進行しない。」、認知症によるもの忘れ「体験したことの全てを忘れている。例)朝ごはんを食べたこと自体を忘れている。」「もの忘れの自覚がない(初期には自覚があることが少なくない)。」「症状は進行する。」「※ここに挙げたものは一例です」。「認知症とよく似た状態(うつ、せん妄)や、認知症の状態を引き起こす体の病気も様々あるため(甲状腺機能低下症など)、早期に適切な診断を受けることが大切です」。相談先として地域包括支援センター、かかりつけ医、医療機関のもの忘れ外来、認知症の人と家族の会。同ページは認知症とMCIの割合を「約12%」「約16%」、合わせて「3人に1人」と概数で示しているが、本文は厚生労働省の推計値と基本計画の「約3.6人に1人」を用いた。本文の「約3.6人に1人」節2〜3段落目、図1、気をつけたいこと1段落目、よくある質問2つ目はこれによる。(旧URL https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201308/1.html は本ページへ転送される) - 公益社団法人 認知症の人と家族の会「家族がつくった『認知症』早期発見のめやす」
この出典で確認した記述
「日常の暮らしの中で、認知症ではないかと思われる言動を、『家族の会』の会員の経験からまとめたものです。医学的な診断基準ではありませんが、暮らしの中での目安として参考にしてください。いくつか思い当たることがあれば、一応専門家に相談してみることがよいでしょう」。20項目のうち「もの忘れがひどい」に「同じことを何度も言う・問う・する」「財布・通帳・衣類などを盗まれたと人を疑う」、「時間・場所がわからない」に「約束の日時や場所を間違えるようになった」「慣れた道でも迷うことがある」、「人柄が変わる」に「些細なことで怒りっぽくなった」、「不安感が強い」に「ひとりになると怖がったり寂しがったりする」「外出時、持ち物を何度も確かめる」。政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」も同じめやすを出典明記のうえ掲載している。本文の「話したほうがいいですか」節2段落目、図2、気をつけたいこと1段落目はこれによる。図2は20項目から子どもが気づきやすいものを編集部が抜き出して4つに分けた。 - 厚生労働省「認知症に関する相談先」
この出典で確認した記述
「『もしかして認知症では』と思われる症状に気づいたとき、介護について悩んだときに相談できる主な相談先です」「一人で悩まず、相談してみてください」。地域包括支援センターについて「保健医療・介護に関する相談を行うほか、相談内容に応じて、認知症に詳しい認知症疾患医療センターや認知症初期支援チームなどの関係機関とも連携しながら」「地域包括支援センターは、全ての市町村に設置されています。市町村ごとに名称が異なることもあります」。電話相談として「認知症に関する電話相談(公益社団法人 認知症の人と家族の会)電話番号 0120-294-456(フリーダイヤル)※携帯電話・PHSの場合は050-5358-6578(通話有料)受付時間:午前10時~午後3時(月~金 ※祝日除く)」「このほか、全国47か所の支部でも電話相談を受け付けています」。「若年性認知症専用コールセンター(認知症介護研究・研修大府センター)電話番号:0800-100-2707(フリーダイヤル)受付時間:午前10時~午後3時(月~土 ※年末年始、祝日除く)※65才未満の認知症の人やご家族の相談に応じています」。本文の気をつけたいこと2段落目、チェックリスト5つ目、よくある質問3つ目はこれによる。
この記事について
本記事は家庭での関わりを整理した一般的な情報であり、医療・発達・心理の診断や治療の判断に代わるものではありません。研究知見や公的資料は「一つの考え方」として紹介しており、家庭ごとに合う・合わないがあります。お子さんの状態が気になる場合は、専門機関や学校にご相談ください。制度・統計の内容は各資料の公表時点のものであり、更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。